黒字になる「新しい林業」を20か所程度で実証、国有林でも試行
前編に続いて、林野庁の来年度(2022(令和4)年度)予算概算要求の中身を解きほぐしていこう。今回は非公共事業にスポットを当てる。最大の目玉は、既存事業を組み直して224億円を要求した「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策」だ(以下「グリーン成長総合対策」と略)。6月に閣議決定した新しい森林・林業基本計画を実行するための各種事業を総合対策としてパッケージ化した。
「グリーン成長総合対策」の中で筆頭格に位置づけられているのが15億円で新規要求した「『新しい林業』に向けた林業経営育成対策」だ。林業経営問題を特集した最新版『森林・林業白書』によれば、エリートツリーの低密度植栽(1,500本/ha)や自動化機械の導入など「新しい林業」に転換すればha当たり113万円の“黒字”になる。これを現場で実証し、次世代型経営モデルを構築・普及していくのが狙いだ。全国20か所程度で経営体を募集し、先駆的な取り組みを支援していくことにしている。
現在実施中の「林業成長産業化地域創出モデル事業」の事業期間は来年度いっぱいで終わる。それに代わって、林業経営の改革に焦点を当てたモデル事業がスタートするわけだ。
なお、民有林だけでなく「国有林活用型生産・造林モデル事業」も1憶5,400万円で予算要求をしており、民・国双方のフィールドで高収益型林業経営に挑む構図となる。
協定締結者を優先採択、モノ不足対応の加工施設整備を支援
「グリーン成長総合対策」の傘の下には、今年度の重点事業である「林業・木材産業成長産業化促進対策」や「林業イノベーション推進総合対策」なども入っている。
川下対策については、ネーミングを「建築用木材供給・利用強化対策」に変更して22億円を要求した。6月に公共建築物等木材利用促進法(木促法)が改正され、民間の建築物についても木造・木質化を進めることが重点課題になった。これを踏まえ、同法で新設される「建築物木材利用促進協定制度」の締結者については、補助事業等で優先的に採択する方針だ。
同対策ではこのほかに、木質耐火部材等の利用実証事業の対象者に設計者を追加し、CLT製造企業との連携強化やCLTパネルの標準化、大径材の活用、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を使った設計・施工の普及など幅広なメニューを盛り込んでいる。
また、「木材需要の創出・輸出力強化対策」についても6億1,500万円を要求しており、木質バイオマスの熱利用や木材製品の輸出、流通木材の合法性確認システムの構築、広葉樹や特用林産物の利用促進事業などに取り組む予定だ。
輸入モノをはじめとした木材製品の不足と価格高騰対策に関しては、川上~川下の関係事業者が需給情報などを共有できる連絡協議会を中央及び全国7地区で開催するとともに、サプライチェーンマネジメント(SCM)事業のネットワークも活用していくことにしている。
外材製品が思うように入ってこない現状は、国産材製品がシェアを奪回する好機であり、加工施設等の整備支援事業も「グリーン成長総合対策」の中にメニュー化されている。
ただし、要件がついている。それは、前述の協定締結者や「需要動向の変化に対応しうる供給力強化を図る施設整備を優先的に採択」すること。マーケットニーズに合わない案件に補助金は出せないという意味だ。
1億本植樹の国民運動展開、外国人材も含め技能検定試行
非公共事業の新規目玉がもう1つある。これも既存事業を組み替えて打ち出した「カーボンニュートラル実現に向けた国民運動展開対策」だ。2030年度までに1億本を植樹する目標を掲げて6億4,800万円を要求した。森林づくりを希望する企業などと植栽場所のマッチングや、エリートツリーなど優良種苗を普及するプロモーション活動を支援する。
木材利用に関しても、建築物等の木造・木質化キャンペーンを「ウッドチェンジ・アクション」として展開し、地域材の選択的購入を呼びかける「木づかい運動」を推進することにしている。
新規事業ではないが、「『緑の人づくり』総合支援対策」(要求額53億円)では、外国人材の受け入れを睨んだ技能検定制度の創設支援を継続する。
全国森林組合連合会が中心となって取り組んでいる林業版技能検定制度の立ち上げは、今年度中に全国5か所で試行試験を実施するところまで漕ぎつけた。だが、厚生労働省の基準をクリアするためには、全国で1,000人規模の試験ができる体制整備が必要だ。担当の林野庁林業労働・経営対策室は、「来年度と再来年度で、できるだけ実績を増やしていきたい」と話している。
このほか、「森林・山村多面的機能発揮対策」は、前年度と同額の14億円を要求し、里山林整備などを行う活動組織を支援しながら、関係人口の創出も目指す方針。
「花粉発生源対策推進事業」(要求額2億円)も事業メニューを保って継続する。
「シカ等による森林被害緊急対策事業」(要求額2億円)では、新たに「シカ広域捕獲支援事業」を要求額3,000万円で創設し、市町村をまたいで予防的なシカ捕獲を行う際の生息調査や専門家の派遣などソフト経費を支援する。また、これまで蓄積されてきた捕獲技術を横展開して普及を図る「シカ捕獲効率向上対策事業」も前年度より1,000万円増の2,800万円で要求した。
以上、最後は駆け足になったが予算要求の要点解説を終える。
(2021年8月31日取材)
詠み人知らず
どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。