【前編】リグニンが生み出す新産業 “眠れる資源”から高付加価値製品を開発

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【前編】リグニンが生み出す新産業 “眠れる資源”から高付加価値製品を開発

樹木を構成する主要成分でありながら利用が進んでいなかったリグニン。この“眠れる資源”から最先端の製品群をつくり出し、新たな産業を起こそうという大がかりなプロジェクトがスタートしている。原料には国内の森林に豊富なスギを使い、製造プラントも山村地域に立地させて、“地域発”のニュービジネスを創出することが構想されている。最新動向をお伝えする。

産官学22機関による「SIPリグニン」が世界をリードする

樹木は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンという3つの主要な化合物からできている(参照)――林業関係者にとっては基礎中の基礎知識であり、この中でリグニンが「厄介者」とみなされていることもまた“常識”だ。

セルロースとヘミセルロースは、紙パルプやキシリトールなどの原料として早くから利用が進み、最近はセルロースナノファイバーという次世代素材も開発されている。

これに対し、リグニンについては、燃焼処理してエネルギー利用するのがせいぜい。これまで様々な研究開発が重ねられてきたものの、画期的な新素材や新製品を生み出すには至っていない。

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だが、こうした現状を一変させる可能性を秘めた研究開発プロジェクトが動き出している。実施主体となっているのは、産官学22機関の研究コンソーシアム「地域リグニン資源システム共同研究機関」、別名「SIPリグニン」と呼ばれる。SIPリグニンとは、「戦略的イノベーション創造プログラム」の略称で、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が司令塔となり、世界トップレベルの研究成果を目指す国家プロジェクトだ。このSIPに「リグニン産業の創出」が採択され、平成26年度から30年度の5か年間に、毎年度3億円強の予算が投じられている。

高機能の活性炭繊維、粘土とのハイブリッド材料などが有望

SIPリグニンのプロジェクトでは、付加価値の高い最終製品の開発をターゲットに据えている。リグニンを原料にして、ガス遮蔽性フィルムや自動車部材、耐熱有機フィルム、エレクトロニクス用基板などをつくり、安定供給できるようになれば、市場規模は約500億円になるとも試算されている。

すでに、成果は出てきている。代表的な製品の1つが、リグニンを熱で溶かし、射出成形してつくる活性炭繊維だ。炭素繊維の分野で日本が世界をリードしていることはよく知られているが、活性炭繊維については、強度よりも表面積の大きさや細孔を持つことが求められる。市場価格は㎏当たり2万円と高い。炭素の割合が高いリグニンは、この活性炭繊維に最適な素材であり、浄化フィルターやキャパシタなどの電極材に使用可能とみられている。

リグニンと粘土のハイブリッド材料も有望視されており、最終製品としてガスケット(配管の継ぎ目を塞ぐいわゆる「パッキン」)が試作されている。かつてガスケットにはアスベスト(石綿)が用いられていたが、健康被害の問題が生じ使用禁止となった。このためパッキン業界は粘土など耐熱性の高い材料に移行してきているが、ここにバインダー成分としてリグニンを活用できる。リグニンは天然材料なので、アスベストのように廃棄に苦労することもない。また、粘土はほとんど国内で産出されており、リグニンとともに自給資源であることも調達面でのアドバンテージになっている。

コンクリート用化学混和剤も開発、日本触媒が実用化目指す

SIPリグニンの代表機関をつとめている森林総合研究所は、平成24年度から4か年計画で、農林水産省委託研究プロジェクト「木質リグニンからの材料製造技術の開発」にも取り組んできている。参加機関や予算額はSIPよりも小ぶりではあるが、このプロジェクトからも有益な成果がもたらされてきている。それは、リグニン系コンクリート用化学混和剤の開発だ。

コンクリートの施工時には、化学混和剤と呼ばれる「減水剤」が使用される。減水剤には、ポリカルボン酸系の石油化学製品がもっぱら用いられているが、リグニン系の減水剤も高い機能を発揮することが確認された。

森林総研は、コンクリート用化学混和剤の世界トップメーカーである(株)日本触媒とともにリグニンの活用に取り組んでおり、これから企業ベースで実用化を進める段階に入っている。

「千差万別」なリグニンをブレークスルー技術で工業材料に

このように「厄介者」だったリグニンを「使える資源」に転換させる取り組みが進展してきた背景には、リグニンの抽出でブレークスルーとなる技術が開発されたことがある。

SIPリグニンの代表をつとめている森林総研の山田竜彦・木材化学研究室長(兼筑波大学教授)は、「千差万別」という表現で、これまでリグニンが「厄介者」となっていた理由を説明する。

リグニンは、針葉樹・広葉樹・草本類という植物種によって構成パターンが大きく異なり、取り出し方(プロセス)によっても違いが出てくる。つまり、「化学的な多様性があまりにも大きい」。ゆえに、「安定的に均一の品質のものが供給できないから、工業材料には向かず、マテリアル利用が進まなかった」。

しかし、この「千差万別」の“悩み”を乗り越える手法が確立され、リグニンの利用が加速することになった。そのモデルプラントが、森林総研の敷地内で稼働している。(後編につづく)

(2016年2月1日取材)

(トップ画像=スギから抽出したリグニンと活性炭繊維(中央)のサンプル)

『林政ニュース』編集部

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