世界初、スギリグニンを自動車部品に活用 実車に取り付け評価試験、2022年商品化へ

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世界初、スギリグニンを自動車部品に活用 実車に取り付け評価試験、2022年商品化へ

スギから抽出されたリグニンを内外装部品に使った世界初の自動車が誕生した。森林総合研究所を中心とした研究コンソーシアムが進めている「改質リグニン」の実用化プロジェクト(略称「SIPリグニン」)*1*2の中で試作されたもので、10月23日に東京都内で行われたSIPリグニン公開シンポジウムの場で披露された。10月から1年程度をかけて屋外走行を含めた評価試験を行って耐久性等を検証し、低コスト化などの研究も進めて、2022年の商用化を目指すことにしている。

スギ改質リグニンを自動車の内装部品に使用

この自動車は、SIPリグニンの中核機関である森林総研と産業技術総合研究所に素材メーカーの(株)宮城化成(宮城県栗原市)と(株)光岡自動車(富山市)が加わってつくられた。スギ由来の改質リグニンを樹脂成分に用いたGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)を開発し、これをボンネット、ドアトリム、アームレスト、スピーカーボックスに加工して実車に取り付けた。改質リグニンを用いたGFRPは、従来のGFRPよりも寸法安定性が高く、VOC(揮発性有機物)の発生量が少ないなど、性能・環境面で優位性がある。

解説】5年計画終了で問われるリグニンネットワークの実力

5年前に国家的プロジェクトとしてスタートしたSIPリグニンが最終年度を迎えている。樹木の主要成分でありながら利用が進んでいなかった眠れる資源・リグニンを、ポリエチレングリコール(PEG)を使って効率的に取り出し、「改質リグニン」として高付加価値製品に利用できる道を開いた意義は大きい。このほど披露された“スギリグニン自動車”だけでなく、すでにガスケットやハイブリッド膜など様々な試作品ができており、新市場創出効果は2,000億円規模になるとも試算されている。

「SIPリグニン」プロジェクトについて記者発表をする沢田治雄・森林総研理事長(10月23日)

問題は、国の手厚い支援が切れる来年度からの対応だ。SIPリグニン代表の山田竜彦・森林総研新素材研究拠点長はシンポジウムの中で、新たに「地域リグニン資源開発ネットワーク」を立ち上げる考えを明らかにした。2020年度末までは会費を無料とし、企業や自治体など幅広く参加者を募るという。 「改質リグニン」の実用化にあたって“壁”となっているのは、安定供給とコストダウン。まだ、製造拠点は森林総研のベンチプラントしかないのが実状だ。立ちはだかる“壁”を新設するリグニンネットワークで打破することができるのか。最大のテーマである「社会実装」を達成するために、リグニンプロジェクトはいよいよ正念場を迎えることになる。

(2018年10月23日取材)

(トップ画像=スギのリグニンを内外装材に使った世界初の自動車)

『林政ニュース』編集部

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