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各メーカーがコンパネやフローリングの“国産材化”に本腰
輸入合板も国産材合板も不足している現状を打開していくためには、合板がどのように使われているかをよく見極めて供給体制を再整備していくことが必要だ。
国産材合板はスギ、ヒノキ、カラマツなどの針葉樹からつくられており、基本的に構造用合板として利用されている。これに対して、広葉樹が主体の南洋材は表面の平滑性が求められるコンパネ(型枠用合板)やフローリング(床材)に用いられてきた。だが、すでに述べたように南洋材は益々調達しづらくなっている。
そうした状況を踏まえて、国産材を使ったコンパネやフローリングも開発されているがどのようにみているか。足立理事長は、国内外の合板をはじめ住宅資材全般を扱っているジューテックホールディングズのトップでもあるので、総合的な見地からの評価を聞きたい。
国内の合板メーカーは技術開発力が高く、かなり実用に耐えられる製品が出てきている。国産のコンパネについては、実際の工事で何回転用できるかなど現場レベルでの検証が重ねられている。フローリングに関しても、基材を国産の針葉樹合板に切り替えるメーカーが目立ってきた。
南洋材の調達難が改善される見通しが立たないだけに、各メーカーとも国産材の利用に本腰を入れているわけか。
原料面での対応が迫られていることに加え、環境面からも国産材にシフトすることが急務になっている。とくに、「SDGs」は重要なキーワードだ。

SDGsへの対応急務、大手企業中心にスピードが上がる
SDGs(持続可能な開発目標)の達成に取り組むことは全産業的な課題になっているが、内実が伴っているのかと疑問視する向きもある。
世界的にESG投資などが広がっており、SDGsへの取り組み姿勢が企業の評価そのものを左右するようになってきた。「脱炭素化」の流れも強くなっており、時代は確実に変わってきている。
例えば、ある大手ハウスメーカーは、南洋材を使ったコンパネは使用しないと内外に宣言している。持続可能性が証明された木材製品しか使用しないという調達方針を掲げており、供給サイドも対応を急がなければならない。
大手企業がこのような方針を明確に打ち出すと改革のスピードが上がる。建築主から南洋材のコンパネは止めて欲しいと言われたらゼネコンや型枠大工は国産材合板を採用するようになる。供給サイドからアプローチするのとは別のベクトルが需要サイドから働いて現場が変わっていくことになる。

合板業界のホットな話題としては、国産の「超厚合板」を開発・実用化して非住宅市場を開拓しようとする動きが出ている。
非住宅市場は非常に可能性のある分野だ。ジューテックホールディングスとしても、創業100周年事業として建設中の新本社ビルを木造と鉄骨造のハイブリッド構造にしている。
新本社ビル建設で木造化先導、「非住宅」に大きな可能性
ジューテックホールディングスは、1923(大正12)年9月に「べニア商会」として発足した。2023(令和5)年9月に創業100周年を迎えるにあたり、創業の地である東京都港区新橋に本社ビルを新築するプロジェクトを進めている。
新本社ビルでは、木質耐火集成材「FRウッド」を8階建ての多層ビルでは初めて採用し、国(国土交通省)の「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されている。部材として使用される木材で約110tの二酸化炭素(CO2)を固定するほか、床の木材使用量がm2当たり0.038m3に達し、港区の「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」の最高ランク「3つ星」をクリアする建築物となる。
都心で木造ビルを建てる意義についてどう考えているか。
戦後につくられた非住宅建築物は、鉄とコンクリートで建てることが当たり前だった。とくに木造は火災に弱いと考えられていた。それが防耐火に関する技術開発が進展し、建築基準法などの規制が見直されたことで、公共施設だけでなく民間の施設も木造化が進んできた。
都市部の建物だけでなく、農業用施設の畜舎なども鉄骨造から木造に切り替えるケースが増えてきている。木造にすると家畜の生育がよくなり、病気にもなりにくいなど様々なメリットがあるようだ。
建築主の立場からみて、都市の木造・木質化を進める上でのネックは何か。
一般の人がこういう木造建築物をつくりたいと言ったときに、構造計算ができて相談に応じられる設計事務所などがまだ少ない。木質耐火部材の種類や供給量も十分でなく、オーバースペックな建築物になるとどうしても高くなってしまう。もっと選択肢を増やして、リーズナブルな価格で木造建築物を建てられるようにすることが本格普及への課題だろう。
原木価格を高めて山元の経営安定へ、認証林の拡大がカギ
SDGsや脱炭素化の潮流を踏まえると、今は新しい「地産地消の時代」といえる。国産材合板にも追い風が吹いているわけだが、この風をキャッチするためには、やはり供給力が問題になる。
その場合の地産地消は、都道府県ごとの狭い範囲で考えるのではなく、もっと広い視野でとらえて国産材の安定供給体制を構築していくべきだろう。現代のビジネススケールを前提にしたアプローチが必要になる。
その視点から国産材合板の供給力を高めるためにはどうすればいいと考えるか。
国産材合板の原料にはいわゆるB材が使われているが、その価格がまだ安すぎるのではないか。我々流通業者にとってはよくわからない世界だが、もっと価格水準を上げていかないと山元の経営は安定しないだろう。直近では原木の値段が上がっているが、いつ落ちるかわからないのでは継続的な取り組みはできない。何とかこの点を改善して安定したサプライチェーンをつくり、国産材のトレーサビリティ(生産・加工・流通履歴)を確保していく必要がある。とにかく日本は、認証林の面積や認証材の流通量が欧米と比べて少なすぎる。
国内の合板メーカーなどは社有林を増やしているが、まだ大きな流れになっているとはいえない。
欧米では多くの合板・製材メーカーが自社で広大な認証林を持っている。原木を加工して製品にする段階で認証し、それが消費段階までつながっている。こうしたチェーンを形成するためには認証材が市場で高く評価される必要があるが、これが日本ではスタンダードになっていない。合板メーカーをはじめとする木材企業が認証林を自ら取得して、認証材の供給量を増やしていくことが今後に向けたカギになる。業界を挙げて取り組んでいくべき課題だろう。
(2021年10月4日取材)
(トップ画像=7月に着工したジューテックホールディングス新本社ビルの外観イメージ)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。