【譲与税を追う】栃木県宇都宮市

【譲与税を追う】栃木県宇都宮市

県下最大の「ジャズとカクテルのまち」が“基礎固め”進める

宇都宮といえば餃子。だが、JR宇都宮駅から市役所に向かう市内循環バスに乗ると、「ジャズとカクテルのまち」というアナウンスが流れてきた。やはり、県庁所在地はハイカラだ。

栃木県最大の都市である宇都宮市の森林面積は8,085haで市面積に占める割合は2割ほど。私有林人工林面積は4,651ha。約52万人の人口を擁する同市にとって、林業はメインの産業ではない。

宇都宮市内の森林分布

そんな同市に、昨年度(2022年度)は約7,800万円の森林環境譲与税が交付された。その約半分にあたる約4,200万円は市森林環境基金に積み立て、約3,400万円は森林整備に、約200万円は木材利用等に充当しているのが現状だ。

森林整備に関しては、森林経営管理制度に基づくモデル事業として、同市北部の上河内地区で未整備森林の手入れを進めている。事業実施にあたっては、同地区における未整備森林のうち制度活用の意向があり、境界が明確な約52㏊について、経営管理権集積計画を策定し、民間事業体への橋渡しを行うほか、市が管理する森林については、2020年度から間伐等の管理を開始しており、「あと数年で事業が完了する見込み」(市農林生産流通課)となっている。また、モデル事業の実施を通して、「森林経営管理制度を推進していくための『成功の3条件』として、①境界が明確である、②木材が搬出可能な林道に隣接している、③一定のまとまった面積が確保できることが明らかになった」という(同)。

併せて、重要インフラ周辺施設整備事業として、羽黒山山頂に設置されている通信施設へつながるケーブル類の倒木等による断線を未然に防ぐため、支障木の伐採を2021年度から2か年事業として行った。

木材利用等による普及啓発に関しては、小中学校が木工教室を実施することへの支援を2020年度から継続している。同市が運営している「冒険活動センター」で市内の小学生が宿泊体験するプログラムの一環として杉板焼き体験があり、その材料代として毎年度約30万円を助成している。このほか、20年度には、田んぼダムの木製堰の製作費として70万円余を譲与税で手当てした。

アンケートと最新の測量技術で“手入れ”のニーズ掘り起こし

モデル事業を踏まえ、制度の本格運用を開始した同市は、まず「成功の3条件」が整う森林を把握するため、森林所有者を対象としたアンケート調査を実施した。

林道が接道している森林を持つ所有者から意向を聞いたところ、浮かび上がってきたのは、「境界がわからない所有者がたくさんいる」(同)こと。代替わり(相続)などで所有林がどこにあるかわからないケースが増えていることがアンケート結果から裏づけられた。

そこで今年度から、境界明確化事業を実施している。栃木県森林組合連合会に業務委託して、リモートセンシング技術を活用して、レーザ測量で得られたデータから林相図などを作成し、公図などと照らし合わせて、現場での立会いなどは行わずに“線引き”を行えるようにした。集会所などに集まった所有者に“線引き”案を提示して同意を取り付けており、「基本的にこの手順に賛同をいただいている」(同)という。

境界明確化事業が進んで“基礎固め”ができれば、手入れの行き届かない私有林の掘り起こしができ、それを集約化して森林組合や民間事業体に森林整備を任せる流れが定着していくと見込んでいる。

加えて、同市が有する約175haの市有林についても、森林の循環利用を促進するため、計画的に間伐や主伐・再造林に取り組んでおり、栃木県の“顔”である自治体として、持続的林業の実践でも率先垂範する構えをとっている。

(2023年11月17日取材)

(トップ画像=JR宇都宮駅に直結しているコンベンションセンター「ライトキューブ宇都宮」では木材がふんだんに使用されている)

『林政ニュース』編集部

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