高品質・高級路線を徹底し道産広葉樹を活かす滝澤ベニヤ【突撃レポート】

高品質・高級路線を徹底し道産広葉樹を活かす滝澤ベニヤ【突撃レポート】

北海道芦別市に本社を置く合板メーカー・(株)滝澤ベニヤ(滝澤量久社長)が高品質・高級路線を徹底して、独自のマーケットを切り拓いている。看板製品である「シナ共芯合板」はm3当たり約30万円、色紙と単板を組み合わせた「Paper-Wood(ペーパーウッド)」は約80万円の高価格帯を維持しており、オンリーワン企業としての存在感を高めている。(文中敬称略)

抜群の精度を誇る菓子箱用抜型合板、きっかけはグリコ事件

滝澤ベニヤのつくる製品の精度は高い。代表例が道産のシナ材、カバ材を使って製造している菓子箱や牛乳パック用の抜型合板だ。2%以下の誤差しか許されない厳しい注文に応え続け、納入先からの信頼を勝ち得ている。

この分野に進出する契機となったのは、1984年に世を震撼させたグリコ・森永事件だった。毒物の混入を防ぐため、食品メーカーは、梱包箱のサイズを細かく変更し、製造型番を特定しやすくすることが求められた。だが、鉄製やアルミ製の型枠では鋳型の変形コストが嵩むため対応が難しい。当時も合板は使用されていたが、糸鋸加工のため量産体制が整っていなかった。そこにレーザー加工機が普及し、一気に合板に刃を埋め込んだ型枠へとシフトした。

菓子箱などをつくる際に欠かせない滝澤ベニヤの抜型合板

同社は、ハンマーで肉を叩いて柔らかくするように、合板の表裏面に微小な穴を打ち、木材特有の曲がりや反りを取り除く。さらに抜き節や5円玉以上の節があれば、パッチングマシーンで取り除いて埋木を行い、凸凹を一切出さないようにする。合板圧着後はすぐに次の工程に移らず、2週間から1か月外気に触れされ、反りや曲がりを抑える養生期間をとる手間も欠かさない。

専務取締役の瀧澤貴弘(40歳)は、「ここまで精度にこだわりを持っている合板メーカーは少ないのではないか」と自信をみせる。

5,500m3の原木を3工場で加工、好調続く「シナ共芯合板」

滝澤ベニヤは1936年に発足し、今年で創業85年目を迎えている。従業員数は約50名。年間の売上高は約8億円で、その約4分の1が抜型合板、約4分の1が建築・家具用の合板で、残りが山林事業や単板事業となっている。芦別市の本社工場のほかに、富良野工場(富良野市)と旭川工場(上川郡東川町)があり、本社工場で製造した単板を、旭川工場で合板に加工している。年間原木消費量は本社工場が約4,500m3、富良野工場が約1,000m3。現在、単板製造を本社工場に集中させており、今後、富良野工場は木組み仕上げなどの加工工程を担っていく予定だ。

単板を合板に最終加工する旭川工場

抜型合板と並んで同社の看板製品となっているのが「シナ共芯合板」。芯板にもすべてシナ材を使用した高品質な積層合板で、学校など教育施設の本棚やロッカー、下駄箱などに使用されている。木口面をそのまま見せて使え、製品アイテムも増えてきており、とくに本州の設計事務所などからの引き合いが多いという。

シナに続きシラカバ集荷にも暗雲、広葉樹原木の確保が課題

独自の製品と販路を擁する滝澤ベニヤにとって、今後の課題は広葉樹原木の安定的な確保になる。主力のシナ材は、年々収穫量が落ちてきている。その代替として約15年前から製造を行っているのが、シラカバ間伐材を使った「エコシラ合板」だ。開発のきっかけは、欧州産のシラカバ合板が高級家具に使用されていたことだった。「なぜ国産シラカバが使われていないのか疑問を持ち、調査を進めると単に我々が知らなかっただけだとわかり、製造を開始した」と瀧澤は振り返る。

シラカバは蓄積量が増えているとされ、10年ほど前から道内ではシラカバ材活用推進運動が行われている。同社の「エコシラ合板」もこの流れに沿っているように映るが、瀧澤は、「実態は違う。シラカバも年々集荷するのが難しくなっている」と警鐘を発する。シラカバを植樹しても手入れや管理が行き届かないケースや、林地台帳上は存在するが台風で倒されて1本も見当たらない現場があるほか、節や曲がりが多くて使えないシラカバもみられるという。

シナ材やシラカバ材は、色や虫が入るため伐採後1年以内に加工しなければならず、長期ストックができない悩みもある。

最近の材価高騰と品不足の影響も出てきており、トドマツやカラマツ、エゾマツなど針葉樹の原木価格は2割から3割上昇した。「広葉樹より針葉樹の方が高くなると、素材生産業者が針葉樹の伐採に専念するようになるかもしれない」と瀧澤は危機感を募らせている。

瀧澤貴弘・滝澤ベニヤ専務取締役

色付き再生紙と組み合わせ新境地開く、NYでブランド展開

先の見通しづらい状況の中で、滝澤ベニヤが新境地を見出しているのが「Paper-Wood」だ。シナ材、シラカバ材の単板と色付き再生紙を組み合わせた合板で、曲線加工すると独特な表情をみせる。2010年に開発・発売してから着実に販路を広げてきており、現在では15シリーズを展開するまでに育ってきた。

2015年には、林野庁の輸出向け補助事業を活用して、「Paper-Wood」を使用した木工・家具ブランド「PLYWOOD laboratory(プライウッド ラボラトリー)」が発足。当初はフランスに売り込んでいたが、アメリカでの反響が大きく、現在はニューヨークを中心に展開している。「最近はコーポレートカラーを打ち出したいという企業からの問い合わせも増えてきた」と話す瀧澤は、「これからも高品質・高級路線を追求し続け、道産広葉樹の可能性を広げていきたい」と不退転の決意を口にした。

「PLYWOOD laboratory」のスツール、旭川周辺の家具・木工職人などと連携して製作している

『林政ニュース』編集部

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