目次
10か所のうち「申請あり」は6か所、様子見に躊躇(ためら)いも…
2019年6月の国有林法改正で創設された「樹木採取権制度」がようやく現場に降りてきた。2月18日付けで秋田県素材生産流通協同組合(秋田市)が全国初の「樹木採取権者」に選ばれた*1。同協組は、秋田森林管理署が管轄する約191haの「樹木採取区」(大仙市内)で、8年間にわたって皆伐などを独占的に実施できる。事業地を確保するために入札を重ね、年度の“縛り”にも配慮しなければならない現状からすれば画期的なことだ。そこで、この特区的措置が現場にもたらす影響と今後の課題などについて解説していこう。
まず、樹木採取権制度について、簡単におさらいをしておく。面積は200~300ha、権利期間は10年を基本としている。第1弾として10か所の樹木採取区が指定されており、民間事業者の公募が行われてきた。その結果は、表のとおり。樹木採取権者の申請があったのは6か所にとどまり、残りの4か所には誰も手を挙げなかった。なにしろ本邦初の試みであり、コロナ禍やウッドショックなどもあったので、皆さん様子見となったようだ。

そうなのだが、この制度自体が複雑で手続きも面倒なところが申請を躊躇わせている面もある。林野庁は、制度の手引きとなるガイドラインを作成・公表しているが、これを読みこなすだけでも一苦労だ。国有財産である国有林の利活用に風穴を開けるような仕組みであり、何よりも“過伐”を招かないように当局は慎重に制度設計をしてきた。それがゆえに、初動段階では手の挙げづらい状況となったといえる。
協定・契約を結び設定料や樹木料を納めた上で伐採に着手
ともあれ、初の樹木採取権者が誕生し、いよいよ制度を動かす局面に入った。林野庁の担当者も、「やはり実例がないと、どういうものか説明しづらい」と話しており、これからが本番といったところだ。
晴れて樹木採取権者第1号に選ばれた秋田県素材生産流通協同組合は、約90の素材生産業者らで組織しており、合法木材をはじめとした各種の認証を取得しているほか、林業機械化や労働環境の改善、主伐後の確実な再造林などに先駆的に取り組んでいる。「意欲と能力のある林業経営体」のモデルともいえる存在だ。
同協組が取得したのは、秋田森林管理署管内に設定した「大曲・船岡樹木採取区」の樹木採取権。対象面積は190.74ha、採取可能面積は118.52ha。採取区内は30の区画に分かれており、これをどう組み合わせて事業を行っていくかは同協組に委ねられる。ただし、手放しでというわけではない。
樹木採取権者となった同協組は、直ちに東北森林管理局長と運用協定を締結し、権利設定料を納付する。その後、具体的な施業内容に関する実施契約を結び、実行計画に基づいて伐区を設定し、樹木料を納付した後、国有林の伐採ルールに適合した方法で採取(=伐採)を行う。
これでも端折(はしょ)って説明しているのだが、やはり手続きが多い。手数料もかかる。実際に伐採を行うまでには、いろいろありそうだ。まずは同協組の取り組みをウォッチしていくしかないだろう。
確実な植栽を厳守、秋田県素材生産流通協組は2×4材や発電燃料向けにも供給
さて、樹木採取権を現場で行使していくにあたっては、2つの点が検討段階から注目され、議論も重ねられてきた。
1つは、前述した過伐防止対策。もう1つは、川中・川下業界との連携だ。
1つ目の過伐防止については、伐採と造林を一体的に行う一貫作業を実施することが樹木採取権者には求められており、実施契約にも確実に植栽を行う旨が盛り込まれている。伐り逃げは許さないという仕組みになっているわけだ。
もう1つの川中・川下業界との連携に関しては、木材加工会社や住宅・建設会社などと安定取引協定を締結して、新規需要の開拓に取り組むことが要件になっている。
先陣を切って樹木採取権を取得した秋田県素材生産流通協同組合の周辺地域には、大手合板メーカーがあり、新製品の開発なども行っている。また、製材メーカー最大手の中国木材(株)が能代市に新工場を建設するビッグプロジェクトも進行中だ。このほか、集成材メーカーやバイオマス発電所などもある。その中で、同協組は、年間4,000m3程度を伐出し、2×4材や、バイオマス発電の燃料材として供給していく計画だという。
樹木採取権制度が本格的に動き出して最も懸念されるのは、既存のビジネスに影響を及ぼし、混乱させること。当局もこの点にはかなり神経を使っており、樹木採取区から伐出された国有林材がどう流通していくかは注視していく必要があるだろう。
林野庁は来年度(2022年度)予算を使って、収益性の高い「新しい林業」の確立を目指すことにしている(第654号参照)。樹木採取権制度を活用して国有林がそのモデルを示せるか、この点にも目配りしながら今後の推移を追っていこう。
(2022年2月18日取材)
詠み人知らず
どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。