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グンゼ発祥の地、過疎対策の最前線に立ち続ける
綾部市の面積は3万4,710ha、人口は約3万人。市内には鉄道が走り、2本の高速道路が交わる交通の要所でもある。2007年には、同市の呼びかけで「全国水源の里連絡協議会」が発足し、今も141の自治体と連携しながら過疎対策の最前線に立っている。
そんな同市の森林面積は2万6,559ha。その約98%は民有林で、林地に関する地籍調査の進捗率はほぼ0%。大半の山林は相続登記もされておらず、所有者の林業経営に対する意識・関心は薄い。また、民有人工林の約6割にあたる約7,000haは、過去10年間放置状態となっており、今後も手入れされる見通しはないという。
こうした状況を打開するため、同市は2つのモデル地区を設け、譲与税を活用した森林整備事業に乗り出している。

明治時代からの入会林をモデル地区に設定して集約化を図る
モデル地区の1つは、市東部に位置する長野地区。集落ぐるみで利用してきた入会林があり、明治時代に家長ら25名で登記がされていた記録がある。だが、当時の家長らが亡くなって“山離れ”が進んだため、登記簿や森林簿などを頼りに相続人の探索に着手した。
しかし、この探索は難航を極めた。手元の戸籍謄本などをもとに親族関係者などを見つけ出そうとしたが、連絡をつけるだけで一苦労。他の自治体に引っ越していれば、そこの役場に問い合わせて、何とか手がかりを求めた。こうした作業を1年ほど繰り返し、家長ら25名中22名の子孫である148名の相続人を特定(確知)した。
これを踏まえて、経営管理集積計画の策定と経営管理権取得に必要な同意取り付けに入った。大半の相続人からは同意書が得られたが、数人からは、「綾部市なんて聞いたこともない」、「〇〇さん(被相続人)と私は関係ないから放っておいて」などと不同意を伝えられた。
通常は、こうなると森林の集積・集約化は暗礁に乗り上げる。だが、同市は“切り札”を使った。それは、森林経営管理法で新設された「共有者不明森林の特例」と「確知所有者不同意森林の特例」。トップ画像のように、口頭で不同意の意志を表明した者や同意書を返送しない者、さらに同意書が届かない者や登記情報が不十分で個人の特定ができない者がいても、知事の裁定や一定の公告期間を経れば、共有者全員から同意があったとみなせる仕組みができている。まだ、この特例を発動したケースは全国的にも少ないが、同市は2つの特例をあわせ技のように活用して、不同意の解消を図った。
晴れて権利関係がクリアになり、森林整備が完了したのは所有者探索に着手してから3年ほど経った2023年度。整備面積は0.3haだった。担当した伊賀原司・林政課林業振興担当主任は、「同意取得に長い時間と労力がかかったわりに、整備できた面積はわずかだった」と自嘲気味に話したが、「市が主導して必要な森林整備が行えることを示せたのは大きな前進」と手応えも口にした。
防災の観点から危険性の高い森林は市の主導で整備
もう1つのモデル地区は、市北東部に位置する水梨地区。民家近くの急傾斜地に手入れ不足の森林があり、大径木化とともに倒木の危険性が高まっていた。

同地区の所有者からは、比較的スムーズに同意を得ることができた。ただ、対象林地は、保安林、急傾斜地崩壊危険区域、砂防指定地と3つの規制がかかっており、民間事業体単独では整備が難しい。そこで、同市が主導するかたちで伐採を進めた。跡地にはサクラとカエデを植林することにしている。
新たなビジョンと補助事業がスタート、「制度をフル活用する」
綾部市には今年度(2024年度)、約7,000万円の譲与税が交付される見込みだ。安定財源が確保され、2つのモデル地区での貴重なノウハウが得られたことをベースにして、同市は今年度から新たなビジョンと補助事業を推進している(図参照)。

5ha未満の森林整備については、作業道の開設、搬出間伐、重機の借り上げなどに必要な費用の一部を補助する。水梨地区のような民家近くの危険木の除去に関しても、経費の2分の1(上限10万円)を補助できるようにした。
一方、5ha以上で林業経営が成り立つ森林については、森林経営管理制度による集積・集約化を進めて、民間事業体に整備を任せる。そして、経営が困難な森林は同市が管理し、複層林化を目指す。

このスキームを軌道に乗せるためには、最も手間のかかる森林経営管理権の同意取得を効率化することが欠かせない。伊賀原主任は、「市内の民間事業体などとともに、所有者情報を共有する仕組みを構築できないか検討している」と話し、「今ある制度をフルに活用すれば、手入れ不足の人工林を解消していける道筋は見えてきた。これからスピードアップしていきたい」と前を見据えた。
(2024年9月26日取材)
(トップ画像=長野地区で使った特例活用の合わせ技の概要)

『林政ニュース』編集部
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