山の働き手を支え続けて約半世紀・岩手県森林整備協同組合【突撃レポート】

山の働き手を支え続けて約半世紀・岩手県森林整備協同組合【突撃レポート】

本州最大の面積を有し、県土の約8割を森林が占める岩手県。戦後、この地で多くの人々が山に苗木を植え、緑を増やしていった。その中で、造林事業に携わる事業体を組織化し、働き手の処遇改善などに取り組み続けているのが盛岡市に本拠を置く岩手県森林整備協同組合(伊藤誠・代表理事)だ。同組合は、53年前に岩手県造林事業協同組合として発足し、時代の変遷とともに事業内容を見直しながら、一貫して“人への投資”を継続してきている。

造林事業者の“まとめ役”として発足、福利厚生充実など担う

岩手県森林整備協同組合の前身である岩手県造林事業協同組合が設立されたのは1970(昭和45)年。当時、同県では戦後の荒廃した山への植林が一段落し、次なる重要施策として県内に約80万haある民有林の利活用が打ち出され、1995(平成7)年度までに46万haを造林する目標が掲げられた。

だが、労務費・諸物価の高騰や造林地の奥地化などで、私有林所有者の造林意欲はなかなか高まらず、分収造林方式による県行造林や公社造林などの機関造林が大きな比重を占めるようになっていき、県行造林には6万haという造林目標が設定された。

時を同じくして、県行造林のあり方も、大きな曲がり角を迎えていた。もともと県行造林は、看守員(現場管理者)による直営方式で実行管理していたが、労働災害対策や共済制度が十分に整備されておらず、造林事業の担い手を集めることが難しくなっていた。

そこで、同組合が造林事業者の“まとめ役”として中小企業等協同組合法に基づき発足。組合員(事業者)の福利厚生を充実させる業務を一括して担うとともに、林業用資材の共同購入や造林・森林整備事業の共同受注なども手がけるようにした。また、県行造林は同組合、私有林における造林と公社造林は森林組合が担うという役割分担により、共存共栄を図った。

吉田歩・岩手県森林整備協同組合専務理事

同組合の吉田歩・専務理事は、設立時の状況を振り返り、「看守員を会員とする『岩手県緑友会』の会長であり、当組合の初代代表理事をつとめた小山田重穂の尽力が大きかった」と先人の功績に思いをはせる。

2022年の共同受注額は約24億円、保険・共済に加え安全対策も推進

岩手県森林整備協同組合は、2000(平成12)年に県行造林予算が打ち切られるまで、合計約4万haの造林事業を一手に引き受けた。以降は、主要事業を民有林における間伐や国有林での森林整備などにシフトさせていき、2006(平成18)年の名称変更を経て、現在に至っている。

同組合の組合員数や作業者数は、のように推移してきている。設立時の組合員数は150だった。それがピーク時には200近い組合員数と3,000名を超える作業者数を擁するまでに拡大し、現在の組合員数は約100、作業者数は400名強で落ち着いている。このうち、素材生産を行う組合員は25で、年々増加傾向にある。

昨年(2022年)の共同受注事業の実績は、地拵え・新植が146ha、下刈りが234ha、森林整備が688ha、病害虫防除が447ha、素材生産が9万9,390m3、木質バイオマス用チップ材生産が2万3,021tとなっており、合計受注額は約24億円に達している。

組合員向けの各種共済や保険などの仲介業務にも注力しており、昨年の取扱料は約3,200万円に上った。また、労働安全衛生対策の講習なども開催して、組合員を支援し続けている。

これだけの業務をこなしている同組合の職員数は15名。内訳は、造林・森林整備などを所管する業務部が9名、丸太販売などを担当する木材部が3名、総務部が3名。平均年齢は43歳と働き盛りだ。業務部職員のうち7名が森林施業プランナーの資格を有し、施業計画の立案から監督・監理までを行っている。

初心を忘れず“人に投資”、ICTを活用し生産性の向上目指す

岩手県森林整備協同組合には、今年(2023年)に入って5つの事業体が組合員として加盟した。各種事業への引き合いも強く、同組合の“求心力”は高まっている。

今後の展開方向について、吉田専務は、「発足時からのモットーである『安心せず、油断せず、謙虚に』の姿勢で事業に当たる」と口にし、人材育成や組織強化を基軸にした上で、県産材の安定供給と需要拡大や森林経営管理制度の活用などに取り組むことを課題にあげた。

とくに、人材育成や組織強化では、①ICT(情報通信技術)を活用した生産性の向上、②事業の通年化による安定雇用、③新規就業者の育成・労働安全衛生対策の強化の3つを重点課題に据えている。

①ではドローンなどを導入しICTを活用する「スマート林業」を推進するとともに、職員同士が情報を共有する仕組みを整え、業務の効率化を図る。②では、市場動向に応じて適切な事業量を確保し、通年雇用が可能な状態を目指す。③では、同組合の若手育成部会やいわて林業アカデミーを中心として、講習会・研修などを開催し、新規就業者の育成や労働安全対策をさらに強化する。

吉田専務は、「職員が全体の事業量や進捗状況などを把握していることが当組合の強み。これをベースに、“人への投資”を積極的に進め、組織の若返りも図りながら、循環型林業を実現していきたい」の展望を描いている。

(2023年5月23日取材)

(トップ画像=岩手県森林整備協同組合の事務所)

『林政ニュース』編集部

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