「木を伐らず」に進化を加速する造林ベンチャー・中川【突撃レポート】

「木を伐らず」に進化を加速する造林ベンチャー・中川【突撃レポート】

「木を伐らない林業」を掲げ、植林放棄地ゼロの達成や笑顔で働ける職場づくりなどに取り組んでいる造林ベンチャーの(株)中川(和歌山県田辺市、田中崇・代表取締役)が進化のスピードを一段と速めている。業界関係者が「次から次へと新しいことをするので、ついていくのが大変」と舌を巻く同社の直近状況をお伝えする。(文中敬称略)

勤務6時間フレックスタイム&日当制で“自由な働き方”実現

3月5日、東京都内で行われた「第10回GOOD ACTIONアワード」((株)リクルート主催)の表彰式に、中川の創業者で自らは「従業員」を名乗る中川雅也(41歳)が招かれた。「働く人が主人公となるACTION」を応援するプロジェクトである同アワードの受賞者に、林業関係から初めて選ばれたのだ。審査員からは、「働く人に寄り添う素晴らしいビジネスモデルをつくっている」と高い評価を受けた。林業事業体が林業外の専門家から職場環境の良さを賞賛されるケースは珍しい。

2016年に創業した同社は、極めてユニークな勤務体系をもとに従業員の働く意欲を引き出している。

1日の勤務時間は6時間とし、フレックスタイム制をとり入れて、始業と終業の時刻は各現場班が自由に決められる。ある従業員は、午前5時から仕事を始め、8時半に1時間の休憩をとった後に作業を再開して12時半に退社、その後は家族団欒や趣味の時間を楽しんでいる。

突然の当日欠勤も認めており、起床したら体調がすぐれないといった理由でも休める。自己管理の不十分な従業員に対して寛大すぎるとも映るが、中川は、「心身ともに安定しないとケガが起きやすくなる。まず体調を整えてもらうことが大事だ」と明確に言う。

給与の支払いは日当制(日給月給制)にしており、お金が必要なときは多く働き、プライベートタイムを充実させたいときは勤務時間を少なくして、従業員自身がワークライフバランス(仕事と生活の調和)の改善を図るようにしている。

ガラス張りの経営と2か月に1度の給与査定で意欲を引き出す

同社の従業員は、正社員とアルバイトを合わせて35名、このうち9名が女性だ。正社員の定着率は90%以上と高い。

林業労働者の平均年収は250~300万円とされているが、同社の稼ぎ頭は年間600万円以上の収入を得ている。その背景には、従業員のやる気とスキルアップを促す仕組みがある。

中川の実質的代表で「従業員」の中川雅也氏

その中核となっているのが、ガラス張りの経営と2か月に1回のペースで行っている給与査定だ。

同社が受注した案件の金額や全従業員の給与明細などは社内で公開されており、誰でも見ることができる。これらの情報をもとに、どれくらいの仕事をこなせば、いくらの収入を得られるかがわかる。自分の目標人物像を明確に掴むことができる。

同社に入った従業員は、日当8,000円からスタートするが、先輩の仕事を学びながら9,000円、1万円へとステップアップしていく。先輩達は、稼ぎ頭(日当2万5,000円程度)の仕事ぶりを見て、向上心を燃やす。

このような職場環境をベースに、2か月に1回、給与査定を実施している。査定をするのは現場責任者の班長だ。「現場をよく見ている班長が評価するから、査定結果にはみんな納得している」(中川)という。

造林を基軸に事業多角化し起業も支援、「おせっかい35」開始

同社の直近の年間売上高は約3億円。主力事業である植林面積は年に約70ha、育林面積も約350haに上っている。

造林事業以外に、森林経営や育苗、コンサルティングも手がけており、約4,000haの森林経営計画を策定し、耕作放棄地などを利用して約7万本のスギ・ヒノキと約3万本のウバメガシなど広葉樹の苗木を育てている。

周辺の民有林の管理も引き受けており、地元の素材生産業者15者と連携して伐採から再造林に至る一貫作業に取り組んでいる。製材所とは安定的な原木供給と一定価格での取引を進めており、ムダなコストを削減して、従業員や山主への利益還元を高めることを目指している。

同社の事業展開は、これだけにとどまらない。2022年には(株)ヤマップ(東京都港区)と連携し、登山マップアプリ「YAMAP」のユーザーから寄せられるポイント(寄付金)を植林事業の経費に充てている。

2023年には丸紅(株)(東京都千代田区)Deepforest Technologies(株)(京都府京都市)と協定を締結し、J‐クレジットの創出事業にも着手した。

同社は、従業員の独立支援やコンサルティング事業を充実させており、これまでに(株)GREEN FORESTERS(千代田区)や(株)ソマノベース(田辺市)など7社が同社のノウハウをベースに起業し、9県でニュービジネスを展開している。また、同社が2019年に開発した林業用大型運搬ドローンのリース事業は、社員の大谷栄徳が代表をつとめる(株)はぐくみ幸房(有田川町)に譲渡した。

中川から巣立った起業家が各地で活躍している

今年度(2024年度)から5か年の中期ビジョン「おせっかい35〜ワーカーからプレイヤーへ〜」を推進している。中川は「おせっかい度を35%増しにして地域貢献活動を増やしていく」と述べ、「山村で笑顔で暮らせる人を増やしたい」と快活に語った。

(2024年3月5日取材)

(トップ画像=「第10回GOOD ACTIONアワード」の受賞者(前列左から3人目が中川氏)

『林政ニュース』編集部

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