(後編)空知単板工業&全天連の内装木質化戦略【遠藤日雄のルポ&対論】

北海道 木材・木製品製造業

前編からつづく)内装の木質化を進めていくためには、ビニールシート製品などの競合相手に対して差別化を図りながら、ユーザーから信頼される木材製品の供給力を高めていかなければならない。創業50周年を迎えている空知単板工業(株)(北海道赤平市)は、独自の製品開発力を活かして、この課題に挑み続けている。では、同社社長で全国天然木化粧合単板工業協同組合連合会(以下「全天連」と略)の会長でもある松尾和俊氏は、“次の50年”に向けてどのようなビジョンを描いているのか。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長とのリモート「対論」を通じて、新たな戦略の輪郭が明らかになっていく。

木材の質感を出すには厚みも必要、自然なデザインが人気

遠藤理事長

本物の木と見粉(みまご)うようなビニールシート製品がシェアを伸ばしているという現状は看過できない。木材が本来持っている“価値”をマーケットに浸透させていくにはどうすればいいのか。

松尾社長

木材のよさは肌触りや香りなどの質感を中心に訴求していくことが一番だろう。その点で、ツキ板に加工することは、非常に有効な技術だと考えている。建築物などの内装で消費者の目に触れ、手で触れるところは、基本的にツキ板製品でカバーできる。とくに、木目の綺麗な高級感のあるツキ板製品を供給することは、弊社を含めた全天連の活動の柱となっている。

松尾和俊・空知単板工業社長(全国天然木化粧合単板工業協同組合連合会会長)
遠藤

ツキ板というと、天然の木材を非常に薄くスライスしたものというのが一般的なイメージだろう。歴史のある製品であるだけに、新規性を出すには難しさがあるのではないか。

松尾

ツキ板業界は、原木(丸太)をできるだけ薄くスライスして歩留まりを高める技術を追求してきた。しかし、単板をあまりにも薄くしすぎると、印刷したビニールシート製品との違いがなくなってきてしまう。必要な質感を出すための厚みを保つことも重要だ。
全天連の会員が手がけている最近のツキ製品は、マットで自然な塗装で仕上げ、木材の質感がリアルに出るようなつくり方にシフトしてきている。節も白太も入ったラスティックグレードと呼ばれる製品も増えており、素朴さや飾り気のなさを重視したデザインが好まれる傾向にある。

新たな発想で開発した特許製品「ササクレス」が主力に育つ

遠藤

ツキ板製品も時代とともに変わってきているわけか。では、空知単板工業の主力製品はどのようになっているのか。

松尾

現在も積層フロア単板が柱の1つではあるが、体育館などで使用するフローリングの生産量が伸びている。とくに、2年ほど前に発売した特許製品の「ササクレス」が主力製品になってきた。

遠藤

「ササクレス」とは、「ささくれ」がないということか。

松尾

そうだ。体育館などに敷いている木製フローリングで「ささくれ」が起き、木片が刺さって負傷するという事故が起きていた。これを防ぐために開発したのが「ササクレス」だ。

遠藤

そんなに「ささくれ」が多発しているのか。

松尾

体育館の床は普通の床と違い、競技に合わせたラインを引く必要があるので現場で塗装をする。その塗料が環境問題もあって油性から水性に切り替わった。その頃から「ささくれ」問題が多くなった。水性塗料は非常に性能がよく、木材の表面だけではなく隙間にも流れ込んでいって高い粘着力を発揮し、硬化させる。木材は温度や湿度に応じて収縮・膨張するが、油性塗料のときはうまく剥がれてくれていた。ところが、性能のよい水性塗料は剥がれず、木材の弱いところが裂けるようになり、「ささくれ」が起きていた。

遠藤 

そのメカニズムをどうやって解消したのか。

松尾

木製フローリングの側面に、弊社独自の「特殊樹脂塗膜」を施すようにした。木材が収縮・膨張するときに、この「特殊樹脂塗膜」が先行して剥離するので「ささくれ」の発生を抑制できる。従来の施工方法を変更せずに「ささくれ」対策ができ、余計な維持管理コストもかからない。

遠藤

木材の収縮・膨張という特性は残しながら、「特殊樹脂塗膜」で「ささくれ」を防ぐわけか。新しい発想だ。

松尾

現場の担当者が何とかできないかと試行錯誤を続け、5年の歳月を費やして特許を取得し、製品化できた。東京五輪・パラリンピックの体育館の床にも採用され、昨年は「第3回スポーツファシリティーズ大賞(スポーツ庁長官賞)」を受賞するなど、各方面から評価をいただいている。

月間5,000~1万m3の原木を集荷・販売、循環型経営目指す

遠藤

「ササクレス」のようなニーズの高い製品の供給力を高めていくためには、原木の安定的な確保が不可欠だ。だが、海外からの原木調達は難しくなってきている。どう対応していくのか。

松尾

弊社は北海道の企業なので、道内の植林木や広葉樹をこれまで以上に積極的に活用していく方針だ。最近は月間に5,000~1万m3の原木を取り扱っている。広葉樹は基本的に自社で利用しているが、カラマツやトドマツなどは地元の製材業者や本州の合板メーカーなどに販売している。

遠藤

原木の集出荷センターのような役割も担っているわけか。

松尾

弊社のある赤平市を含めた道央地区には、非常に潤沢な森林資源がある。これを基盤にして、森林保護にも配慮しながら、伐ったら植える循環型の森林経営をやっていきたい。これも弊社の中核事業の1つに育てたいと考えている。

遠藤

循環型森林経営を実現するには、再造林を確実に実施できる体制づくりが必要になる。

松尾

すでに地元の関係者らと連携して、伐出・再造林をチームプレイで行う取り組みを始めている。ただ、伐出や再造林に関わる業者などが決定的に不足している。苗木生産者も足りない。弊社なりに資金支援などをして、機械化や人材育成に取り組んでいる段階だ。国や道などには、補助制度や支援措置などの一層の拡充をお願いしたい。

小径木から大径木まで引き受けて付加価値を高める拠点へ

遠藤

全国的にも再造林率を高めることは急務だ。“北の大地”から解決モデルが生み出されないものか。

松尾

世界的に資源不足が顕著になる中で、北海道はまだまだ開拓の余地が大きく、注目度も高まっていると感じている。
道内には伐採しなければいけない森林がたくさんあり、再造林をしながら有効活用していく仕組みづくりを急ぎたい。伐出された原木は、できればそのまま売るのではなく、製材品や合板をはじめ付加価値の高い製品にして販売し、利益を山元に還元していく。

木造新社屋の社長室(壁材、床材ともにセンを使用)
遠藤

本州では、手入れ不足で大径化したスギ原木を有効利用できないという問題も生じている。

松尾

道内でも伐期を過ぎて太くなりすぎたトドマツなどは敬遠されがちだが、弊社で買い上げて、末口径50~55㎝でも加工できる合板メーカーに提供している。一方、広葉樹については小径木の出材量が増えており、末口径24~26㎝の欠点材と言われるようなものでも商品化する技術力やデザイン力が問われている。
業界全体としては、いわゆる刺身からアラまで使えるような総合的な加工拠点の形成を目指すべきだろう。課題は多いが、前進できる可能性もたくさんある。道内の森林資源に立脚しながら、“次の50年”も本物の“価値”を伝え続けていきたい。

(2022年3月17日取材 )

(トップ画像=空知単板工業が新築した木造新社屋の総務部事務室(壁材にハードメープル、床材にシカモアを使用))

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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