新工場「YSS」で虫害材などを加工し、山全体の価値向上へ
山長商店は昨年(2021年)3月、新しい工場「YSS」(YAMACHO SMART SAWMILL)を稼働させた。近隣で廃業したベイマツ・ベイツガ製材所を買い取り、建屋をリフォームして製材棟と仕上げ加工棟を整備した。製材棟にはノーマン製材機、仕上げ加工棟には乾燥機や4面モルダー、グレーディングマシンなどが設置されている。

同社は、本社工場で柱材や平角材を挽くとともにプレカット加工などを行っている。それに加えて、「YSS」を立ち上げた狙いは何か。榎本会長は、「紀州の山全体の価値を高めていきたいから」と説明する。
「YSS」は、虫害材や小曲がり材などのB材を専門的に受け入れ、加工している。同社の最大の強みは、平均ヤング率がE90という高強度のスギ(A材)を取り扱っていること。その高品質路線とは“別の道”を「YSS」は切り拓いている。
「あかね材」も活かして羽柄材などを生産、木材不足も凌ぐ
山長商店の周りには、充実した人工林資源が存在している。だが、問題もある。スギノアカネトラカミキリによる虫害が広がっているのだ。材価の低迷などで山離れと手入れ不足が進み、枯れ枝からスギノアカネトラカミキリが侵入する食害が増えてきた。虫害木は、通称「あかね材」と呼ばれる。「あかね材」をブランド化しようという動きもあるが、関係者の思惑とは裏腹に低価格で取り引きされているのが実情だ。
ただ、「あかね材」の被害箇所は辺材部に多く、心材部は少ない。心材部は耐久性も高いため、仕分けを徹底することで有効利用でき、適正な価格で丸太(原木)を購入できる。これを実践しているのが「YSS」だ。
「YSS」には5名が勤務しており、虫害材などのB材を間柱や筋交いといった羽柄材のほか、集成材用のラミナに加工している。最大加工能力は、原木ベースで年間約1万5,000m3。稼働から約10か月は加工ラインの調整などに費やしたが、今年2月からは同約1万m3ベースの安定操業に入っている。

榎本会長は、「周囲から『YSS』の稼働はタイミングがよかったと言われる」と話す。ちょうど木材不足と価格高騰が業界を襲った時期だったからだ。同社の本社工場の年間加工量は約3万m3。これに「YSS」の加工能力がプラスしたことで、木材不足の“熱”を冷ますことにつながったという。
千葉県で大型パネル生産、ネットワークを広げ総合力で勝負
山長商店は、植林から工務店サポートまでを手がける山長グループの中核をなす。
山長グループの首都圏における拠点が埼玉県八潮市に本社を置くモック(株)(榎本哲也・代表取締役社長)だ。大消費地の工務店などに住宅資材を販売するとともに、構造計算や断熱性能計算などのサポートも行っている。
モックはこの夏、新たな事業を始める。千葉県で建設している大型パネルの工場が稼働を始める予定だ。在来工法住宅の現場施工を大幅に合理化する大型パネルに関心を寄せる工務店は多い。首都圏における供給網の一角をモックが担うようになれば、大型パネルの普及が一段と加速するとみられている。榎本会長は、「大型パネルは金物を必要とするためプレカットの手間が増える。効率的な加工方法やシステムを考えて、工務店をサポートしていきたい」と意欲を隠さない。
紀州に足場を置き、首都圏にもネットワークを広げる山長グループは、年間約4万m3の原木を消費している。そのうち約1万m3は自社有林から伐出し、約3万m3は原木市場から購入するほか、周辺の共有林などから地上権を購入して伐り出している。
急峻な紀州の山で行う集材作業は、架線がメインになる。このため機械メーカーと協力して、架線集材の自動化につながる油圧式集材機を開発し、現場での利用が定着してきた。
今後も新たに開発される架線集材機を積極的に導入して、「架設の簡素化などシステム全体の合理化と発展を目指す」(榎本会長)方針だ。
和歌山県全体の年間素材(原木)生産量は約26万m3。製材工場などの大規模化が進む中、「この地域で“量”を追求しても限界がある。紀州材の“質”の高さを武器に総合力で勝負していく」(同)というビジネスプランには些かの揺らぎもみられない。

(2022年2月10日取材)
(トップ画像=新工場「YSS」の製材棟(内部))
『林政ニュース』編集部
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