(後編)東日本大震災から15年を経た福島の再生に挑む【遠藤日雄のルポ&対論】

福島県 災害

中編からつづく)東日本大震災の被災地で本格的な“再起”に取り組む田子英司・福島県森林組合連合会会長(いわき市森林組合長)は、「この15年間の遅れを15年間かけて取り戻すのでは間に合わない」と言う。この言葉の背後には、単に震災前の状態に「復旧」するだけではなく、未来につながる地域へ「復興」させたいとの強い意志が込められている。では、そのための道筋と森林組合の役割は、どのように描かれているのか。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長との「対論」は、被災地の“再起”を巡る本質論へと近づいていく。

自然の再生力を活かし国内有数のシイタケ原木林を蘇らせる

遠藤理事長

東日本大震災からの本格復興を加速する上で、欠かせないのは、国内有数のシイタケ原木林を蘇らせることだろう。そのために、放射能汚染された広葉樹林を皆伐・再利用し、萌芽更新によってシイタケ原木林を再生する「里山・広葉樹林再生プロジェクト」*1が進められているわけだが、現在の状況はどうなのか。

田子会長

私自身も現場作業に携わっている同プロジェクトの実証エリアが阿武隈高地の川前町内にある。標高約500mのところにある広葉樹林で、伐採後の切り株からの萌芽枝を育成し、将来のシイタケ原木を育てていきたい。

実証エリアの状況を説明する田子英司・福島県森連会長(いわき市森林組合長)
遠藤

滑り出しは順調というところか。

田子

自然の再生力には素晴らしいものがある。これを活用してシイタケ原木林を再生していくことは可能だ。
ただ、手放しで楽観視できる状況ではない。萌芽枝が育って成木となり、20年~25年後にシイタケ原木として出荷できるサイズになったときに、㎏当たり50ベクレルという指標値を下回っているのか。また、マーケットが従来と同様に受け入れてくれるのか、現段階で見通すことはできない。福島県以外からシイタケ原木を調達するルートができて、「もう間に合っています」と言われることだってあり得る。それでも将来の可能性を信じてやるべきことをやっていく。そうすれば自ずと道は拓けていくだろう。

3月下旬にいわき市で本格稼働した木環の杜の「四倉工場」の原木投入ラインにも放射線測定器(白いボックス)が設置されている

いわき市が新たな人材定着支援制度や林地残材活用策などを検討

遠藤

これからの森林・林業・木材産業を展望すると、最も重要な課題は人材の確保・育成だ。福島県を含めた全国共通のテーマと言えるが、どのように取り組んでいく考えか。

田子

人材の確保・育成対策については、国も補助制度などを講じているが、それに加えて地域の実情を踏まえた支援策を上乗せしていく必要がある。
いわき市では、今年度(2026年度)から独自の人材定着支援策を導入する検討を進めている。

遠藤

それはどういう内容なのか。

田子

森林組合を含む林業事業体に就職した人への月額支援金として、3万円を上限に10年間にわたって支給することを検討している。まだ関係者で議論を重ねている段階だが、ほぼ方向性は固まってきている。
また、伐出経費が賄えない林地残材の搬出を促す支援策の検討も行っている。

遠藤

林地残材の滞留が問題視されているのか。その理由は何か。

田子

過去にいわき市で発生した大雨災害で、林地残材が流木となって押し寄せて橋の欄干に引っかかり、氾濫を拡大させたことがあった。同じ過ちを繰り返さないために、林地残材をきちんと搬出して利用する取り組みを支援しようという合意が形成されてきている。
とくに条件の悪い現場では、木質バイオマス発電の燃料用に伐れるところだけ伐って、あとは放置するというケースが見られる。そうした実態を是正していこうという意識が関係者の間で高まってきている。

森林所有者のニーズを汲み取り「頼られる森林組合」になる

遠藤

田子会長は2つの森林組合のトップであるとともに、自己所有の森林を経営・管理する林家でもある。その立場から改めて今後の見通しを聞きたい。

田子

やはり、組合長としての判断軸の根底には、35年以上にわたって林家として歩んできた経験がある。私は1人の森林所有者であるという感覚は絶対になくすことはできない。組合長になってからも、森林組合は組合員のために何ができるかという問いを自らに課し続けてきた。

遠藤

組合員のために取り組むべき優先的事業についてはどう考えているのか。

田子

所有林を次世代に引き継ぐための前提となる境界の確定は、その1つだ。地籍調査などが進まない中で、いわき市森林組合では「地域活動交付金事業(境界明確化事業)」の事業主体となり、年間150ha程度は現場に出向いて杭を打ち、森林所有者と行政側に作成した図面を渡す作業を2019年度から続けている。
また、地区ごとの説明会を森林組合単独で毎年開催し、地権者の了解を取り付けてから作業に着手するようにもしている。

遠藤

全国的には再造林の遅れが問題になっている。

田子

それも森林組合として解決していかなければならない重点課題だ。「伐採してお金が入っても、再造林費に使ったら手元には何も残らない」という感覚を持っている組合員が多い。しかし、補助金などの支援策を活用することで、今の材価でも収益を残すことはできる。こうした状況を一般化していくために、職員とともに勉強をして提案していきたい。
現場には、山の手入れをしたい、伐り出した材を有効活用したいという切実なニーズがある。それに応えるのが森林組合であり、「頼られる森林組合」でなければいけない。これを原点にして、今後も取り組んでいきたい。

いわき市森林組合の新事務所

田子会長が率いるいわき市森林組合は、事務所を移転・改築し、3月末から新たな拠点で業務を始めた。震災から15年、放射能汚染対策に悩まされてきた同森林組合も“再起”に向けてギアを上げる局面を迎えており、田子会長も「ようやく始まった」と口にする。

ようやく本来の林業生産活動に傾注できるようになった同森林組合、そして福島県の森林・林業・木材産業の新たな歩みが注目される。

(2026年3月10日・24日取材)

(トップ画像=川前町内にある「里山・広葉樹林再生プロジェクト」の実証エリア)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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