“無償の愛と純粋さ”で森林・木材を活かすGREEN【遠藤日雄のルポ&対論】

“無償の愛と純粋さ”で森林・木材を活かすGREEN【遠藤日雄のルポ&対論】

林業・木材産業を取り巻く状況が急速に変わってきている。戦後の国産材需要を牽引してきた住宅市場が人口減の影響などで縮小過程に入った一方、森林の有する温暖化防止や生物多様性保全といった機能を価値化して売買する取り組みなどが始まっている。今こそ既成概念を取り払って、森林・木材活用のニューロードを描き直す必要がある──こう考えていた遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長のもとに、ある知らせが届いた。それは、2021年3月に発足した一般社団法人GREEN(グリーン)(東京都港区)が従来にないコンセプトで国産材製品のPR活動を展開しているというものだ。とくに、GREEN代表の武田佳代氏は、政財界を中心とした幅広い人脈と積極果敢な行動力を発揮して新風をもたらしているという。東京のど真ん中で一体何が起きているのか。自らの目で確かめるため、遠藤理事長はGREENが拠点を置く港区の東京プリンスホテルに向かった。

高級ホテル内に各地の国産材製品と出会える「木セキ」開設

遠藤理事長が訪れたのは、東京プリンスホテルの1階にある国産材製品の展示コーナー。ヒノキ材を床に敷き、三重県産材を用いたテーブルや吉野材を組み合わせたラック、多摩産材の車椅子、北海道産タモの自転車、紀州杉のロッキングチェア、高知・馬路村産材を使った鞄など様々な“逸品”が並べられている。QRコードオーダーシステムによる購入・注文も可能だ。そこで、武田代表が待っていた。

遠藤理事長

高級ホテルの一角に、このようなコーナーがあるとは驚いた。いつできたのか。

武田代表

今年(2023年)の8月にオープンした。「木セキ」と名づけている。全国各地の生産者からご協力をいただいて、地域材を活かした“奇跡的な製品”を集めて、日本の技術の素晴らしさを広く伝えていく場にすることにしている。

遠藤

どのような人がここを訪れるのか。

武田

誰でも気軽に足を向けられるようにオープンなスペースにすることを心掛けている。また、このホテルは、国内外からの観光客や、政府やビジネス関係者などのVIP(要人等)も頻繁に利用するので、国内だけでなく世界に向けても国産材製品の良さを発信していきたい。

VIPにも躊躇せずに声がけし、情熱と行動力でやってきた

遠藤

VIPもここに来るのか。

武田

政党の会合や国際会議などの出席者には、できるだけ「木セキ」に立ち寄って欲しいと呼びかけている。

遠藤

手応えはどうか。

武田

「木セキ」のメイン製品の1つに、木糸(もくいと)*1*2でつくった無添加の木服「GREEN T」がある。これは岸田首相にも部屋着として着ていただいている。

「GREEN T」をはじめとした木糸製品
遠藤

日本のトップリーダーに着てもらっているのか! どうやって働きかけたのか。

武田

私はここ港区で生まれ育ち、慶應義塾大学文学部を卒業してから米国のカリフォルニア大学バークレー校で学び、英語教師をした後、外務省に入省して中南米局南米課に配属され、2016年のリオ五輪に携わった。そこでSDGsを広げたいと思い、外務省を退省して2018年4月に(株)SOUL FOOD JAPANを創業した。2020年の東京五輪で芝公園から日本の素晴らしさを世界中に発信する予定だった。その際に相談した当時の本郷浩二・林野庁長官には現在、GREENの理事として支えてもらっている。
 
これまで本当に多くの方々に支えていただき、それが私の大きな財産になっている。とにかく情熱と行動力だけでやってきた感じがする。

「ただ木が好きなだけのヲタク」、1歩1歩前進できている

遠藤

GREENのウェブサイトを拝見したら、理事として、先に名前の出た本郷氏や中央区長で(株)山本海苔店副社長の山本泰人氏ら錚々たる人が名を連ねていた。ここに来る前、本郷元長官に「武田代表はどんな人?」と聞いたら、「とにかく純粋な人」という即答が返ってきた。

武田佳代・一般社団法人GREEN代表
武田

私は、ただの木ヲタク。森林や木材に詳しいわけではない。だけど、本当に木が好き。山に捨てられている端材や枝葉が宝物に見える。木片を寝室の枕の下に敷いたり、お風呂に浮かべたりして、五感で感じている。
 
「GREEN T」も、この夏はずっと着ていた。すごく暑い日が続いて、毎日いっぱい汗をかいたが、「GREEN T」は全然べたつかず、匂いも残らなかった。木が持っている調湿作用や消臭作用はすごいなと改めて実感した。

遠藤

なぜ、そんなに木が好きなのか。

武田

多分、人は反対のものに憧れるのだろう。私の実家は、港区で4代続く旧家で、田舎がない。だからなのか、いつか田舎暮らしがしたいと思い続けているし、囲炉裏のある古民家にも憧れる。

遠藤

ただ、そのような思いだけで国産材の利用を拡大しようとしても、現実的には壁が多いのではないか。本郷元長官は、「何度もぶつかって挫折しかけても絶対に諦めないところがすごい」とも話していたが。

武田

一喜一憂の日々はつらかったけれども、徐々に協力していただける方が増えてきた。このホテルでは、10月から木糸でつくったパジャマや木曽檜歯磨きジェルと木製歯ブラシのセットを常備してもらっている。
 
また、虎ノ門ヒルズに入っている(株)電通のオフィスの一部を木質化することもできた。1歩1歩前進できている手応えはある。

環境と経済の両立を追求、笑顔になれる“つながり”拡大へ

遠藤

これから武田代表を中心とした国産材利用の輪をさらに広げていくためには、やはり経済性を追求することが必要だろう。国産材製品などを使うことが、環境面だけでなくビジネス面でもメリットがあるようにしていかなければならない。

武田

私も最近、そう考えるようになってきた。これまで民間企業に勤めたことがなく、公務員しかやったことがないので、ビジネスに通じた方々と連携しながら取り組んでいきたい。
 
経済団体連合会や経済同友会などが都市の木造・木質化に関する提言をまとめるなど、世の中が大きく動いてきている。その中で、ここ港区にシンボリックなずっと行っている。それが実現すれば、日本は変わったと国内外に強いメッセージを発することができる。2025年に開催される大阪・関西万博を木と融合したイベントにすることも重要なテーマだと考えている。VIPと言われる方々を中心に、どんどん働きかけていきたい。

遠藤

ところで、一般社団法人名として「GREEN」を選んだ理由は何か。

武田

カリフォルニア大学バークレー校の級友から「You’re green」と言われたことに由来している。「あなたは未熟だね」という意味だが、未熟であるが故に、問題に真正面からぶつかっていくことができる。

遠藤

なるほど。純粋さと未熟さは武器にもなるわけか。

武田

極論すると、今の企業は儲けることしか考えていない。そこに最大の問題がある。こういう発言をすると「青い」とか言われるが、 そもそも自分達だけの利益を考えることがSDGsに反している。みんながつながって、ウィンウィンの関係をつくらないといけない。「木セキ」をスタートポイントにして、みんなが笑顔になれる“つながり”を広げていきたい。

(トップ画像=約26m2のスペースに様々な国産材製品が並ぶ「木セキ」)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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