社会の“黒子”のために時空間解析プラットフォームを独自開発
スカイマティクス社長の渡邉善太郎(45歳)は、「社会を“黒子”として支える人を、テクノロジーで支えたい」と話す。同社がサービスを提供している業種は、建設、防災、農業、林業など、いずれも厳しく危険な現場を抱えており、業務もキツイ。この現状を変えるべく、ドローン等から取得する画像やデータを活用して調査・点検業務を効率化する時空間解析プラットフォームを開発した。
開発にあたっては、3次元復元処理や解析技術、WEBサービスなどをすべて自社で手がけ、一気通貫型で提供できるようにした。通常は、森林などの調査は測量企業が行い、解析は画像関係の企業が受け持ち、アプリケーションへの落とし込みはIT企業が担うという分業体制がとられる。だがこの体制では、工期が長くなって金額も嵩み、ユーザーの要望が直接反映されにくくなる。
同社は、リモートセンシングに必要な技術をすべて内製化することで、「本当に必要なサービスを提供できるようにした」(渡邉)。
約130森林組合が「くみき」導入、造林申請・検査などに活用
スカイマティクスは、一気通貫型の時空間解析プラットフォームを建設、防災、林業分野向けに「くみき」の商品名で販売しており、すでに導入現場は30業種、5万件を超えている。
林業分野で「くみき」の利用が最も進んでいるのは、造林補助事業の申請や検査業務だ。人力で行ってきた面積測定などを効率化できることが評価され、全国に約600ある森林組合の3割にあたる約130組合が「くみき」を導入している。北海道のそらち森林組合では1人で1ha当たり3時間かかっていた面積測定を30分に短縮し、静岡県の伊豆森林組合では測量・検査の工数を7割削減するなど、顕著な実績も上がってきている。
2020年度に国(林野庁)がドローンなどを使ったリモートセンシング技術の利用を造林申請・検査などで認めたことも「くみき」の普及を後押ししている。「くみき」を使えば、ドローン画像から自動的にオルソ画像が生成され、除地の面積も自動計算し、出力データを申請書に添付するだけでいい。渡邉は、「ここまでできるソフトは世界で1つだけ」と自信をみせる。

これから林業分野で「くみき」の利用が進みそうなのは、森林の資源量調査と解析だ。「くみき」で生成した地形データとAI(人工知能)を組み合わせることで、樹種や幹材積、炭素蓄積量などをスピーディに算出できる。渡邉は、「一連の作業を効率化することで、自治体が取り組んでいる森林経営管理制度などをサポートできる。将来は、J‐クレジットの創出・販売にも応用していきたい」と意欲をみせる。

森林調査は航空レーザ測量でも実施でき、大面積をカバーできるが、費用は高額になるので気軽に行えるものではない。一方、「くみき」による調査は、「コストも工期も10分の1でできる」(渡邉)という小回りのよさが持ち味。「森林調査をもっと身近なものにしたい」(同)というスタンスで導入を呼びかけている。
クラウド利用で導入の敷居を下げて、林業を”カッコイイ”産業に
スカイマティクスが提供している「くみき」は、年間契約のクラウドサービスで、自治体と森林組合が共同利用する標準パッケージの月額利用料は20万円から。単独利用の場合は同10万円から、基本機能のみのライト版は同6万円からなどのプランがあり、小面積の森林調査だけ行うスポット的な契約も受け付けている。

渡邉が重視しているのは、「初期投資を下げる」こと。全国の森林組合や自治体を回る中で、「使用しているパソコンは古いバージョンのものが少なくない」と気づき、「クラウドを使ったサブスクサービスの方が導入しやすい」と舵を切った。その一環として、希望する森林組合などには、「くみき」を一定の条件で無償利用できるサービスも行っている。「まず気軽に試してもらう」ことで、「敷居を低くする」のが狙いだ。
渡邉は、愛知県で生まれ、岐阜県で育ち、早稲田大学で機械工学を学んだ後、大手総合商社の三菱商事(株)に入社。宇宙ビジネスに携わった経験を活かして起業した。実家は山持ちで、自身も相続で森林所有者になった。
その渡邉がこだわりをみせるのが「国産」だ。リモートセンシング技術の多くは海外に依存しており、「林業分野の画像解析などで使われているソフトの大半はロシア製」と指摘し、「これで経済安全保障上いいわけがない。だから弊社は、純国産のプラットフォームをつくった」と語気を強める。 設立から8年が経った同社の社員は35名にまで増え、林業関係にも2~3名が従事している。資金調達額は約32億円に達しており、企業体力がついてきた。渡邉は、「林業を“クール(カッコイイ)”な産業にしたい」と強調する。現場を“変容”させる本格的なDX(デジタル・トランスフォーメーション)が同社起点で始まりそうだ。
(2024年12月17日取材)
(トップ画像=スカイマティクスが提供する一気通貫型プラットフォームのイメージ)

『林政ニュース』編集部
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