(後編)国産材家具を進化させるプレステージジャパン【遠藤日雄のルポ&対論】

(後編)国産材家具を進化させるプレステージジャパン【遠藤日雄のルポ&対論】

(前編からつづく)「TIME&STYLE(タイムアンドスタイル)」のブランド名で様々なインテリア製品を国内外の消費者に提供している(株)プレステージジャパンは、国産材家具を主力製品に位置づけ、供給力を高めている。その製造拠点となっているのが北海道の東川町にある自社工場「TIME&STYLE FACTORY(ファクトリー)」だ。
東京ミッドタウンにある同社の旗艦店で国産材家具の販売戦略などを聞いた遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、東川町の工場における原木(丸太)調達や加工事業の現状を知るため、リモート取材を行った。応対したのは、吉田安志・専務取締役。吉田専務は、兄の吉田龍太郎・代表取締役とともに同社を成長させてきたキーパーソンだ。北海道に住み、工場のオペレーションをはじめ製造部門全般を統括している。

「TIME&STYLE FACTORY」が計3棟に拡張

人口約34万人の旭川市に隣接する東川町は、豊かな自然と景観に恵まれ、この20年間で人口が2割も増えた“脱過疎のまち”として知られる。北海道最高峰の旭岳からもたらされる地下水を約8,500人の全町民が無料で利用している“上水道のないまち”としても有名だ。

この地に同社が工場を開設したのは、2008年のこと。同町の約4割の世帯が木材製造や家具・木工に携わっており、旭川家具の約3割を生産している実績を踏まえての進出だった。

遠藤理事長

まず工場の概要を教えて欲しい。

吉田・専務取締役

14年前に工場を開設してからほぼ5年ごとに増設・拡張を行ってきている。現在は、①製材・乾燥、②板材加工・組み立て、②仕上げ加工の3つの棟からなっている。

遠藤

機械や設備はどのようなものがあるのか。

帯鋸製材機
吉田

大径木から小径木まで挽ける帯鋸製材機や低温バイオ乾燥機をはじめ、NCルーター、プレーナー、丸鋸など家具や小物づくりに必要な機械設備一式が揃っている。

年間約500m3の原木を消費し、評価されない木でも有効活用

遠藤

年間の原木(丸太)消費量はどのくらいなのか。また、どのような樹種を取り扱っているのか。

吉田

年間の原木消費量は500m3くらいだ。樹種は、広葉樹のナラ、タモ、カバ、サクラ、ニレ、センなど。また、注文に応じて針葉樹のトドマツやエゾマツなども扱っている。

遠藤

それだけの原木をどうやって集めているのか。

吉田

弊社のネットワークを活かして直接仕入れている。北海道産材を中心に東北地方も含めて北緯43~45度のエリアに分布する針広混交林から伐出された原木を購入している。

遠藤

購入先はどういうところなのか。

吉田

私有林や市町村有林、大学の研究林などだ。

遠藤

資源事情もあって最近は太くて長い原木を買い付けることが難しくなっているのではないか。

吉田

そのとおりだ。ただ、当工場では、一般の市場では評価されない小径木や曲がった木、二股に分かれて枝の多い木なども積極的に購入して有効利用している。

広葉樹材の活用方法について説明する吉田安志・プレステージジャパン専務取締役
遠藤

パルプ用材並みの木も使いこなしているのか。購入価格はどれくらいか。

吉田

パルプ用材のレートにプラスアルファというところだ。最近の材価高騰の影響が多少は出てきているが、大きな変化は生じていない。

入荷した原木の年輪を社員全員で数え、天然+(プラス)低温乾燥に

遠藤

それだけバラエティに富んだ原木を管理するのは大変だろう。

社員全員で原木の年輪を数える
吉田

入荷した原木については、この工場で働いている社員全員で年輪を数えるようにしている。毎朝実施しているラジオ体操の時間を利用してみんなで行っている。

遠藤

社員全員で! 目的は何なのか。

吉田

年輪を数えることを通じて、木を単なる素材ではなく生き物として扱う意識が高まり、「木のプロ」としての自覚やモチベーションが向上してくる。工場内では工程ごとに分業制を敷いているが、全員で年輪を数えることにより、ものづくりに関する共通のイメージが持てるようになってきた。

遠藤

年輪を数えた後の原木はどうしているのか。

吉田

1~2年間かけて屋外で天然乾燥した後、40度の低温バイオマス乾燥機で人工乾燥し、含水率を一定のレベルに落としている。「低温で、じっくりと、熟成させる」という考え方で取り組んでいる。

遠藤

時間も手間も惜しまないということか。

吉田

一品一品手づくりで仕上げることを基本原則にしている。
製造過程で出てくる木屑も無駄にせず、ブリケットマシンで固形燃料に加工している。冬場は、このブリケット燃料を薪ストーブに投入して暖房に利用している。2030年頃までには、この工場を再生可能エネルギーだけで稼働し、化石燃料の消費をゼロにしたい。

3世代・30人の「職人」が腕を磨き、地域の力を引き出す

遠藤

この工場では何人が働いているのか。

吉田


30人が正社員として勤務している。年齢層は20歳代から60歳代まで3世代くらいの幅があるが、とくに最近は若い社員が増えてきた。

 

遠藤

社員教育はどうしているのか。

吉田

若手社員については、旭川高等技術専門学院の職業訓練制度を利用して、知識や技術力などを高めている。それ以外の社員も、終業後の社内トレーニングなどを通じて研鑽を重ねており、全社員の国家試験・技能検定の資格取得を目指している。

遠藤

プレステージジャパンのような販売力があれば、協力工場から製品を仕入れて売るだけでも十分ビジネスとして成立するだろう。それにとどまらず自社工場を運営する狙いは何か。

吉田

やはり自社で原木を仕入れて加工しないと、ものづくりの本質に辿りつけない。また、どこで育った木を誰がどのようにしてつくったのかというトレーサビリティ(生産・加工・流通履歴)が明確になり、消費者にきちんと説明できるようになることも大きい。

遠藤

家具やインテリアの分野でも消費者の目が益々厳しくなってきているということか。

吉田

国内だけでなくヨーロッパなどに製品を輸出する場合は、産地証明などのトレーサビリティシステムを整備しておかないと商談にも入れない。国によってレギュレーション(規制)が非常に厳しいところがある。

遠藤

そういえばイタリアのインテリアメーカーと業務提携した話を聞いた。デザインやものづくりの先進地と協業する意義は何か。

吉田

世界的に著名なイタリアのインテリアメーカー・Boffi DePadova(ボッフィデパドヴァ)とTIME&STYLEとのコラボレーションによって誕生した家具コレクションの販売がスタートしている。ミラノ、パリ、ロンドン、ニューヨーク、シンガポールなど世界の主要70都市に、日本で製造したテーブルやチェア、キャビネットなどを輸出しており、日本の素材や伝統的な手仕事の品質が認められてきている。
ヨーロッパが家具づくりの本場であることは間違いないが、経済成長に伴って人件費が高騰し、生産拠点を東南アジアなどに移した結果、ものづくりの力が落ちてきている側面がある。一方、日本には、地域に根づいた独自の技術や文化がまだまだ残っている。これを引き出し、新たな光を当てることで可能性が開けてくると考えている。

TIME & STYLE FACTORYの内部

(トップ画像=TIME & STYLE FACTORYの外観)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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