(後編)守屋長光・全市連会長と考える新時代の「市場(いちば)」【遠藤日雄のルポ&対論】

前編からつづく)ウッドショックと呼ばれた木材製品の不足と価格高騰が曲がり角を迎えている。震源地である米国では、住宅ローン金利の急騰などで5月の住宅着工戸数が前月比14%減の155万戸にダウンした。林野庁が6月21日に開催した中央需給情報連絡協議会でも、各地区からの報告を通じて、「木材の不足は解消しつつある」との見方が示され、外材(輸入材)に関しては、「物流混乱の解消等により在庫は十分にある」との指摘が出た。木材需給を巡る状況は日々刻々と変わる。その中で安定したビジネスを続けていくためには、信頼できる情報をスピーディーに入手できるルートをつくっておかなければならない。守屋長光・全日本木材市場連盟(全市連)会長と遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長の「対論」も、情報の共有化を柱に据えたネットワークの重要性に焦点が絞られていき、これからの「市場(いちば)」が果たすべき役割も明確になっていく。

記念市の売上が昨年同時期から3割減、物価高で需要縮小

7月7・8日に(株)仙台木材市場(宮城県仙台市)が開催した記念市(展示即売会)には、2日間で200人を超える来場者があり、各種の木材製品が出品された。ただし、売上高は昨年(2021年)の同時期に比べて7割程度にとどまり、ウッドショックの“熱”が冷めてきている実態が反映された。関係者の間からも、「思いのほか買い手がつかない」との声が聞かれた。

遠藤理事長

首都圏などでは外材製品の在庫がだぶついており、明らかに潮目が変わってきている。その背景には、需要、すなわち実需の減少があるということだが、何がマイナス要因になっているのか。

守屋会長

複雑な要因がからんでいるが、基本的に物価高(インフレ)で、消費者の購買意欲が衰えてきていることがある。とくに住宅のような高額商品は値上げ幅が大きくなるので、買い控える傾向が強い。

遠藤

木材製品だけでなく、住設機器などの価格も上がっている。

守屋

住設機器や木材以外の資材の価格高騰や納期遅れも、足を引っ張るかたちになっている。施主の理解を得るのに苦労しているケースも少なくないようだ。

遠藤

そうなると製材所や工務店の経営も苦しくなる。

守屋

電気代や燃料代なども高くなっており、工場や事務所を維持するランニングコストの負担が重くなってきている。
その中で、地域の工務店などは大手ハウスメーカーとの厳しい競争を強いられており、仕事をとりづらい状況になっている。大手とは一線を画した新しい需要先の開拓が不可欠だ。

県産材の枠を超えた流通を担う、プレカットで最新の需要動向把握

遠藤

「市場」のネットワークを活かして非住宅物件用に大量の木材製品を納めた事例などは、新規需要開拓のモデルの1つといえるだろう。川下のニーズをいち早く掴み、川中・川上に伝える役割を担えるところはなかなかない。

守屋

木材以外の流通の現状をみておくことも参考になる。例えば、宮城県内には大きな魚市場がいくつかあり、それぞれ特色のある経営をしている。各地の漁業協同組合などは、捕れた魚をどこの市場に持っていけばいいかをよく知っており、塩釜の魚市場で水揚げされると「塩釜産」として流通していく。

遠藤

どこの海で捕れた魚であっても、塩釜で水揚げされれば「塩釜産」になるわけか。国産材の場合は、宮城県産材や岩手県産材など、都道府県ごとに産地ブランドをつくる取り組みが進んでいる。ただ、それだけでは県産材の枠を超えた大きな需要に応えることが難しくなる。オールジャパンの観点でダイナミックな木材流通を展開していくためには、やはり「市場」が拠点となっていくべきだろう。

守屋

とにかく「市場」には、いろいろな情報が入ってくる。それを整理して、合板が足りないのならば、このメーカーから余計に出してもらうというようなマッチングをすることが可能だ。
とくに仙台木材市場は、プレカット加工もやっているので、住宅建築の現場から出てくる細かな注文にもできるだけ対応するようにしている。

遠藤

プレカットラインを併設しているのか。

守屋

日産50坪ほどで規模は大きくないが、梁桁や柱材の動きが実際にはどうなっているかなど、最新の需要動向がわかる。それを関係者にフィードバックすることで需給のミスマッチを防ぐことができる。

仙台木材市場ではプレカット加工も行っている

山元立木価格の引き上げで山づくりと持続的林業経営を支える

遠藤

これまでの「市場」のイメージは、モノを集めて売買を仲介し、その手数料収入で運営するというものだった。しかし、ここまでの話を踏まえると、これからの「市場」が担う役割はもっと大きくなってくる。木材流通の要(かなめ)に位置し、川上・川中・川下への提案力を持ったビジネスを展開することが期待されている。
例えば、大手の原木市場の中には、自ら作業班を抱えて伐出や造林事業に進出するところがある。従来のように、山のことは森林組合などに任せておけばいいという“待ちの姿勢”ではなくなってきている。

守屋

守屋木材グループでは、1980年代から全社員に呼びかけて木を植える活動を続けており、仙台木材市場の社員などにも参加してもらっている。山と木は、私どもの事業の根幹をなすものであり、持続可能な林業経営はその大前提といえる。山元立木価格がもっと上がっていくようにして、もう一度、日本の山が再生できるようにしなければならない。

遠藤

国の政策も「次世代の森林づくり」を重点テーマに掲げており、デジタル技術を駆使したスマート林業の実現を目指している。

守屋

その方向性は間違っていないが、山の現場はまだインターネットなどをフルに活用できるところまでいっていない。森林組合や製材所などでも情報のやりとりはFAXが主流というのが実情だ。
通信環境が整備されていないところに、直ちにDX(デジタルトランスフォーメーション)の話を持ち込んでも現場とは乖離が生じてしまう。足元の状況と将来ビジョンとの間をどう埋めていくかを考えていく必要がある。

ユリノキなど早生樹も選択肢、木材製品の炭素量を評価へ

遠藤

最後に、これからの山づくりと「市場」の可能性について見通しを聞きたい。

守屋

スギ、ヒノキ、カラマツといった従来からの主要造林樹種に加えて、ユリノキやチャンチン、センダンなどの早生樹を植えていくことも選択肢に入れていくべきではないか。収穫までの期間が短い樹種が使えるようになってくると林業経営の魅力も高まる。
私共もユリノキ等を山に植えて育てている。これが実際にどういうところに使えるかを、「市場」の立場から検証していきたい。せっかく育てた木がチップにしかならないのでは寂しいし、付加価値が高まるような用途を探っていきたい。併せて、木材製品の環境的な価値も評価できるようにしていきたい。

遠藤

木材製品が固定している炭素量をクレジット化する動きも出てきている。

守屋

これまで「市場」への出品量が多い業者に感謝状を贈ってきているが、同時に炭素貯蔵量を算出して、環境貢献度を「見える化」することも試みている。こうした取り組みが広がっていけば、業界全体の認識を新たにすることにもなるだろう。

守屋会長「日本の山が再生できるようにしなければならない」

(2022年7月7・8日取材)

(トップ画像=記念市には様々な木材製品が出品された)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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