自然と調和する木造建築物で新たな地平を拓くADX【突撃レポート】

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自然と調和する木造建築物で新たな地平を拓くADX【突撃レポート】

福島県の名山・安達太良山の麓に、「森と生きる。」を理念に掲げ、自然と調和するサステナブルな木造建築物を生み出している注目企業がある。1986年に起源を持つ(株)ADX(エーディーエックス、二本松市、安齋好太郎社長)だ。同社は、環境アセスメントやコンサルティングなどの業務も行いながら、建築・木材業界に新風を送り続けている。

「木造・木質×非住宅×1000m2以下」に特化して成長図る

ADXが手がける木造建築物は、時代の先端を行くと高く評価されている。

2022年の「ウッドデザイン賞」では、同社が(株)Sanu(東京都目黒区)などと連携して応募した「SANU 2nd Home」(以下「SANU」と略が環境大臣賞に輝いた。2023年の「ウッドシティTOKYOモデル建築賞」で最優秀賞を受賞した「KITOKI」(施主は平和不動産(中央区))も同社が設計・施工した。

勢いに乗る同社は、厳しい自然環境でも快適に過ごせる新シリーズ「EARTH WALKER」を4月に発表し、第1弾として(株)ネストアット奄美(鹿児島県大島郡)のリゾートホテル「MIRU AMAMI」が7月末に完成。続いて、シリーズ第2弾となる「SANU」のキャビン「MOSS」(群馬県嬬恋村)が8月10日にオープンした。

同社の特長は、①木造・木質、②非住宅、③50m2以上1000m2以下の建築物に特化していること。その理由について、安齋好太郎社長(47歳)は、「サイズなどを絞り込むことでメンテナンスのしやすい持続的な建築物になるからだ。数年前から今のスタンスに振り切った」と話す。

同社は、建築費に占める木材費の割合にもこだわりを持っている。一般的な住宅で木材に充てられる費用は10%程度だが、同社は40%まで引き上げる目標を設定しており、「木材が利用されればされるほど森にお金が還り、森が豊かになることを目指している」(安齋社長)という。

「森のカルテ」で環境負荷最小化、プレハブ工法で省力化徹底

4月にリリースした「EARTH WALKER」をはじめADXが提供する建築物は森の中で建てられることが多い。このため同社は、企画・設計にあたって自然環境の調査から行うことにしている。LiDAR(ライダー)計測も利用して立木や地形、土壌の状態などを調べ、水中から採取される生物由来のDNAなども調査・分析して、多面的な観点から「森のカルテ」を作成する。

この「森のカルテ」をベースにして、周囲の生態系や環境への負荷を最小化できる建築物をデザインする。

また、設計段階から建築物の維持修繕や解体までを考慮し、使用する部材(パーツ)の1つ1つが分解・交換・再利用できるようにしている。

同社の建築物は、工場でユニットを製造し、現場で組み立てるプレハブ工法を基本にしている。加工工程では、3DデジタルデータやNCルーターなどを駆使し、効率化と省力化を進めている。安齋社長は、「環境や職人への負荷をどうやって抑えられるかを考え、実践するようにしている」と言う。

実物大の「SANU 2nd Home」のキャビン「MOSS」のモデル

群馬県嬬恋村で建てた「SANU」の「MOSS」は、独自開発した高基礎杭工法の上に、8つのユニットを組み合わせて施工した。設計時に実物大のモデル建築物を製作して作業の段取りなどを検証してきた。その結果、1棟はわずか2週間で完成できるようになった。ユニットの製造は、同社が借り受けている郡山市内の工場で行い、分業体制を構築している。

「MOSS」1棟の延床面積は54m2。収容人数は4名。国産材比率は100%。建築費に占める木材費は39%。安齋社長は、「年内に『EARTH WALKER』シリーズで100棟竣工する」と意欲をみせる。

安齋社長「何よりも森が好き」、売上げの1割をR&Dに充当

ADXを率いる安齋社長は、祖父が経営する安斎建設工業の3代目として生まれ、2000年に同社に入社した。その後、2006年にADXの前身となるLife style工房に社名を変更し、2019年に現社名に改称した。幼少の頃から現場で木に触れ、野山に出かけていた。趣味は登山。ゆえに「何よりも森が好き」と笑みを浮かべる。

安齋好太郎・ADX社長

現在、同社には20名の社員が在籍している。施工・開発チームは福島県の本社、設計チームは東京の事務所で働いている。年間売上高は10〜15億円で推移しており、その約1割をR&D(研究開発)の費用に充てている。

安齋社長は、「祖父の時代に培った建築物のメンテナンスや解体の経験が今の技術開発に活きている」と話す。そして、今後の方針として、①森林の購入、②工場の無人化、③週休3日制の実現──をあげた。

①森林の購入では、100ha規模の森づくりフィールドを5か所程度確保し、②工場の無人化は2027年まで、③週休3日制は2030年までに実現する予定だ。

環境配慮型建築物の供給が軌道に乗ってきた同社にとって、これからは事業規模の拡大とともに社会的な影響力の発揮が期待される段階に入る。木造建築に新たな地平を切り拓いてきた安齋社長の“次のアクション”が注目される。

(2024年5月30日、6月30日取材)

(トップ画像=ADX本社の内観)

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『林政ニュース』編集部

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