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消費トレンドの先端・東京ミッドタウンで道産材家具販売
遠藤理事長が訪ねたのは、東京ミッドタウン(東京都港区)の3階にある「TIME&STYLE」の店舗。広々とした空間にハイセンスな家具やテーブルウェアなどが展示されている。出迎えたのは、プレステージジャパンの小川彰・マネージャーと駒形麗子・広報マネージャー。遠藤理事長は、早速2人に問いかけた。
とてもモダンで洗練された空間だ。東京ミッドタウンは、現代の消費トレンドを敏感に反映している商業施設の1つとされている。そこに国産材を用いた家具が並んでいるというのは、一昔前では考えられなかったことだ。使用している材料は北海道産の広葉樹材なのか。
北海道産のナラやタモ、ヤマザクラなどが主体となっており、必要に応じて本州のクスノキやヒノキなども使っている。
外材は使っていないのか。
人気の根強いウォールナットなどは輸入して選べるようにしているが、あまり積極的には展示していない。基本的に、国産材を活かした商品展開を行っている。
小径木をデザインで活かす、イタリアメーカーと業務提携
世界的に広葉樹資源は入手が難しくなっており、道産広葉樹も大径材は少なくなってきている。
確かに、外材は以前ほど入ってこなくなった。道産広葉樹も径の細いものが増えてきている。
それでは扱いづらいのではないか。
小径木の特徴を活かした製品開発を行うようにしている。例えば、この収納棚は、フレームに木を使い、側板と扉はガラスにしている。他の素材と組み合わせて、小径木を無駄なく使えるようなデザインにしている。
ここに展示されているような製品を海外でも販売しているのか。
2012年に中国・上海にショールームをつくり、2017年にはオランダ・アムステルダムに自社店舗を開設して、輸出事業を強化してきた。現在では、ヨーロッパへの製品輸出がメインになっている。とくに昨年、イタリアのインテリアメーカーと業務提携してから事業量が増えてきている。
日本ならではの繊細な表現力と技術力でモダンに仕上げる
プレステージジャパンの社歴はユニークだ。1990年にドイツのベルリンで創業し、ヨーロッパで事業基盤を固めた後、1992年に日本法人を設立。1997年に東京で1号店を立ち上げ、現在は東京ミッドタウン店のほか、南青山店、二子玉川店、新宿店を運営している。
プレステージジャパンは、まず海外で腕を磨いてから日本国内での事業を本格化するという、いわば“逆コース”を歩んでいる。それが独自のビジネススタイルにつながっているのではないか。イタリアのインテリアメーカーとは、どういう面で業務提携をしているのか。
デザインに関しては、当社主導でやるようにしている。ヨーロッパにはない、日本だからこそできる繊細な表現がムク(無垢)材ならば可能になる。伝統的で緻密な技術を使いながらも、デザインとしてはモダンに仕上げる。それでも空気感としては、どこか日本的で東洋的な香りが漂う。そういう製品は欧米にはなかった。だから、協業が成り立っていると考えている。
「日本らしさ」についてもっと具体的に教えて欲しい。
例えば、このナラ材を使ったテーブルでは、端の部分のエッジを滑らかに削り出している。これには手間もかかるし時間もかかるが、こういうディテールにこだわることで醸し出せるものがある。
テーブルの表面塗装には、道産のヒマワリ油と国産蜜蝋を弊社独自に配合・精製したビーズワックスを使用している。このワックスを使うとムク材の風合いを失わずに、自然に染色しているような独特の濃淡が出てくる。こういう仕上げ方が製品のオリジナリティを高めることにつながっている。
自分だけの一品を受注生産し、価格も材料もムダにしない
そういうデザインや仕上げ方が今の日本の消費者にも受けているのか。
もちろん昔ながらのデザインを好まれる人もいるが、確実に傾向は変わってきている。とくに、若い人たちのインテリアに関する意識が高くなってきている。最近はインターネットなどでいろいろな情報を入手できるので、事前に調べた上で、店頭には実物を確かめに来るという人も多い。
この店の主要顧客層は何歳くらいなのか。
オープン当初は40~50歳代以上の比較的収入の高い人が主体だったが、最近は若い人も増えてきており、メインの購入層は30~50歳代くらいになっている。
大量生産の規格品ではない、自分だけの一品が欲しいというニーズが強まっているわけか。
ここでは1点1点、色や素材やサイズを選んでいただいてから受注生産でつくっている。できるだけ多くの選択肢を用意して、自分なりの空間をつくるための提案をするのが店頭にいるスタッフという位置づけになる。
オール受注生産なのか。注文してから製品が入るまでにはどれくらいかかるのか。
だいたい1か月~1か月半の時間をいただいている。ストックを持つと、それを維持管理するコストがどうしても価格に反映されてしまうし、余計な生産を行ってしまう側面もある。納期まで時間をいただくことにはなるが、価格や材料をムダにしない利用を考えると、受注生産はいいシステムだと考えている。
ただ、そのシステムを安定的に動かすのは簡単ではない。
そのために北海道の工場を増設し、原木の調達力も強化しているところだ。(後編につづく)
(トップ画像=ナラ材を使ったテーブル)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。