【譲与税を追う】山梨県大月市

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【譲与税を追う】山梨県大月市

基金を含め財源フル活用で“山の若返り”にドライブかける

大月市を流れる桂川の渓谷に架かる木橋「猿橋」は、日本三奇橋の1つに数えられる。甲州街道きっての名勝だ。ただし、同市を走る中央高速自動車道の「猿橋バス停」付近は、渋滞の名所として知られる。ドライバーの間では、「魔物が棲む」とも囁かれるが、真偽のほどは定かでない。

日本三奇橋の1つ「猿橋」

そんな同市の人口は2万人強。市面積(約2万8,000ha)の約87%にあたる約2万4,000haが森林であり、林業就業者数は70人弱。2022(令和4)年度は、約3,000万円の森林環境譲与税が交付された。

この約3,000万円を同市は、森林所有者の意向調査や地域林政アドバイザーへの業務委託、森林経営管理制度に基づく間伐等の森林施業(約1.3ha)、市有林における危険木の伐採、地元産材の有効利用などの経費に充て、残った約870万円は「豊かな森づくり基金」に積み立てた。2019(令和元)年度からの累計積立額は約4,600万円に上っており、一見すると支出先送りの市町村に類するように映る。

しかし、同市は違う。2023(令和5)年度から譲与税を財源にした複数の新規事業をスタートさせ、「基金も取り崩しながら、高齢級間伐や主伐・再造林などを進める」(担当の産業観光課)ことにドライブをかけている。

新規事業は、山梨県が講じている補助(支援)事業の活用を原則とした上で、荒廃した人工林の手入れや花粉対策苗木への植え替え、集落周辺の森林整備などを支援するもので、補助残や補助対象外の経費について助成し、「森林所有者の負担は実質的にない」(同)ようにしている。

同市内にある人工林(約1万1,600ha)の約8割は9齢級以上に達しており、山の“若返り”を進めて循環利用システムを構築することを最優先課題に据えている。

発電燃料の搬出に3,000円/m3助成、伐出材の出口広げる

大月市が始めた新規事業の中には、同市ならではのメニューがある。それは、木質バイオマス発電燃料の搬出運搬費に対する助成だ。

大月バイオマス発電所(敷地面積は約2万m2)

同市の中心部から車で15分ほど走った笹子町の山裾に、大手ゼネコンの(株)大林組グループが運営する大月バイオマス発電所がある。リニア残土処分場跡地に建設した同発電所は、2017(平成29)年度から稼働しており、発電出力は約1万4,000kWと国内最大級。FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)を利用して東京電力(株)に売電しており、約3万世帯が1年間に消費する電力を賄っている。発電用燃料には、未利用木材や剪定枝、バーク(樹皮)などを使用しており、およそ100km圏内から調達しているが、地産地消を促進するため、譲与税を活用して、同市内から未利用木材を収集・運搬する際には、搬出材積1m3当たり3,000円を補助している。この支援措置を活用して、23年度は2,500m3の未利用木材が同発電所に納入された。これから納入量を増やしていく計画だ。

同市が行っている意向調査では、「森林所有者のほとんどが管理・経営を市に任せたいとしている」(同)という。これに応えて、譲与税を使った森林整備を加速していくためには、伐出材の出口(利用先)を広げる取り組みが欠かせない。同市内には原木市場と製材施設が同居する「甲斐東部木材団地」があり、東京都心まで約80kmと大消費地に近い立地特性もある。「基金も含めて譲与税をフル活用して人工林の価値を高めていく」(同)方針にブレはみられない。

原木が集まる「甲斐東部木材団地」

(2024年4月9日取材)

(トップ画像=大月市役所は消防署と同じ建物にある)

『林政ニュース』編集部

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