8月6日付けで林野庁長官に就任した長崎屋圭太氏*1*2*3は、8月18日に記者会見を行って、当面する課題への対応方針や抱負などを語った。その要点は、次のとおり。(文責:『林政ニュース』編集部)
「森や木の価値そのものを高める」、「まだ風は吹いていない」
56歳での長官就任は、霞が関(中央省庁)のトップとしては異例の若さだ。この点について、本人は「たまたま」と繰り返し、「10年も20年も(長官を)やれるわけではない。先につながる道筋をつけていきたい」と語り、「目線を常に現場に置き、現場の方々に感じ取っていただけるような政策を打ちたい」と意欲を口にした。
当面の課題は、6月5日に閣議決定した新しい森林・林業基本計画*4の実行になる。「これまでの基本計画と違って、価値とか価格というワードがすごく多くなっている」と評し、国内人口の減少などを踏まえて、「量的に拡大する路線だけでは立ちゆかなくなっている。森や木の価値そのものを高めていきたい」との方向性を示した。
具体的な需要開拓分野に挙げたのは、内装材や家具、日用品などだ。「香りや手触りも含めて、自然素材としての良さをきちんとしたエビデンスとともに消費者に示していきたい」と述べ、「環境にいい、脱炭素にいいということばかりに頼ってはいけない。まずモノとしての良さで勝負する必要がある」と強調した。
木材自給率が上昇基調を維持しており森林・林業・木材産業には“追い風”が吹いているとも言われる。しかし、「まだ風は吹いていないと思う」と率直な違和感を示し、「異分野の企業や投資家の方々が興味や関心を高める時代にはなっている。それを本当の“追い風”に変えるためには、私達も変わっていかないといけない」と語調を強めた。
労働安全問題の解決急務、補助金頼みでなく民間投資呼び込む
就任会見で最も長く語ったのは、林業・木材産業の労働安全問題だった。
「昔から課題に思っていることだ」と切り出し、「私が入庁した頃の高性能林業機械の導入台数は全国で300台程度だったが、現在は1万6,000台くらいになっている。製材工場についても、以前は出力150kWで大規模と言っていたが、今は大規模の定義が300kWになった。この30年で規模拡大と生産性向上が大きく進んだのに、死傷年千人率はほとんど変わっていない。林業は全産業平均の8倍から10倍、木材産業も5倍になっている」と問題意識を露わにした。
今後に向けて、「安全を最優先する業界体質にしていかないと林業・木材産業に来てくれる人がいなくなる。しっかりとした安全対策をやっている企業がきちんと報われ、評価されるようにしたい」と語り、「数千万円もする高性能林業機械を買える人達ばかりではない。小規模な人達の役に立ち、安全性も高まる機械の開発や導入も進めたい」と強調した。
その先鞭となる来年度(2027年度)予算概算要求では、「AIを活用した機械など先進性を打ち出せるものを盛り込みたい」と話し、新設された「強く豊かな日本」投資枠については、「青天井の要求ということは、相当吟味した事業でないと認められない恐れもある」と気を引き締めた
目玉要求である「『森の国・木の街』創造連携イニシアティブ事業」については、「税金(補助金等)だけに頼らず外部からの投資を呼び込めるプランを都道府県に作成してもらいたい。先進的な取り組みを重点的に支援できる仕組みにする」と期待を込めた。
国有林問題を9月から議論、広葉樹プラットフォームを来年設立
累積債務の処理問題を抱えている国有林野事業については、「2013年に管理経営と収支を切り離す一般会計化を行ってから13年が経過した。この間に現場の職員がものすごく若返って、30歳以下が2割を超えている」と述べる一方で、「職員の数は13年間で約400人減った。限られた人数で国有林に寄せられている様々な期待にどう応えていけばいいのか、9月から林政審議会を中心にして議論を進めていく」と前を見据えた。

これまで力を入れてきた広葉樹の利活用に関しては、「自分が思っている以上に期待が高かった。期待が高いということは、課題が多いことの裏返しでもある」と言い、「スギやヒノキなどの針葉樹と違って広葉樹は標準化・規格化しづらく国の政策としては避けられてきた。だが、担い手の育成や製材機の更新、サプライチェーンの構築など政策的支援が必要なことは多い」と続けた。
広葉樹利活用の推進母体となるプラットフォームの設立に関しては、「運営体制は一般社団法人を想定し、発起人などと個別に協議を進めている。年が明けたらこういう姿になりますと示せるようにしたい」とのスケジュールを示した上で、「プラットフォームをつくれば何かが解決するわけではない。課題解決に向けたきっかけになる装置にしたい」と位置づけた。
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長崎屋長官の家族は福岡県内に住んでおり、「2〜3週間に一度くらいのペースで帰っています」と話す。多忙に追われる日々の中で気分転換になっているのは、50歳から始めたクラシックギターの演奏。ただ、「歳をとると目が悪くなって楽譜がよく見えない」と苦笑する。
長官室には、いつからかヒノキ製の三味線が飾られている。8月6日の着任後に目に入り、「楽器は弾いてあげないとかわいそうだ」と手に取って音を出してみたという。「人前でできるようなものではないですよ」と謙遜するが、とりあえず手を伸ばしてみるところに、この人の持つ前向きな積極性がよく出ている。
サプライズを伴って発足した長崎屋体制は、まだ踏み出したばかり。今後の動向が大いに注目される。
(2026年8月18日取材)
(トプ画像=就任の抱負を語る長崎屋圭太・林野庁長官)
『林政ニュース』編集部
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