北海道の標津町は、地元の森林組合と連携して、和紙の原料となる「ノリウツギ」の生産・販売事業を開始する。同事業の本格展開に向けて7月からノリウツギの樹皮を採取し始めた。
ノリウツギはアジサイの仲間で、樹皮の内側の白い部分が文化財の補修などに必要な手すき和紙「宇陀紙」の“のり”となる。生息分布は北海道から九州までで、採取時期は7月から8月と短く、1度樹皮を採取すると枯死してしまう。近年の獣害などにより全国的に資源量が減少しており、まとまった量を確保することが難しくなっている。
同町は昨年度(2021年度)、町内のノリウツギ資源量調査を実施。その結果、約1万本のノリウツギが生育しており、今後20〜30年間は樹皮の採取が可能なことがわかった。
ノリウツギを持続的に利用していくには、挿木や種苗などを使った栽培技術を確立する必要があるため、美唄市の道立林業試験場とともに研究開発に着手しており、5年後までに年間1,000~2,000本の苗木生産を目指している。
併せて、ノリウツギの新たな需要創出にも取り組んでいる。ノリウツギの樹皮を使用する宇陀紙は奈良県吉野町で製造され、年間の必要量は約500kgと限定的だが、この他に切り枝やドライフラワーなど園芸用にも利用できる。また、ノリウツギの花と実は化粧品の材料になると見込まれており、市場開拓の余地がある。
同町の担当者は、「今後は地域おこし協力隊の制度などを利用して新たな担い手も育成していきたい。ノリウツギの栽培化は文化的・社会的に意義が高く、他の地域では真似のできない当町独自の取り組みになる」と話している。
なお、一連の事業の財源には、森林環境譲与税や文化庁の助成金を活用している。
(2022年7月30日取材)
(トップ画像=ノリウツギの樹皮を採取する様子、画像提供:標津町)
『林政ニュース』編集部
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