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時代の趨勢をとらえ「性能向上リフォーム」などで生き残る
イラン情勢が緊迫化する一方で、国産材業界には追い風も吹いているという現状は、今後に向けた舵取りが非常に難しいと言える。何よりも年間の新設住宅着工戸数が70万戸時代に入った中では、業界内の淘汰に拍車がかかる恐れがある。
人口や世帯動態の予測を踏まえれば、住宅市場の縮小は当然起こり得ることだ。業界団体などの調査でも、着工戸数とともに床面積も減少し続けている。その中で、都市部では地価が上昇しているので、土地を有効活用するために3階建ての住宅が増えている。
これに対して、地方では大きな住宅は必要なくなり、将来を見据えて平屋へシフトする傾向がはっきりしてきている。大手ハウスメーカーも企画住宅として平屋プランを大幅に増やしている。これは時代の趨勢だ。
そうした中で、地域の大工・工務店や製材工場が生き残っていくためはどうすればいいのか。
王道とすれば、ハウスメーカー等の違いを明確にして、地域に根ざした住まいづくりが求められるが、現実的な選択肢としては、大手ハウスメーカーなどの下請けになるという手がある。
もっと積極的な生き残り策としては、リフォーム事業に特化していく選択肢もある。
国内のリフォーム市場は7兆円規模で推移しており、今後もビジネスチャンスが大きいとみられている。
リフォーム市場に参入する際にポイントとなるのは、耐震改修や断熱改修といった「性能向上リフォーム」を手がけられるかどうかだ。システムキッチンやユニットバスを交換するだけの「置き換えリフォーム」は住宅設備業界の話であって、大工・工務店が担うべき本来的なリフォーム事業ではない。ただ、「性能向上リフォーム」ができる知識・技量・職人を持つ大工・工務店は少ないのが実情だ。

非住宅を担う人材育成が急務、特色ある家づくりで顧客掴む
既存の住宅市場ではなく、非住宅分野や中大規模木造建築物の市場に進出することも有効な選択肢ではないか。
地域の有力な工務店が4〜5階建ての中層木造建築物を建設する事例などが出てきており、成長分野であることは間違いない。これを業界全体の取り組みとして広げていくためには、設計・施工に関わる人材の育成が急務だ。政府も支援策を講じているが、現場レベルでは「笛吹けど踊らず」といった状況もある。このままだと、できるところは伸び、できないところは撤退するという二極化が進む可能性がある。
今のビジネスモデルを守りながら地域の大工・工務店が事業を継続していくことは難しいのか。
地域の中で特色のある家づくりを徹底していけば、事業継続は可能だろう。年間10棟を建てるだけでも、20年間続ければ200棟になり、その蓄積は「性能向上リフォーム」を行う基盤にもなる。特定の大工・工務店に強い愛着や信頼を寄せているロイヤルカスタマーとのつながりを太くすることで経営が安定する。規模の大小に関わらず、家を建てた後もずっと付き合い続けるというライフタイムギャランティー(生涯保証)の精神を持って事業を行うことが大切だ。
物流費や炭素削減の観点からサプライチェーンを再構築する
それにしても、イラン情勢を契機として様々な商品やサービスなどの値上げが相次いでおり、先行きの不透明感は一段と高まっている(トップ画像参照)。業界を挙げて真っ先に取り組むべきことは何だと考えるか。
現下の状況を乗り越えていくためには、生産地と消費地を結ぶサプライチェーンを再構築とする視点が重要になってくる。政府は、原油の調達リスクを軽減するために非中東地域からも原油を輸入するなどサプライチェーンの多様化に着手している。
木材製品や住宅設備などに関しても、物流コストや二酸化炭素(CO2)削減などの観点から既存のサプライチェーンを見直すときにきている。とくに、森林由来の木材製品については、日本列島を縦断するような遠距離を運ぶのではなく、地域完結型のサプライチェーンを構築していくことが有効な対応策になるだろう。
様々な製品の価格高騰を巡っては、便乗値上げや買い占め、売り惜しみなどがからんでいるという指摘もある。
そうした懸念はウッドショックのときも出ていた。残念ながら、林業・木材産業と住宅産業は、まだ業界として「成熟」しているとは言えない。
業界の「成熟」とは、どういうことか。
それぞれの企業利益という目先の話から離れて、業界全体として何を目指すのかという共通の方向性を産・官・学の枠組みを超えて持てるかどうかということだ。今のようなときに、自分のところだけ儲けようとすれば、結局は市場での信頼を失って業界全体の足を引っ張ることになる。ウッドショックで得た教訓をここで活かさなければならない。
林業・木材産業は「防衛産業」、国家戦略として支援すべき
業界として「成熟」する必要性を幅広い関係者に呼びかけるためには、誰もが納得できる大義が必要ではないか。
私は、林業・木材産業は「防衛産業」と言えるのではないかと思っている。木を植え・育て・伐って・使うことで循環が生まれ、森林の多面的機能も発揮される。土砂崩れを防ぎ、水源を守り、海の生物まで育む——すべての命の源が森林にある。その森林を守っているのが林業・木材産業だ。木質バイオマス利用を含めて、エネルギー安全保障の観点からも林業・木材産業は極めて重要な産業と言える。
国家戦略として林業・木材産業の振興にもっと力を入れるべきということか。
そうだ。国産材利用を後押しする補助金なども、「国土を守る」という大義のもとで組み立て直す必要がある。なぜ税金を使って国産材の利用を進めるのか。その根底には「日本の国土を守っているから」という明確な理由がある。そこを国民全体で共有しなければならない。
「国土を守る」ためには、万一のためにバッファー機能として木材製品を一定量ローリングストックする必要があると考える。これは経営的にはコストアップになるが、「防衛産業」としての役割にもっと目を向けて、石油の国家備蓄に倣い、木材製品の戦略的ストックを支援していくべきだ。こうしたことは、日本という国を守り、発展させていくために欠かせない対策だと考えている。
(2026年4月24日取材)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。