(前編)オフィス家具でセンダンを活かすプラス【遠藤日雄のルポ&対論】

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国産材の用途拡大に向けた有力分野の1つに、オフィス家具がある。環境問題などへの対応を急ぐ国内の主要なオフィス家具メーカーは、リユース・リサイクルの推進やサステナブルな製品の開発などに注力している。その一環として、国内森林資源の有効活用がビジネスを拡張する上での重要課題に浮上しており、専門部署やスタッフを配置する企業も増えてきている。
そうしたオフィス家具メーカーの最新動向を知るために、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、プラス(株)(東京都港区、今泉忠久・代表取締役社長)の取り組みを探ることにした。8月25日に東京都内で開催された早生樹に関するシンポジウム(第756号参照)で、同社営業本部ホスピタリティ事業部の担当部長である伊藤大介氏がセンダンの活用について報告を行ったことが強く印象に残ったからだ。海外メーカーや異業種の参入などでオフィス家具市場の競争は一段と激しさを増している。その中で、なぜ同社は同業他社に先んじて早生広葉樹のセンダンの本格採用に踏み切ったのか。遠藤理事長がトップ企業の戦略と“本音”を聞き出す。

ショールーム兼オフィスの「共創空間」で新たな働き方を提案

プラスは、47の子会社とともに企業グループを形成しており、オフィス家具と並んで、文具・事務用品の企画・製造・販売も主力事業にしている。国内外に直営ショップやショールーム、工場、物流センターなどを展開し、直近の年間売上高(年商)は同社単体で953億円、グループ会社を合わせると2,366億円、従業員数は同社だけで1,483名、グループ全体では8,070名(2024年12月時点)になる。

オフィス家具部門の拠点となっているのは、東京都の渋谷区と目黒区にまたがる大型複合施設「恵比寿ガーデンプレイス」の中にある「PLUS DESIGN CROSS(プラスデザインクロス)」だ。2,000m2近い広々としたフロアに各種のオフィス家具とともに様々な樹木が配置されており、都市公園のような空間ができている。そこで伊藤部長が遠藤理事長を出迎えた。

遠藤理事長

都心のビルの中にいるとは思えないような空間だ。ここはショールームなのか。

伊藤部長

ショールームとオフィスを兼ねた「共創空間」として運営している。ここで弊社の社員が通常業務をしながら、社外の方々とも自由に交流している。

遠藤

ということは、ここは仕事場でもあるわけか。オフィス家具メーカーの事務所にしては、随分と開放的だ。

伊藤

「PLUS DESING CROSS」は、弊社のファニチャー事業拠点として2022年12月にオープンした。
弊社の製品が実際にどのように使われているのかをリアリティを持ってご理解いただけるようなスペースにしている。ここで働く社員は、出社率50%を前提に、フリーアドレスを基本にして業務を行っている。ここを開設した背景には、デジタル化の進展やコロナ禍などによって働き方が変わり、オフィスのデザインも変わる必要があるという時代認識がある。

スチール製品だけでは時代の要請に応えられず、市場も変化

遠藤

なるほど。オフィス家具メーカーのあり方が時代とともに変貌してきていることが実感できる。その中で、国産材、それも早生広葉樹のセンダンを家具用材として利用している理由や現状などについて聞きたい。オフィス家具というと、スチール(金属)製の製品が主流ではないのか。

伊藤

確かに、スチール(金属)製の製品は、強度や耐久性が高く、品揃えが豊富で価格も安定しているので、市場シェアの大半を占めている。これからもオフィス家具のスタンダード製品であり続けるだろう。しかし、それだけに頼っていては、時代の要請に応えられなくなってきている。

遠藤

それは、環境問題への対応を迫られているということか。

伊藤

環境問題も含めて様々な社会課題が生じており、オフィス家具メーカーとしてもその解決に乗り出さなければ、企業としての存続が難しくなるという現実がある。

伊藤大介・プラス営業本部ホスピタリティ事業部製作部設計課担当部長
遠藤

そこまで強い危機感を持っているのか。

伊藤

弊社がオフィス家具用材として国内の木材、とくに天然木の利用に本格的に着手したのは2021年だった。その前年(2020年)には政府が「カーボン・ニュートラル宣言」をし、翌21年には「都市(まち)の木造化推進法」が改正されて、民間建築物についても木材を積極的に利用する方針が示された。一方で、気候変動に伴う豪雨災害や土砂災害が多発するようになり、木材利用を通じて国内の森林の健全化に貢献することが、企業や社会における新たなスタンダードになってきた。
こうした要因に加えて、オフィス家具市場の変化に対応するためにも、製品に国産の天然木を取り入れることが必要になった。

遠藤

オフィス家具市場の変化とは、具体的にどういうことか。

伊藤

大きな変化をもたらしたのは、コロナ禍だ。テレワーク(在宅勤務)が一般化し、オフィス不要論のような意見も聞かれるようになった。総じてオフィスとホーム(家)の境界が曖昧になり、家具ブランドも入り混じるような市場構造になった。
だが、そもそも家にあるホームファニチャーは仕事用にはつくられていない。したがって、使い勝手はもう1つで、長時間の業務をすると疲れてしまう側面もある。それではとスチール製の無機質なオフィス家具を家に持ち込んでも、そのままではインテリアに調和しない。そこで、人にやさしく、二酸化炭素(CO2)の吸収・固定能力も高い国産の天然木を利用して、「人と地球=森を元気にする」製品の開発に取り組んだ。

福岡・大川家具工業会と連携し、独自の工夫で製品化果たす

遠藤

そうした経緯でセンダンを使うことにしたのか。

伊藤

まずはじめは利用期を迎えている国内のスギやヒノキを使うことを考えた。しかし、スギやヒノキなどの針葉樹は材質が柔らかいので、耐久性が求められるオフィス家具にはあまり向かない。そこで、国内の広葉樹で使えるものはないかと探しているときに、福岡県大川市の協同組合福岡・大川家具工業会による持続可能なサイクルを構築する取り組み「センダンサイクル」のことを知り、弊社も参画させてもらうことになった。
早生樹のセンダンは成長が早いのでCO2の吸収能力も高く、広葉樹ならでは強度があるため、テーブル天板の表面材などに利用できる。また、センダンには特有の力強い木目があり、これを活かせば他の樹種にはない個性的な製品ができる。そこで試作品をつくり、2021年の末に東京都内のショールームに展示してみた。

遠藤

それがセンダンを使ったオフィス家具のデビューだったわけか。評判はどうだったのか。

センダンとスチールを融合させた「Vicenda Series」(画像提供:プラス)
伊藤

脱炭素社会の実現につながる新製品としての評価を得た。デザイン面でも、センダンのダイナミックな木目はオフィス空間に自然の力強さとアクセントをもたらすとして、概ね好意的に迎えられた。その一方で、ショールームのような空調が効いた環境下では、湿度や温度の変化によってセンダンを使った天板に変形が生じることも確認された。
そこで、福岡・大川家具工業会と連携して独自の工夫をいろいろと重ねて、「Vicenda Series(ヴィチェンダシリーズ)」として製品化することができた。

遠藤

その独自の工夫について、詳しく教えて欲しい。(後編につづく)

(2025年9月5日取材)

(トップ画像=「PLUS DESIGN CROSS」のエントランス部分、画像提供:プラス)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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