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男女各5名の協議会を中心に「チャレンジ」と「対話」推進
今年(2021年)4月に掛川市長に就任した久保田崇氏を訪ねて市役所5階の応接室に入ると、お茶の香りに包まれた。壁には、茶畑の写真。さすがは、「お茶のまち」だ。

ただ、同市は、茶産業だけの“一本足打法”でまちづくりを進めているわけではない。久保田市長は、「チャレンジ」と「対話」をキーワードに多様な人材と地域資源を活用する方針を掲げており、林業・木材産業の振興にも力を入れている。その中核となっているのが「掛川市森林経営管理推進協議会」だ。同協議会は、森林環境譲与税の配分が始まった2019年度に発足。委員は、男性5名、女性5名の10名で構成され、年6回のペースで会合を開き、森林づくりの方向性などについて議論を重ねている。これまでに譲与税の活用に関する提言や、PR冊子『かけがわの森林と木材』の制作などを行ってきた。久保田市長は、同協議会を中心に、「いろいろな関係者と意見交換し、森林とかかわる場をつくっていきたい」と話す。
同市では3年前の台風で、風倒木が電線を寸断し、停電が起きた。「森林は木材生産だけでなく様々な価値や機能を持っているが、適切に手を入れていかなければ発揮されない」という久保田市長の問題意識を受け止め、前に進める人材が何よりも必要になっている。幸い、同市には林業・木材産業界と市民側にキーパーソンがいる。
原木価格上昇で山主還元が増加、「一過性にしないこと」が重要
「森林組合は組合員あっての協同組合。組合員の山を気持ちのいい山にする。家族や孫を連れて歩きたくなるようにしてお返しする。それが我々の使命」──掛川市森林組合の榛村航一組合長は、明確に言う。榛村組合長の実父・純一氏(2018年死去)は、市長や組合長のほか日本茶業中央会の会長なども歴任した全国的に著名な林業人だった。航一氏も市会議員などの要職をこなしており、前出の協議会設立にも積極的に関与して、女性枠の拡大などを提言した。

組合長としての榛村氏に、直近の状況を尋ねると、「ウッドショックの影響で原木の値段が上がり、山主に戻す金額も増えた。林業経営にとってプラスに作用していることは間違いない。これを一過性にしないことだ」との答えが返ってきた。
同組合は若い職員が多く、第3回SFAで最優秀賞に輝いた「日本マウンテンバイカーズ」のメンバーもいる。「自分の伐った木で家を建てたいという職員が出てきた。大歓迎だ。このような動きが若い人達に広がっていくといい。もちろん、製材はオールスタッフにお願いする」と榛村組合長は語気を強めた。
米マツ製材から国産材工場にシフト、「脱炭素」はチャンス
榛村組合長が口にしたオールスタッフ(株)は、月150~200m3の自社挽きと外注の賃挽きを行う製材企業だ。同社が産声を上げたのは、1963年。かつて掛川市には5つの森林組合があったが合併する際に製材部門を切り離し、桜木製材(株)として発足した。翌64年には外材輸入が自由化され、社名をオールスタッフに変更、県内最大規模の米マツ製材工場を運営してきた。

現在は国産材工場にシフトしており、使用原木の大半は地場産のスギ・ヒノキになっている。今春はスギの原木価格が1.5倍、ヒノキは2倍に跳ね上がり、プレカット工場などからの注文も増えた。だが、同社の鈴木正三社長は、「急に需要が増えても従来からの仕事があるので、生産量は2割くらいしか増やせない」と率直に話す。「春の注文を秋に延ばしてもらったのでずっと忙しい。ようやく必要なものだけ取り引きされるようになってきた」という状況だ。その中で、鈴木社長が次の事業展開に向けて着目している言葉が「SDGs」や「脱炭素」だ。「地域材利用にとってチャンスが来ている」とみている。
市民主導で「人と森を結ぶプラットホーム」が来春にオープン
掛川市では、鈴木社長の見方に呼応するような市民側の動きが活発化している。同市の倉真地区に拠点を置く時ノ寿の森クラブ(松浦成夫理事長)は、この6月に認定NPO法人となり、企業等とのパートナーシップを拡大していく体制を整えた。同クラブは、植樹や間伐、道づくり等のほか、「森のようちえん」の開催や森林体験施設「ゲストハウス森の駅」のウン運営など、多彩な活動を行っている。

「時ノ寿(ときのす)」とは、松浦理事長が生まれ育った集落周辺の字名で、1ha以下の小規模森林所有者が多数を占める。「とても林業が成り立つ単位ではないが、森林を放置したままでいいわけがない。森林づくりも脱炭素社会も、1人1人の取り組みが積み重なって実現する」と話す松浦理事長は、「人と森を結ぶプラットホーム」を来春オープンする準備を進めている。「誰でも気軽に森と出会える仕掛けを用意して、フォレストライフを掛川から世界に発信したい」という構想が実現すれば、久保田市長が求める「森林とかかわる場」のモデルが誕生することになる。
(2021年 11月9日取材)
(トップ画像=「森林とかかわる場」のモデルを目指す)
『林政ニュース』編集部
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