(後編)海外にも販路を広げ再造林推進!南那珂森林組合【遠藤日雄のルポ&対論】

宮崎県 鹿児島県 林業 苗木生産・育種

中編からつづく)宮崎県は、スギの素材(丸太)生産量が35年連続で日本一という押しも押されもせぬ「林業県」だ。だが、その同県でも、再造林率は79%(2024年度時点)に止まっており、「再造林率日本一」を目標に掲げて「グリーン成長プロジェクト」を推進する真っ最中となっている*1*2
そうした中で、南那珂森林組合(宮崎県串間市、井上文利・代表理事組合長)は、管内における再造林率が95%前後という突出した水準を維持している。「伐って、使って、植えて、育てて、また使う」ことを実践中の同森林組合は、循環型林業の構築に向けて様々な対策を講じてきており、それらがシナジー(相乗効果)を発揮し始めてもいる。
遠藤日雄・元鹿児島大学教授と、同森林組合の井上組合長、清水賢次・日南事業所事業部長兼支所長、河野壽也・日南事業所第2事業課長兼木材流通促進室長による「対論」は、同森林組合の実績を検証した上で、今後の方向性を議論し、日本林業の次世代モデルを描く段階へと進んでいく。

「Mスターコンテナ苗」の年間30万本生産を目指して体制を強化

遠藤

南那珂森林組合が行っている苗木生産の現状と今後の計画などについて教えて欲しい。

井上組合長

串間市大平の国有地を取得して、20200年度から「Mスターコンテナ苗」の生産を続けている。敷地面積は約2.8haで、間口5.6m、奥行き30mの育苗ハウスを7棟設置している。
宮崎県林業技術センターが開発した「Mスターコンテナ苗」は、活着率が高く初期成長も期待できることから、夏場の過酷な下刈りの回数を減らし、造林作業全体の省力化につながるメリットがある。

遠藤

「Mスターコンテナ苗」の年間生産量はどのくらいになっているのか。

井上

当初は5万本程度だったが、今は12万本を出荷できるようになった。将来は30万本を安定的に生産するようにしたい。

遠藤

育てている苗木の品種は何か。

井上

地元産の優良なスギ品種を使っている。当森林組合は、エリートツリーなどの特定母樹の苗木を育てる特定増殖事業者の認定も受けている。今年(2026年)から特定母樹由来の苗木も出荷し始めている。

優良な苗木生産に取り組んでいる(画像提供:南那珂森林組合)
遠藤

良い苗木をつくるのは、簡単ではないだろう。

清水部長

育苗技術を確立するまでには苦労があった。挿し穂の採り方や発根のさせ方などについて試行錯誤を繰り返した。その結果、挿し穂をしばらく寝かせて発根を促してからコンテナに入れるなど、実践的なノウハウが蓄積され、ようやく良い苗木ができるようになってきた。ただ、苗木の品質向上に関する技術探求は、さらに進めていく必要がある。

遠藤

もっと良い苗木をつくるために、どのような取り組みをしているのか。

清水

苗ハウスの近くに試験林を整備して、優良品種の選抜に向けた経過観察を続けている。特定母樹に指定された苗木以外でも、この地域で昔から植えてきたスギ品種にも優秀なものがある。横張り・幹回りがしっかりして成長も良く、台風時の暴風雨にも耐えられる。このような品種ごとの特性を今後の苗木づくりに活かしていきたい。

「林福連携」や県外からの短期雇用などを通じて新たな担い手を育てる

遠藤

苗木づくりには、細かな手作業がつきものだ。人口減少が続く中で、将来にわたって担い手をどうやって確保していく考えなのか。

井上

苗木生産者の高齢化や廃業なども進んでおり、従来からのやり方を続けているだけでは、打開策は見えてこない。新たな担い手を受け入れ、育てていく取り組みが必要になる。
例えば、苗木生産における軽作業部分については、「林福連携」で行うことも考えられる。

遠藤

「林福連携」とは、林業と福祉との協力を進め、障がいのある人達にも活躍できる場などを整えることだ。

井上

当森林組合では、地元の就労継続支援B型事業所(就業支援事業所SQOL)と連携し、事業所を利用している方々にも苗木づくりに加わってもらっている。労働力不足への対応策になるとともに、SDGs(持続可能な開発目標)の中にある「すべての人に健康と福祉を」や「働きがいも経済成長も」の目標達成にもつながる。社会的な意義も高い「林福連携」の取り組みは、息長く続けていきたい。

遠藤

ほかにも新たな担い手を受け入れることはしているのか。

井上

県外からの就労希望者を1か月の有期で受け入れ、植林に従事してもらうことも行っている。県が短期雇用の支援事業をつくっているので、これを活用している。
さきほども言ったように、将来は30万本の苗木を安定的に生産できるようにしたいが、これを当森林組合だけでやろうとしても現実的ではない。異業種・異分野を含めた多様な人達との連携が不可欠だ。再造林助成金を拠出いただいている商社の関係者とは、育苗ハウスの増設に対する資金協力などについても検討を進めており、将来に向けてネットワークをどんどん広げていきたい。

“山離れ”を食い止めるためには信頼される「受け皿」が不可欠

遠藤

国産材輸出と再造林という一見すると遠く離れた事業を1本の線で結んだような南那珂森林組合の取り組みは、全国的にも参考になるモデルと言える。そこで改めて確認しておきたい。南那珂森林組合の直近の事業実績はどうなっているのか。

河野課長

昨年度(2025年度)における立木の取扱量は約8万1,000m3、製材品の取扱量は約2,000m3で、事業総収益は約28億円になっている。旧日南市森林組合と旧串間市森林組合が合併して新発足した2001年度の事業総収益は約6億円だったので、4倍強の伸びとなっている。

遠藤

そこまで事業規模を拡張できている要因は何なのか。

河野

合併前から林業機械化に力を入れてきており、現在はグラップルやハーベスタ、フォワーダなど約40台の高性能林業機械を備えている。これにより素材生産作業などをかなり効率化できるようになった。
また、再造林コストの低減についても、下刈り省力化実証試験地を設定して、ドローンによる苗木の運搬やリモコン式下刈り機械の導入に加えて、苗木の運搬、植林方法、その後の保育方法などを総合的に考慮した森林づくりにもチャレンジしている。こうした積み重ねが直近の事業実績に結実していると考えている。

遠藤

最後に聞きたい。森林組合の本分は、組合員の所有森林を適切に管理し、次代に残していくことだ。だが、林業経営の低迷から全国的には所有林を手放す、いわゆる“山離れ”が進行している。この流れを食い止めることはできないか。

井上

この地域も小規模な森林所有者が多く、どうやってとりまとめ、将来につないでいくかが長年の課題になっている。
当森林組合もメンバーとなっている地域協議会は、昨年度の「森林の集約化モデル実証事業」(林野庁補助事業)に採択され、約600haのモデル団地を設定してアンケート調査を行った。その結果、「引き継いで山を整備していきたい」という意向を示した所有者は2割ほどで、残りの約8割は経営意欲がない、もしくは連絡がとれなかったり、所有者が不明だった。

遠藤

そうなると、地域の森林をまとめて管理・経営する森林組合のような「受け皿」が益々重要になる。

井上

当森林組合がそのような「受け皿」を目指すとともに、全国的に見れば、所有者が信頼して森林を任せられるような中間的な機関なども必要だろう。森林経営管理制度などを有効に活用し、個々の利害関係にとらわれずに、民と公が連携し、地域の実情に精通した中核的な「受け皿」による新しい体制を構築していくことが必要な時代になっている。

(2026年6月15日取材)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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