宮城県は、NECソリューションイノベータ(株)(東京都江東区、以下「NEC」と略)などの協力を得て、最新のデータベース技術である「ブロックチェーン」を活用した次世代型木材流通システムの構築に取り組んでいる。ブロックチェーンは「分散型台帳技術」とも呼ばれ、①特定の管理主体がなく、②取引記録の改ざんが困難で、③システムが止まらないという特長を持つ。主に仮想通貨の取引などで使われており、林業・木材業界で本格導入するのは初めての試みとなる。
同県とNECは、7月28日に東京都内でシンポジウム「Dが森林と都市をXする」をオンライン併用で開催し、現在進めている取り組みの報告やデモンストレーションなどを実施、全国から63名が参加した。
ブロックチェーンによって木材流通に関わる情報を効率的に収集・管理する概要はトップ画像のように描かれている。データベースの基本情報には森林(FSC)認証と伐採届を使い、トレーサビリティを確保しながら流通過程の透明化などを図る。川上から川中にかけて、森林資源量や製材・加工履歴、在庫情報などが順次蓄積されていき、川下の消費者(施主)がQRコードなどで情報を読み取ると、建築物に使われた木材を誰が・いつ・どこで伐り出したかがわかり、製材・乾燥・プレカットなどの工程も把握できるようになる。生産・供給者側も、詳細な需要情報をもとに伐出や木材加工などの事業量を最適化できるようになり、システム全体としてコスト削減が見込める。具体的には、スギ原木の取引価格をm3当たり2万円程度で安定させることを目指している。
モノは流れるが「情報の壁」が存在、データを“活用”する姿勢が不可欠
シンポジウムでは、県林業技術センターの担当者が講演し、林業・木材産業の現状について、「『スマート林業』という言葉が踊っているが、デジタルリテラシーは低水準」と問題視した上で、「木材の取引情報は紙媒体で記録・管理され、商慣行に基づく在庫調整や流通が行われている。サプライチェーン全体でのスムーズな情報共有が難しく、モノは流れるが情報は流れない『情報の壁』が存在している」と指摘。現状を変えるためには、「経営者がデータを“守る”ことから“活用する”姿勢になることが必要」と強調した。
また、NECの担当者は、「ブロックチェーンは透明性が高いためデータの改ざんは事実上不可能。登録データは最小限にとどめて、経営情報が流出しないようにする」と説明した。
同県では、ブロックチェーンの本格導入に向け、県林業技術総合センターが全体調整を担い、県森林組合連合会、宮城加工(株)、宮城十條林産(株)、栗駒高原森林組合などが情報入力・試行を行い、NECがシステム開発を進めている。アドバイザーとして、FSCジャパン、アミタホールディングス(株)、東北大学IIS研究センター、東京大学大学院も参画しており、12月頃には、進捗状況などを報告するシンポジウムを開催することにしている。
(2022年7月28日取材)
(トップ画像=ブロックチェーンによって木材流通に関わる情報を収集・管理するイメージ)
『林政ニュース』編集部
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