【譲与税を追う】岐阜県岐阜市─都市自治体が新規財源を「1円も残さずに使い切る」

岐阜県 税制

清流「長良川」を抱く岐阜市は、約40万人が居住する県都であり、アパレル産業や機械金属産業などが経済活動を牽引している。その一方で、市面積(2万360ha)のうち6,041haは森林で覆われており、その内訳は、民有林が5,820ha、国有林が220haとなっている。

同市には、2023(令和5)年度に約5,700万円の森林環境譲与税が交付された。森林環境税の徴税が始まり、配分基準が見直された2023(令和6)年度からは6,000万円から6,500万円の譲与税が毎年度交付されることになっている。

典型的な都市自治体である同市にとって、これだけの新規財源をいかに有効活用するかは大きな課題だが、担当の農林課は、「1円も残さずにすべて使い切るようにしている」と説明する。全国的には譲与税を基金などに積み立てて支出を先送りする自治体が少なくない中で、「すべて使い切る」というスタンスを明確に打ち出しているのは特筆ものだ。

岐阜市役所は18階建てで、1階から3階の低層階に市民窓口や利便施設を集約している

では、同市は譲与税を何に「使い切って」いるのか。

2023年度の実績ベースでみると、譲与税を最も多く充当したのは、森林経営管理事業の約2,700万円。同事業では、森林の現況調査や森林所有者の意向調査などを民間業者に委託して実施しており、同年度は445.73haの現地調査や578通の調査票発送などを行った。

次いで譲与税の支出額が多かったのは、ながら川ふれあいの森施設長寿命化事業の約1,600万円。同市北東部に位置し、市民の憩いの場となっている「ながら川ふれあいの森」(管理区域233ha)で木製防護柵(304.3m)や木製手摺り(212.5m)を設置したほか、法面緑化工などの環境整備を進めた。

「ふれあいの森」のテーブルなどには譲与税を使っていることを明記している

このほか、林道の巡視点検や除草、支障木・倒木の処理費に約730万円、生活保全林のパトロール費に約580万円、市有林の整備費に約40万円、「ながら川ふれあいの森」にある木育広場の備品購入費に約2万円の譲与税を充て、足らざる経費は同市の独自財源で補って、「1円も残さずに使い切る」ことを完遂した。

「ふれあいの森」の木育広場

郡上市、山県市、関市と合計約70haの「たずさえの森」を造成

岐阜県の森林率は約8割で、全国で2番目に高い。その中で、岐阜市の森林率は約3割と低く、民有林は散在しており、都市的生活を送る森林所有者の目を“山”に向けさせることは簡単ではない。

「そもそも森林を相続していることを知らない人もいる」(農林課)のが実態であり、「まずは森林を持っていることを知ってもらうことが一番」(同)と見定めて、譲与税を活用した意向調査の推進に注力している。意向調査のスタートである調査票の回収率は50~70%くらいで推移しており、まだ経営管理権集積計画を樹立する段階には至っていないが、「国や県の造林補助事業に関心を示す森林所有者も出てきた」(同)という変化も生じている。

同市は、シンボルである長良川の清流の維持と自然環境保全を目的として、1982(昭和57)年から県内の自治体と連携して分収造林方式で「たずさえの森」を造成してきた。現在は、郡上市、山県市、関市との間で合計約70haに及ぶ契約を締結しており、「ようやく利用間伐ができるまでに育ってきた」(同)。

都市自治体でありながら、森林づくりの実績を持つ同市ならば、今後も譲与税の活用で確かな歩みを続けていくだろう。

(2025年2月25日取材)

(トップ画像=「ながら川ふれあいの森」に設置した木製防護柵)

『林政ニュース』編集部

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