Iターン者+復活製材所を軸に再興図る下北山村【進化する自治体】

Iターン者+復活製材所を軸に再興図る下北山村【進化する自治体】

人口わずか900人の奈良県下北山村。最も近い大和上市駅(同県吉野町)からでも車で約2時間半という“超”山村で、今、林業再興に向けた動きが本格化している。牽引役である若い人材と復活した製材所を村ぐるみで支える構図が明確になってきた。

自伐型林業の確立目指し人材を広く募集、プランナーも育成

下北山村は5年ほど前に、小規模林業の一形態である“自伐型”を柱に据えて “次代の山づくり”を進める方針を固めた。3年前からは、地域おこし協力隊の制度を利用して毎年人材募集を行っており、これまでに9名を受け入れ、このうち4名が林業に従事している。

これに加えて、今年度からは森林施業プランナーの募集を開始し、“山守”の育成にも踏み出した。自伐型林業を志向する人は、「田舎暮らし」への関心が高い一方で、森林所有者等との交渉・調整や森林経営計画の樹立などは不得手する傾向がある。そこで、コミュニケーションや事務作業を専門的にこなせる人材を広く求めたところ、すぐに応募があり、面接の末、長野県内の森林組合に従事していた経験者1名をプランナーとして採用した。

Iターン者と地元をつなぐため役場職員が山を購入して実践

吉野林業地に属する下北山村では、昔からスギやヒノキの造林が盛んに行われ、村内の森林所有者はかつての黄金時代をよく知っている。その中で、村外から来たIターン者が自伐型の林業を行っていくためには、まず地元で“認めてもらう”必要がある。極めてデリケートなこの部分の“橋渡し役”をつとめているのが、村役場の産業建設課に勤める北直紀氏(36歳)だ。

購入した山林を案内する北直紀氏

地元出身の北氏は、大学を出て奈良市内の中学校で5年間教鞭を振るった後にUターンした経歴を持つ。これまでIターン者を地元の関係者に紹介し、事業地を確保するなどの業務にあたってきたが、「自分でユンボも動かせないようでは移住者に寄り添えない」と考え、昨年末に家の裏手にあるスギ・ヒノキ林5㏊を購入した。「みんな山で遊ぶのをやったらええのに」と言いながら、休日を利用して作業道の開設や自家消費用の薪づくりに汗を流している。公務員であるため山から収益を上げることはできないが、林業の感覚を体で養うことで、「本業にもいい影響が出ている」と話す。

再稼働した製材所が順調操業、構造材・内装材に家具も生産

下北山村では一昨年の5月に、休止していた村営の製材所が“復活”し、稼働を始めた。大割自動帯鋸盤やモルダー、乾燥機などを備えており、順調に生産量を伸ばしている。指定管理者として運営にあたっているのは、村内のスカイウッド(株)だ。同社は、地域おこし協力隊制度で移住した家具職人の本田夫妻と従業員1名という陣容になっている。

生産しているのは、住宅の屋根以外の構造材と内装材が中心で、注文に応じて机や椅子などの家具類もつくっている。

昨年度の原木消費量は約300m3で、主に同村から車で30分の熊野原木市場で購入しているほか、村内の素材生産業者などからも直接買い上げている。

学生+村民+Iターン者のコラボで移住体験施設リニューアル

下北山村は、慶応義塾大学や大阪工業大学との交流事業を行っており、学生たちが授業の一環として同村を訪れるようになっている。その中から、学生+村民+Iターン者の協働によって民家を移住体験施設にリノベーションするプロジェクトが立ち上がった。伊藤立平氏(伊藤立平事務所、大阪工業大学非常勤講師)が中心となり、移住者のデザイナーや建築学科の学生らが設計などを担当。外装にも内装にも地元のスギをふんだんに使用した新しい木造施設が今年度中に完成する予定だ。

リニューアル中の移住体験施設
内部にもふんだんにスギ材を使っている

使用木材の調達にあたっては、あらかじめ必要本数を算出し、それに見合う量を伐採した。規模は小さいが、設計から逆算するマーケットインの木材流通モデルとなっている。木材を無駄なく使えるだけではなく、伐採やリノベーションに様々な関係者が何らかのかかわりを持つことで、プロジェクト全体への愛着も出てきているようだ。担当者は、「うちの村には高等学校以上の教育施設がないため、若い人が出て行ってしまう。こうしたプロジェクトに村外の人たちが参加しているのはとても重要」と話しており、「関係人口を増やすことにもつながるのでは」と期待をかけている。

譲与税活用し森林経営管理制度を動かす、森林探偵など協力

下北山村には昨年度、森林環境譲与税が約870万円配分され、保育園と小・中学校複合施設の建設事業などに充当した。新たな財源を使って木造・木質化を進めたところ、製材所や素材生産業者などの仕事が増え、雇用創出にも効果があったという。

今年度からは、森林経営管理制度に基づき、施業地の集約化や経営管理権の設定などを本格化させる方針だ。

新規採用した森林施業プランナーに加えて、NPO法人穂の国森林探偵事務所(愛知県新城市、高橋啓理事長)と一般社団法人大和森林管理協会(奈良県王寺町、泉英二代表)も「林政アドバイザー」として境界確定や森林経営計画の樹立などの業務に協力する体制をとっている。

山奥の山村でありながら積極的に外部とのパイプづくりを進めてきた同村の取り組みが、さらにステップアップするときを迎えている。

(2020年4月10日取材)

(トップ画像=復活後、順調な操業を続ける村営の製材所)

『林政ニュース』編集部

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