「誰も死なない林業」を目指すベンチャー企業・北相木森水舎【突撃レポート】

「誰も死なない林業」を目指すベンチャー企業・北相木森水舎【突撃レポート】

労働災害発生率が他産業と比べて一桁高い林業。これでは若い人は集まらない。この現状を変えるべく立ち上がったベンチャー企業が長野県北相木村にある。「誰も死なない林業」を掲げる(株)北相木森水舎(きたあいきしんすいしゃ、野本浩幸社長)だ。(文中敬称略)

新日鐵から林業の世界に飛び込み創業!現場発の技術が“ウリ”

北相木森水舎の社長をつとめる北相木森水舎社長の野本浩幸(34歳)は、「『誰も死なない林業』を実現するために、この会社をつくった」と明確に言う。

野本浩幸・北相木森水舎社長

野本は、沖縄工業高等専門学校を卒業後、鉄鋼大手の新日本製鐵(株)(東京都千代田区、現・日本製鉄(株))に入社。5年間技術職として従事した後、酒屋の(有)野本商店(長野市)に婿入りし、長野県林業大学校に入学。卒業後、森林土木のコンサルタントや森林組合での勤務を経て、2021年に中小企業等のチャレンジを支援する事業再構築補助金を利用して、野本商店の子会社として北相木森水舎を創業した。

同社の主要事業は、コンサルタント、造林、素材生産、森林土木工事などで、年間素材生産量は約4,000m3、年間売上高は約1億円。役員3名、社員12名、計15名の体制で運営しており、コンサルタントや技術開発職の採用を強化している。

北相木森水舎の目指すビジネスモデル

同社は、造林や素材生産の現場で得られたノウハウや経験を蓄積・分析して開発した技術を“ウリ”とするビジネスモデルを構築中だ(参照)。

野本は、「現場で使える技術やノウハウ、機械を開発して横展開していく」と狙いを話す。具体的には、スマートフォンアプリケーションでの業務効率化、社内ルールの整備、林内通信環境の構築、造林事業の機械化などに取り組んでいる。

安全管理徹底、「ルールは守れ、守れないなら変えろ」が鉄則

「安全技術を看板にしているのだから、労災ゼロはマストだ」と野本は強調する。北相木森水舎では、会社負担で安全装備品を支給しているほか、毎日の安全会議などをルーティン化している。とくに力を入れているのが、社内ルールづくりだ。

「新日鐵時代に、『ルールは絶対守れ、守れないルールなら破るのではなく変えろ』という鉄則を叩き込まれた」と振り返る野本。

作業現場で生産性などを優先すると、労働安全の遵守と実際の作業内容が乖離するケースが起こる。こうした実態を踏まえた上で、安全性と生産性を両立できるルールやマニュアルを整備している最中だ。野本は、「社内ルールの明確化は責任の所在を明らかにし、従業員を守ることにもつながる」と語る。

4月からは、QC(Quality Control)サークル活動もスタートさせ、安全技術や作業効率の一層の改善に取り組む方針だ。

「みちびき」使い下刈り自動化に挑戦、トータルで理想を実現

技術開発など新しい挑戦を続けるためには、社内リソースに余裕を持たせることが必要だ。そこで北相木森水舎では、のようにスマートフォンアプリケーションを駆使して業務を効率化し、国などの実証事業にも参画している。

今年度(2023年度)は、内閣府が主催する「『みちびき』(準天頂衛星システム)を利用した実証事業」の一環として、下刈り機械の自動運転に向けたプロジェクトに取り組んでいる。

技術開発のポイントは2つ。通信環境のない林内で「みちびきCLAS」という測位技術を活用して機械の位置を捕捉できるか、下刈り作業を自動化できるかだ。

皆伐地では通信環境は問題なく構築でき、機械の位置を許容範囲の誤差で捕捉し、遮蔽物がある林縁部に移動させても測位が継続できた。「造林補助事業での測量などにも手軽に活用できる可能性がある」と野本は手応えを掴んでいる。

下刈り作業の自動化では、イタリアMDB社製の「LV300 PRO」*1と(株)筑水キャニコム(福岡県うきは市)が開発した「伸び坂傾子」*2を比較実証し、現段階で入手・改造できる「LV300 PRO」を採用した。

「LV300 PRO」は、航空レーザデータなどを活用して等高線と垂直方向に苗木が並ぶようにQGIS上で植栽位置を決め、目印棒を設置後に苗木を植え付けた。目印棒の先行設置を含めても、ピンクテープが不要になり、植え付け作業の生産性が同等以上になった。

下刈り費用について、「LV300 PRO」と人力を比べたところ、1ha当たりのコストはほぼ同等と試算された。野本は、「下刈り機械はリモコン操作では30度までの斜面には対応でき実用に耐える。自動化は開発途上であるが、まずは正確な測位によるガイダンスシステムを実用化していく。下刈り作業の省力化が進めば、安全への投資や事業量拡大をさらに推進できる」と前を見据えている。

同社は、「大型パネル生産パートナー会」*3への参画や村内のローカルビジネスの検討もし始め、業容を広げている。

今後に向けて、野本は、「林業機械の遠隔操作化、リモート伐倒機などの実証など安全技術の向上に取り組むと同時に、川下との連携や森林空間の活用なども行い、トータルで『誰も死なない林業』を実現する」との展望を描いている。

(トップ画像=雪の積もった斜面を走行する「LV300 PRO」)

『林政ニュース』編集部

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