人の動き 
政治・行政 定年延長の小坂氏が長官に昇格、次長には前林政部長の谷村氏を起用
７月１日付けで農林水産省及び林野庁の幹部人事異動が発令された*1。早速、主な人物評に入ろう。今回の人事では、思いのほか異動者が多かったので、テンポよく目立つ人物を追っていきたい。
省全体の幹部人事では、№１ポストである事務次官の渡邊毅氏と№２の農林水産審議官・渡邉洋一氏が留任した以外は、軒並み顔ぶれが変わった。体制一新と言える。関係者から「ここまで代えるのか」との声が出たほどだ。
その中で、林野庁のトップも交代した。青山豊久氏（昭和63年入省・東大法卒）が退職し、次長の小坂善太郎氏（昭和63年・名古屋大林）が長官に就任。次長には、大臣官房危機管理・政策立案総括審議官の谷村栄二氏（平成３年・東大経）が起用された。
技官筆頭の小坂氏には、４月に定年延長の発令が出て、長官への昇格は既定路線となっていた*2。だが、人事というものは、蓋を開けてみるまでわからない。正式に長官に任命されたことで、本人だけでなく周囲にも一種の安堵感が漂っている。なお、小坂氏は、名古屋大出身の長官としては、加藤鐵夫氏（昭和45年）、沖修司氏（昭和54年）に続いて３人目となる。
その小坂長官とコンビを組む次長には、事務官の谷村氏が就いた。周知のように、谷村氏は、昨年（2024年）７月まで林政部長をつとめていた。１年ぶりの林野庁復帰であり、小坂長官とはツーカーの間柄。極めてスムーズに次長室に入った。
小坂・谷村のツートップに課せられた最大のミッション（任務）は、新しい森林・林業基本計画の策定。だが着任早々、小泉農相から電光石火の指示が飛んできた。それは、「森の国・木の街」プロジェクト」の立ち上げだ*3。都市の木造・木質化にはこれまでも取り組んできており、相応の予算も配分しているのだが、プラスアルファの施策をどう上乗せしていくか。いきなり知恵を絞る場面がやってきた。
“組織の事情”で橘氏が本庁に復帰、技官長官の”次の次”も睨む
次に森林管理局長と本庁部長の動きをみる。技官ポストの東北と九州、事務官ポストの近畿中国及び四国の４森林管理局長が交代した。
この中で、刮目すべきは、九州森林管理局長の橘政行氏（平成元年・岩手大林）が本庁の計画課に海外森林資源情報分析官兼経営企画課の職名で戻ったこと。
橘氏の後任として国有林野部長の眞城英一氏（平成３年・名古屋大林）が九州局長に就任。以下、国有林野部長には森林整備部長の長崎屋圭太氏（平成４年・京大林）、森林整備部長には計画課長の齋藤健一氏（平成５年・農工大林産）がそれぞれ起用された。
橘氏は、昨年７月に国有林野部長から九州局長に出たばかり。在任１年での本庁復帰は早すぎると言えるが、そこには“組織の事情”がからむ。前出の小坂氏の“次の技官長官”候補と衆目が一致するのは長崎屋氏。最近は、本庁の２部長をつとめてから次長→長官と昇格するのが常道だ。11月で56歳になる長崎屋氏にとって、定年（60歳）までの時間を考慮すると、ここで２つ目の部長に就く必要があったのだ。
長崎屋氏の1年次後輩になる齋藤氏を森林整備部長に引き上げた人事からも、同様の事情が読み取れる。齋藤氏が“次の次の技官長官”候補になったことを意味する発令と言っていい。この流れで齋藤氏が長官まで上り詰めると、農工大出身者としては初のケースになる。前例踏襲がセオリーである役人の世界では画期的なことだ。それだけに齋藤氏には部長として、より幅広い仕事ぶりが求められよう。正念場を迎えたと言える。
平成８年組の課長が中核に、増山課長は欧州サッカーマニア
次は、本庁課長の異動評にいこう。冒頭で述べたように、今回の人事では多くの人材が動いた。紙幅の制約もあり、全員をあまねく取り上げることはできない。
独断でキーパーソンを抑える。森林利用課長の石井洋氏（平成８年・名古屋大林）が経営企画課長に、整備課長の土居隆行氏（平成８年・東大林）が計画課長に前進したことに注目したい。ともに能吏であり、技官人事を担当する筆頭格の課長に就いた。平成８年組には岡村篤憲・業務課長（九大院林）がおり、今回の人事で同期の諏訪幹夫・森林利用課山村振興・緑化推進室長（北大林）が整備課長に昇格した。このあたりの世代が林野庁の中核を占めるようになってきたわけだ。
なお、諏訪氏は、整備課で業務にあたるのは初めて。持ち前のフットワークの良さとコミュニケーション力で、公共事業に新しい風を吹き込んでもらいたい。スリムな体躯で、年に２回はハーフマラソンを走る健脚の持ち主。
石井氏の後任として森林利用課長に就いたのは、同課森林吸収源情報管理官の増山寿政氏（平成９年・北大院林）。2018年から２年間、ドイツのボンにある国際再生エネルギー機関（IRENA）で勤務した経験があり、J-クレジットやSHK制度など新たな施策課題を担当する同課の課長は適任だ。滋賀県立膳所（ぜぜ）高校時代は野球部に所属したこともあるが、今はヨーロッパサッカーにはまっている。とくに、ドルトムントのファンだという。52歳。
（2025年７月１～２日取材）
詠み人知らず
どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か？ いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。
