災害に強く明るく親しみやすい新庁舎が市民にも職員にも好評
安芸市の新庁舎は、免震構造を備えた地上3階建て。外観は武家屋敷をイメージさせるデザインで、鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)だが、庁舎内では内装や什器に地元産材が多用されている。

正面玄関を入ると吹き抜けのロビー(市民フロア)が広がっており、床(圧密フローリング)や腰壁、壁面、カウンターなどには同市産のヒノキなどを用いて、明るく開放的な空間をつくり上げている。木製のテーブルセットも置かれており、休憩や雑談などがしやすい。ロビーに隣接する食堂もヒノキで仕上げ、清潔感がある。屋根やルーバーにはスギのCLTを使用しており、新庁舎全体の木材使用量は約180m3に達している。

同市財産管理課の担当者によると、市民からは「ホテルみたい」という感想も聞かれ、市職員からは「仕事がしやすくなった」との声が出ている。新庁舎の建設にあたって関係者が大同団結し、「木材や木製品を調達する仕組みをつくれたことも大きい」(担当者)という。木造・木質化を推進する確かなレールが敷かれたようだ。

源流域から太平洋までカバーするビジョンに沿い、30のアクションプラン実施へ
人口約1万5,000人の安芸市に交付されている譲与税は、昨年度(2023年度)が約7,500万円、今年度(2024年度)は約1億500万円に増える見込みだ。
昨年度は、新庁舎の木質内装化を図るため、積立金を含めて8,680万円の譲与税を木材利用促進として支出した。今年度はこれほどの大型支出は予定していないが、新たなビジョン(将来像)に基づいて譲与税をより幅広く活用していくことにしている。そのビジョンとは、昨年度末に策定し、今年度から2033年度までの10年間を計画期間とする「安芸市流域森づくり構想」。

同市は森林率が89%と高い上に、川が始まる源流域から太平洋までが市域に収まる特徴的な地形を有している。また、林業(川上)、製材業(川中)、建築業、木工業(川下)などに携わる事業者が市内に揃っており、森林整備や木材利用を通じて、「まちを潤し、海を豊かに」することができる。こうしたコンセプトを「流域」という言葉に込めた。
同構想のスローガンは、「Blue Forest, Blue Ocean(ブルーフォレスト・ブルーオーシャン)」とし、①森づくり、②木づかい、③まちづくりという3つのテーマに沿いながら30に及ぶアクションプランに取り組むことにしている。
ペレット利用に補助、市有林拡大、「半林半X」支援など新施策が続々
「安芸市流域森づくり構想」に基づく譲与税の活用は、早くも本格化してきている。
同市は施設園芸が盛んで、栽培ハウスを温めるための熱源として重油ボイラーや木質ペレットボイラーが使われている。脱炭素化を促進するため、ペレットの調達支援として1㎏当たり10円の補助を今年度から始めた。
また、市民の憩いの場となっている東山森林公園(約88ha)をリニューアルする事業も今年度からスタートしているほか、市有林の拡大にも着手する方針だ。同市は、森林経営管理制度の推進にプラスアルファするかたちで、小さな林業(自伐型林業)の普及にも力を入れており、地域おこし協力隊の募集や体験研修などを行っている。これから「半林半X」の人材を幅広く受け入れていくため、市有林を広げてフィールドを確保していくことにしている。
多彩な取り組みを市民にわかりやすく伝えるため、同市の農林課は月一ペースで『森づくり通信』の発行を始めた。また、市制施行70周年記念式典用のノベルティグッズとしてオリジナルの木製コースターを製作するなど、森と木に親しめる機会を増やしている。

岩崎彌太郎のつながりで、同市は三菱商事(株)や三菱商事エネルギー(株)、東京海上日動火災保険(株)といった大手企業と協定を結び「協働の森づくり」を進めている。同市の「流域」からの発信が遠く首都圏にも届き、大きな波に育ちそうな予感が漂っている。

(2024年9月13日取材)
(トップ画像=今年(2024年)1月に開庁した安芸市の新庁舎)

『林政ニュース』編集部
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