相続したが手放したい森林は国が引き取る! 「国庫帰属制度」創設へ【緑風対談】

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所有者不明土地問題の解決に向けて、「相続土地国庫帰属制度」が創設されることになりました。手入れのできない森林を国に譲り渡すという従来にない新制度の中身を「緑」と「風」が解きほぐします。

管理できない森林の所有権を国に、所有者不明対策の一環

深刻化している所有者不明土地問題の解消に向けた新たな制度が動き出す。その名は「相続土地国庫帰属制度」。相続によって土地を取得したものの、「遠くに住んでいて管理できない」などの理由で手放したいという人は少なくない。法務省が2020年に行った調査では、所有している土地を国に引き取ってもらいたいと希望する世帯が約2割に達したという。

そのようなニーズを踏まえて創設されるのが同制度だ。根拠法が昨年(2021年)4月に成立しており、来年(2023年)4月27日に施行される。対象となる「土地」には、「森林(林地)」や「農地」も含まれる。つまり、所有者不明森林対策としても使えるわけだ。国庫に帰属した森林は、普通財産として国が管理し、「国有林」となる。このため林野庁は、来年度から国有林野部内に同制度に関する専門ポストをつくることにしている。

同制度によって森林の所有権を国に譲り渡す手続きは、トップ画像のようになる。手放したい森林なら何でも国が引き取るわけではなく、これから述べていくように、所要の手続きを踏み、定められた要件や審査をクリアし、それなりの費用も負担しなければならない。
ハッキリ言って使い勝手のいい制度とはいい難いのだが、いらない森林を持ち続けるだけでも負担がかかる。手間とお金はかかっても所有権を放棄して国に管理を任せたいという潜在的なニーズはありそうだ。
そこで、同制度を利用する際のポイントについてみていこう。

所有林を手放すには面積に応じ10年分の負担金納付が必要

同制度によって所有林を手放そうとする場合、最も気になるのは、いくらかかるかだろう。
利用者(申請者)は、所定の申請手数料や審査手数料のほか、トップ画像の③にあるように、10年分の土地管理費に相当する負担金を納付しなければならない。では、森林の場合、この負担金はいかほどになるのか。

それは、政令で定められている。に示したように、面積によって負担金(10年分)が変わってくる。1,500m2(0.15ha)の森林なら約27万円、3,000m2(0.3ha)なら約30万円といった具合だ。これを多いとみるか、少ないとみるか、意見は分かれるだろうが、もういらないと見切りをつけた森林を国が引き受けて管理するための費用として、このような負担金が弾き出されたということだ。
ちなみに、市街地の宅地(200m2の場合)の負担金は約80万円、原野等の場合は面積にかかわらず20万円など、土地利用のタイプ別に負担金の算定方法が定められている。

建物の有無など要件に触れると不可、モラルハザード警戒

所有林を国に譲り渡す際のハードルは、負担金だけではない。次のような要件に該当する場合は、申請することができない。
 ア 建物や通常の管理又は処分を阻害する工作物等がある土地
 イ 土壌汚染や埋設物がある土地
 ウ 崖がある土地
 エ 権利関係に争いがある土地
 オ 担保権等が設定されている土地
 カ 通路など他人によって使用される土地

これらの要件に引っかからないことを確認した上で申請書を各地の法務局に提出すると、担当官が書面審査及び実地調査を行い、問題がなければ法務大臣が承認する。そして、負担金を納めれば、所有林を国に譲り渡せることになる。

このように慎重な手続きを踏むのは、所有林を簡単に手放せるようになると、最初から管理をおろそかにするモラルハザードが起きてしまう恐れがあるからだ。

国に“丸投げ”する前に、森林経営管理制度などの活用を

そのとおり。同制度を使って所有林の管理を国に“丸投げ”する前に、森林所有者にはやるべきことがある。言わずもがなではあるが、所有林を整備・活用して、森林が本来持っている機能を発揮させることだ。所有者自らが手を入れるのが難しい場合は、2019年4月にスタートした森林経営管理制度を利用して、市町村等のサポートを得ながら所有林の整備を進めるという道筋もつくられている。

所有者不明土地対策に関する関係閣僚会議が5月27日に決定した基本方針には、「森林経営管理制度の普及啓発を図り森林の集積・集約化を促進する」、「土地(林地を含む)を地域で有効活用するため地方公共団体等との連携などをきめ細やかに検討し明確化していく」(要旨)ことが明記されている。林野庁の担当官も、「まずは今の枠組みの中でできることをやり、それでも難しい場合は新設の『国庫帰属制度』を使うというのが基本になる」と解説する。

所有者不明土地対策に関しては、2024年4月から相続登記が義務化されるなど、新しい法制度が実行段階に入っていく。そうした中で、森林を所有する“意味”や“意義”をどう考えていくか、改めて見つめ直す場面が増えていきそうだ。

(2022年10月2日取材)

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

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