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人や機械にやさしい「ASPEN2」、土壌・水質汚染も防ぐ
「ASPEN2」は、スウェーデンのAspen社が開発したチェーンソーや刈り払い機など向けの混合燃料だ。その最大の特長は、不純物が少なく、人や機械、そして環境にかける負荷が少ないことにある。

「ASPEN2」を使うと、排気ガスに含まれる有害物質がガソリンの15分の1程度に抑えられ、臭いや眼への刺激も軽減される。あらかじめエンジンオイルが50対1の割合でブレンドされているので、使用者が混合する手間も省ける。
エンジン部分などに堆積する煤(すす)も減るので、チェーンソーなどの機械の寿命が延び、メンテナンスが容易になる。燃費や始動性の向上などの効果も見込める。
ガソリンは放置しておくと腐食していくが、「ASPEN2」は腐にくいので、使用頻度の低いユーザーにとっても扱いやすい。
何よりも、土壌や水質などの環境汚染を防げる現代型の燃料であることが大きなメリットだ。
コストは3倍だが健康経営に不可欠、総代理店として普及推進
「ASPEN2」は、石油から化学的に合成されるアルキレートガソリンの1種だ。通常のガソリンが約350種の成分を含むのに対し、アルキレートガソリンはわずか10種の成分で構成されており、有害物質の割合が大幅に低減される(表参照)。

ただし、「ASPEN2」の価格はリットル当たり890円と、通常のガソリンと比べて3倍ほど高い。ここまで価格差があると購入には二の足を踏みがちだ。
だが、8月1日付けで橋本屋の社長に就任した東原正典氏(33歳)は、「風向きは変わってきている」と口にする。
東原社長によると、「健康経営に関心のある事業者の方から月に2件以上の問い合わせが来ている」状況であり、すでに西日本エリアを中心に20以上の企業や事業体などが「ASPEN2」を使用している。
同社が「ASPEN2」に出会ったのは2年ほど前。取引先の紹介でスウェーデンのAspen社を訪ねた際に、欧州では標準燃料となっていることを知った。
帰国後、東原社長らは、日本伐木チャンピオンシップ(JLC)の出場選手らと意見を交わす中で、「ASPEN2」を日本に導入する方針を固め、昨年(2024年)秋からトライアル的に取り扱った後、今年(2025年)4月に総代理店となった。
明治時代に創業、ニッチ市場で基盤固め、急ピッチで経営改革
橋本屋が創業したのは、明治時代の1897年。長野県内にある旅館の次男坊だった創業者が上京し、食用油問屋として開業した。
その後、モータリゼーションの進展とともにガソリンや潤滑油を取り扱うようになり、現在は、自動車、建機、農機具メーカーの研究開発部門向け燃料の調達・販売を主力事業としている。

社員は11名ながら年商は約20億円に達する。同業他社は少なく、ニッチな市場で強い存在感を放っている。
東原社長は、大学時代に2年間米国留学を経験し、日系メーカーで海外営業を担当した後、2018年・28歳のときに同社に入った。入社時の主要顧客はほぼ1社という極めて専門性の高い企業だったという。
そこから東原社長が陣頭指揮をとるかたちで、海外の仕入先開拓やエンジンメーカーなどへの営業展開を強化。併行して、DX(デジタルトランスフォーメーション)化やペーパーレス化、英語対応などを進めていった。
急ピッチな経営改革の過程で古参社員が離れる場面もあったが、進取の社風に惹かれて若い人材が入社するようになり、現社員の平均年齢は30歳代半ばとなっている。
ブランド・資産力と革新性を融合、抜群の突破力で現場変革へ
東原社長は、橋本屋の将来像について、「老舗企業が持つブランド力や資産力とベンチャー企業の革新性を融合させた『老舗型ベンチャー』を目指している」と明確に言う。

その東原社長について、社員や関係者らは、「十分に検討して決定すれば目標まで一直線に向かい、やり切る」と評する。“猪突猛進”ならぬ“熟考猛進”が持ち味のようだ。
特殊燃料専門商社のトップとして排ガス規制などの厳しさを熟知している東原社長にとって、「チェーンソーマンが排ガスを浴びながら作業している山の現場には本当に驚かされた」という。そして、「安全・安心で働きがいのある職場にしていきたい」と言葉をつないだ。東原社長の突破力が向かう先は、もうはっきりと定まっている。
(2025年7月15日取材)
(トップ画像=ITベンチャー企業のような橋本屋のオフィス)
『林政ニュース』編集部
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