40年サイクルの確立へ産学結束!白樺プロジェクト【広葉樹を活かす!】

40年サイクルの確立へ産学結束!白樺プロジェクト【広葉樹を活かす!】

北海道の森林を訪ねると白く滑らかな樹皮で一際存在感を放つ樹木がある。そう、シラカバだ。主にパルプ用チップ材として利用されているが、5年ほど前からシラカバ1本を丸ごと活かす取り組みが本格化している。旗振り役である一般社団法人白樺プロジェクト(北海道旭川市、鳥羽山聡・代表理事)の近況をレポートする。

「ずーっと、使う。ずーっと、育てる。」で多彩な製品を開発

白樺プロジェクトは、2018年に産学のメンバー10名が集まって発足した。活動の合言葉は、「ずーっと、使う。ずーっと、育てる。」。各メンバーが本業を持ちつつ得意分野を活かして、家具の製作や樹皮採集ワークショップ、森林ツアー、研究開発などに取り組んでいる。

シラカバを余すことなく利用するのがモットーで、同プロジェクトの協力者と連携して、木部は内装材、家具材、楽器材などに、樹液は化粧水、飲料水に、樹皮は伝統工芸品に、枝葉はハーブティーやサウナで使用するヴィヒタに加工している。

偽心を使った家具

同プロジェクトでは、これまでにシラカバの特長を活かした家具や内装材を大小合わせて30点以上納品してきた。

とくに、樹皮付きの収納ボックスや、あえて赤身部分の偽心を使った家具、シラカバを立ち木のまま使用したオブジェなどは、専門家の間でも評判になっている。飲食店やホテルのラウンジなどに立ち木のオブジェを設置すると、シラカバ林があるような空間になる。代表理事の鳥羽山氏は、「手間暇はかかっているが、『北海道の森が来た』と喜ばれている」と話す。

シラカバの樹皮や樹液を使った商品
シラカバの立ち木

シラカバの原木を調達する際には、白い樹皮の立ち木を春先に選んで伐採する。伐採後はブルーシートで包み、傷つけないようにして搬出し、風を当てて乾燥させる。

樹皮は熱や薬品に弱く、扱い方を誤るとあっという間に変色するので注意が必要だ。鳥羽山氏は、「失敗を重ねながら乾燥・保管方法のノウハウを培ってきた。これからも協力者の力を借りながら研究していく」と話す。

研究者の声かけに応じて発足、「使う」だけでなく「育てる」

白樺プロジェクトが発足したそもそもの契機は、約10年前に北海道立総合研究機構森林研究本部林産試験場の秋津裕志氏が、シラカバを研究対象にしたこと。調べていくうちに、シラカバがサクラやクルミと同等の強度を持つことがわかった。

これを踏まえ、秋津氏は、2016年にシラカバの家具をつくらないかと関係者に声をかけた。これに鳥羽山氏が呼応した。

鳥羽山氏は、2002年に家具の修理再生と特注家具の製作を営む「木と暮らしの工房」(東川町)を設立していた。「ナラやタモなどの大径材や優良木が少なくなったので、様々な樹種を試していた。その中でシラカバに出会い、仲間も増えてきて『白樺プロジェクト』が立ち上がった」と当時を振り返る。

鳥羽山聡・白樺プロジェクト代表理事

現在の顔ぶれは、鳥羽山氏の他に家具のデザイナーや職人、建築家などの7名と、秋津氏や北海道大学教授の吉田俊也氏、静岡大学准教授の横田宏樹氏という研究者で構成されている。

個性豊かなメンバーだが、「皆、目指すところは同じ」と鳥羽山氏は言う。同プロジェクトは、「シラカバを北海道の持続可能な地域資源として再評価し、森林と生活者を結び、産業・文化として根付かせる」ことを目的に掲げており、シラカバを「使う」だけでなく「育てる」ことにも力を注いでいる。

市民参加で持続的な森づくりを進め、ナラやタモの成長を待つ

シラカバの育成については、北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの演習林で40年以上研究されている。白樺プロジェクトは、同センターと包括連携協定を結んでおり、その知見やネットワークを活用している。

シラカバは、先駆種であり天然更新が可能だ。皆伐地やササ地などをブルドーザーでかき起こし、表土を林内に入れる「表土戻し」をすると、シラカバの種子が発芽し、2〜3年でha当たり約2万本の稚樹が育つ。5〜7年目に幼木を刈り払い機で間引くと成長が良くなり、20年目を迎える頃に除伐をする。最終的に40年で直径20cm以上のシラカバに育ち、用材として収穫できる。

森林ツアーでの樹皮はぎ(画像提供:白樺プロジェクト)

同プロジェクトでは、市民参加型の間引き体験や樹皮はぎ、若葉採集などのワークショップや森林ツアーも開催している。フィールドは北大研究林にとどまらず、関係者の山林にも広がっている。鳥羽山氏は、「一般の人々にシラカバの生態などを知ってもらい、森づくりの魅力を広げていきたい」と狙いを話す。

今後の目標は、「まず40年サイクルの循環利用を確立する」としており、「シラカバの育成と利用が経済的に成り立てば、ナラやタモの成長を待つ時間が得られる。結果として、道内の森林が豊かになる」と未来を見据えている。

(2024年7月24日取材)

(トップ画像=旭川デザインセンターの一角にある白樺プロジェクトのブース)

『林政ニュース』編集部

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