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松本システムエンジニアリングと協業、「T-Rex」が実演
11月15日の現地研修会は、九州国有林林業生産協会(熊本県熊本市、有馬純隆会長)の主催で行われた。久大林産が保有するフェラーバンチャザウルスやロングリーチ伐倒機、ドローンなどを披露し、会員らとの意見交換を通じて、今後の作業システムのあり方などを検討した。
その中で目玉となったのは、松本システムエンジニアリング(福岡県福岡市、松本良三社長)が開発した林内作業機械「T-Rex」の実演。「T-Rex」は遠隔操作で伐倒から集材、搬出まで一連の作業を行えるホイール(車輪)型多目的マシン。車体の前後とクレーン部、アタッチメント部の計4か所にカメラを装着しており、専用グラス(眼鏡)をかければ、立体的な画面によって、その場にいるような感覚で離れた場所から操作ができる。
同社と松本システムエンジニアリングは、15年ほど前から協力関係にあり、同社が現場目線で要望や注文を出し、松本システムエンジニアリングがそれに応えるというかたちで機械開発に取り組んでいる。その成果として、「T-Rex」などのニューマシンが生み出されてきている。
年間売上高約5億円、約3万3,000m3の素材を適材適所に販売
久大林産の創業は、1995年。素材(丸太)生産を主軸に事業基盤を固め、今では測量から路網開設、伐出、地拵えまでを一貫して行い、チップ材も生産している。また、森林組合と共同で森林経営計画を作成し、周辺の業者とともに造林事業もこなすなど、外部との連携を進めながら事業領域を拡大している。
同社の年間売上高は約5億円。素材生産量は約3万3,000m3、造林面積は約100haという事業量を維持している。林業機械などは約30台を保有しており、20名いる社員の平均年齢は約40歳と若い。
伐出した素材は、適材適所を基本に売り捌いている。一般製材用材は原木市場に出し、合板用材は本州の工場に、集成材用材は佐賀県の工場にそれぞれ出荷している。また、地拵えで発生した枝葉などはチップに加工し、近隣の小規模木質バイオマス発電所に販売している。
社有林を増やして事業量確保、造林のボトルネック化を避ける
久大林産の主な事業現場は、①毎年70haほど入札する国有林、②個人所有者から集約化した山林、③伊万里木材市場(株)(佐賀県伊万里市)が「森林信託」で集約化した山林、④社有林──の4つからなる。

この中で同社は、10年ほど前から社有林の拡大に力を入れている。すでに250haほどの山林を保有しているが、将来的には1,200ha程度の取得を目指している。その理由について、工藤社長は、「安定した事業量を確保するため」と明確に言う。機械の稼働率を高めて採算性を向上させるには、仕事を切らさないことが不可欠。とくに重視しているのは、「造林がボトルネックにならないようにすること」だ。伐ったら植える循環型林業を確立するためには、「造林業者を増やすとともに、通年で働ける環境をつくる」ことが肝要であり、関係者には、「現場がなくなりそうになったらすぐに言って欲しい。都合をつけるから」と呼びかけている。
同社は協力業者とともに5班・約30名体制で造林事業に取り組んでいるが、「それでも手が回らない」のが現状。そこで、来春から植栽・下刈りアタッチメントを導入することにしている。
植栽・下刈りアタッチメント導入へ、デジタルデータを活かす
久大林産が導入の準備を進めている植栽・下刈りアタッチメントも、松本SEとの協業によって開発されたものだ。

植栽作業を行うアタッチメントは、穴あけ機とコンテナ苗を詰めるシリンダー状の機構が一体化しており、地面に穴を掘ってコンテナ苗を植栽する。また、下刈り作業をこなすアタッチメントは、ノコギリ型の刃がバリカンのように駆動して下草などを刈り取っていく。どちらのアタッチメントにも小型のグラップル・バケットが付いており、簡単な路網の補修なども行える。アタッチメントを切り替えるだけで、様々な作業を1台のベースマシンで行えるのがポイントだ。
工藤社長は、「ベースマシンのサイズに合わせて植栽から路網開設まで行えるので稼働率が高まる。植栽位置や施業履歴などの情報も集めやすくなり、相乗効果で生産性が向上するだろう」と期待を寄せる。
同社は、ドローンによる森林資源量の解析や路網開設の計画立案なども手がけており、デジタルデータの利用にも注力していく方針だ。工藤社長は、「現場から得られる最新のデータを活用できる人材を育成して機械化を進めていけば、安全性の高い『無人化林業』につながっていく」と先を見据えている。
(2022年11月15日取材)
(トップ画像=遠隔操作で作業をする「T-Rex」)

『林政ニュース』編集部
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