(後編)新たな事業連携を目指す大分県の4森林組合【遠藤日雄のルポ&対論】

(後編)新たな事業連携を目指す大分県の4森林組合【遠藤日雄のルポ&対論】
(前編からつづく)森林環境譲与税の配分や森林経営管理制度の創設など、林業再生を支援する仕組みが相次いで動き出している中、4月1日付けで「森林組合法の一部を改正する法律」が施行された*1*2。同法改正の最大の眼目は森林組合の経営基盤強化であり、新たに事業譲渡や新設・吸収分割などの手法を用いることが可能になった。これまで森林組合が事業規模を拡大させるためには合併をするしか選択肢がなかったが、これからは地域に組合を残したまま部門ごとの連携を強化してスケールメリットを追求できるようになる。 大分県の日田市・日田郡・玖珠郡・山国川流域の4森林組合は、丸太の供給で足並みを揃える協定販売の検討を本格化させており、改正森林組合法の目的にマッチした先駆的取り組みとしても注目されている。この試みは、これから現場にどのような影響を及ぼしていくのか。その見通しを得るために、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、和田正明・日田市森林組合専務と高村秀樹・大分県林産振興室長に加えて、日田地域の林業振興で陣頭指揮を執っている神鳥浩明・大分県西部振興局農山村振興部長を招き、「対論」を再開した。

伐採・搬出部門の強化も組合連携で、まずヒノキ供給から

遠藤理事長

4森林組合は丸太の協定販売を実現すべく動き出しているが、このほかにも事業連携を検討していることはあるのか。

和田・日田市森林組合専務

たくさんある。現場には、一刻も早く連携して解決しなければならない課題が山積している。

遠藤

優先順位の高い課題を教えて欲しい。

和田

まず対策が必要なのは、立木の伐採・搬出作業だ。
施業集約化、路網整備、高性能林業機械の導入により、現在は何とか安定供給できているが、技術の継承を含めた新規作業員の確保が喫緊の課題になっている。これから地域材の供給力を高めようとしているときに、伐採・搬出部門が弱体化することは何としても避けなければならない。

4森林組合の位置関係
遠藤

組合間の連携を深めることで現状を打開できるのか。

和田

一気に大規模な連携事業を展開することは難しいが、例えば森林組合の市場単体では取扱量の少ないヒノキの安定供給に取り組むことは、すでに4組合で検討を始めている。
ヒノキはスギと違って資源が偏在している。ヒノキ人工林が多く賦存している組合が年間の伐採スケジュールなどに関する計画を樹立し、そこへ他の森林組合の伐採・搬出班を投入するという弾力的な運用が考えられる。

伐採・造林の年間スケジュールをオープン化して弾力対応

遠藤

地域材の伐出量が増えていくと再造林対策の強化が重要になってくる。

和田

ご指摘のとおりだ。ご存じのように、各組合の造林班は、班員の高齢化などによって弱体化が進んでいる。今後、買取林産が増えていくことは必至であり、主伐後の再造林を確実に行っていくためには、現状の組合ごとの造林班という体制にこだわっていてはやっていけなくなるだろう。組合の枠を超えた造林部門での連携が必要になってくる。

神鳥浩明・大分県西部振興局農山村振興部長
神鳥・大分県西部振興局部長

その際に重要なことは、単に人手が足りないから応援に来てほしいという便宜的な対応ではなく、伐採や造林に関する年間スケジュールを各組合が定め、オープン化していくことだ。そのことによって事業量を安定的に確保でき、労働環境の改善などにつなげることができる。

遠藤

伐採・造林の年間スケジュールを立てることは、地域の森林づくりのビジョンを示すことにもなる。

和田

年間スケジュールが共有できれば、各組合が部門ごとに連携してサプライチェーンを形成していくという方向性も考えられるだろう。

高村・大分県林産振興室長

そうした取り組みも後押ししていきたい。大分県では、全国に先駆けて森林組合の合併が行われている。その結果、佐伯広域森林組合のように流域単位で合併し事業規模を拡大するケースが出てきている*3*4。その一方で、今後は合併という手法だけでなく「緩やかな連携」によって事業の効率性やスケールメリットを追求していくことも有効だろう。

神鳥

日田地域の4組合は、それなりの経営基盤をもっており、地域林業の中心的な担い手となっている。その4組合が連携を強化するのは、弱いもの同士が手を結ぶこととは全く意味合いが違う。各組合の“個性”や“独自性”を活かしながら、できる部門から連携を進めていくという現実的な対応を進めることで新たな可能性が出てくるだろう。

各組合の「自主性」を引き出し、次代の森林づくりを推進

遠藤

改正森林組合法の国会審議では、「新たな連携の周知に務め、経営基盤の強化に向けた自主的な取組みを支援する」という附帯決議が採択された(衆・参農林水産委員会)。この「自主的」という文言に注目したい。

高村

現在、全国には617の森林組合がある(2018年現在)。事業を活発に展開している組合もあれば、“休眠”状態の組合があることも事実だ。各組合の実情を踏まえずに一律的な対策を講じても現場は動かないだろう。「自主性」を引き出すためには、ケースバイケースのきめ細かな対応が必要になってくる。

遠藤

どの部門から連携を強化していくかは、各組合を取り巻く地域実情に即して決めていくべきなのだろう。この観点から、日田地域の4組合がまず丸太の協定販売で連携することの意味を改めて考えたい。

和田

日田地域の4組合は、これまで間伐を中心に林産事業を行い、間伐材を有利に販売するために共販所を運営してきた。だが、人工林資源の充実や木材加工工場等の大規模化など最近の状況変化を踏まえると、新しい丸太販売の道をつくる必要がある。その1つの答えが協定販売になる。

遠藤

改正森林組合法は事業連携の強化を打ち出しているが、その前提として、「森林の有する公益的機能の維持増進を図りつつ、林業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない」と規定している。これを日田地域の4組合に当てはめると、協定販売を行うことで山元還元を増やし、次代の森林づくりを確実に行っていくことが求められている。

神鳥

そのとおりだ。端的に言うと、組合員である森林所有者の収入を増やしていかなければ、伐採跡地の造林は進まない。4組合による丸太の協定販売は、現状に突破口を開く重要な取り組みになる。
丸太の協定販売が軌道に乗っていけば、他部門でも連携が広がり、4組合が真の意味での「意欲と能力のある林業経営体」になっていくと期待している。

(トップ画像=日田市森林組合の木材共販所)

『林政ニュース』編集部

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