「バリューバッキング」で丸太の価値を最大化し効率化も図る
日立建機日本が提供しているICTハーベスタは、フィランドに拠点を置くWaratah社が製造している。同社は、2014年からWaratah社の機械を取り扱っている。
Waratah社は、林業機械分野で世界3大メーカーの1つに数えられるJohn Deereグループに属しており、最先端の技術開発を担い続けている。
Waratah社製のハーベスタは、8t〜20tクラスの重機に装着可能で、送材方式はローラタイプ。最大の特長は、「バリューバッキング(Value Bucking)システム」を搭載していることだ。
「Value」は「価値」、「Bucking」は「採材」を意味する。バリューバッキングシステムでは、需要サイドの価格や注文データなどに基づいて、コンピュータが自動的に「最適採材」を行う。機械に乗車しているオペレーターは、樹種を選び、直材、曲がりなどを判断するだけでよく、作業効率が大きくアップする。
また、採材と同時に、樹種別、用途別、長さ別、工場別の丸太材積表などのデータを作成できるので、事務管理コストも低減できる。
細り予測と採材プラン、電子輪尺、カラーマーキングなど備える
バリューバッキングシステムの中核をなす機能は、①造材指示ファイル、②細り予測と採材プラン、③測定用センサと電子輪尺、④カラーマーキングの4つだ。
①造材指示ファイルは、採材にあたっての基本情報を集約したもので、用途、品質(A~D)、直径、長さ、価格を操作ボタンで選ぶことで、優先順位を明確化できる(表参照)。併せて、必要な丸太の本数などを入力すれば、工場サイドの注文に応じた採材も可能になる。

②細り予測と採材プランでは、直前に造材した幹10本分から形状データを取得し、次の幹の細り具合を推測して、自動的に採材プランを作成する。採材プランは伐倒時か玉切り時に表示され、ハーベスタが送材を始めて直径の実測値を得るたびに自動的に更新される。最善のプランで採材できない場合は、次善のプランに変更する機能も備えている。

③測定用センサと電子輪尺は、採材する丸太の正確なデータを取得するために欠かせないものだ。直径はハーベスタのナイフの角度をセンサで計測し、長さは測長ホイールの歯車回転パルスから導き出す。電子輪尺には、長さと直径の校正が同時にできるという機能がある。樹皮の厚さを差し引きして、より精度を高めることも可能だ。
④カラーマーキングは、採材後の仕分け作業を効率化するのに役立つ。事前に仕分けをしたい丸太を選んでおけば、玉切りと同時に自動的に末口にカラー(色)が吹き付けられる。カラーは青と赤の2種類があり、用途について4種類(青・赤・青赤・なし)の区分ができる。
全国各地で導入が進む、データ共有と合意形成でデジタル化推進
バリューバッキングシステムを搭載したWaratah社製ハーベスタは、これまでに全国各地で導入が進んでいる。国(林野庁)が支援する「スマート林業EZOモデル」や「新しい林業」の経営モデル実証事業*1でも北海道、宮城県、岐阜県、山口県、鹿児島県の5道県で採用され、他にも20県以上で研修・実演会などを行ってきている。
日立建機日本(株)の担当課長である野口和也氏(48歳)は、「日本の林業機械化は進んできている。ただ、欧州などと比べるとデジタル化はこれからという段階」と指摘する。野口氏は、高校卒業後に林業機械メーカーに入った後、同社(旧・日立建機レック(株))に転職し、キャリアを重ねた上で、現在のポジションに就いた。

その野口氏は、「バリューバッキングシステムを活用すれば販売価格はm3当たり300~500円アップし、カラーマーキングによって仕分けコストはm3当たり700~800円削減できる」と説明した上で、「材積データなどを活用できれば、サプライチェーン全体のコストダウンも図れる」と続けた。
そのためには、丸太の出し手(素材生産業者等)と受け手(製材工場等)の合意形成が必要になるが、「北海道で2020年から実施した『スマート林業EZOモデル』では一定の成果を得ることができた」と言い、「データの信頼度が高まれば、山元を工場の土場と見なすことも可能になる」と期待を込める。
フィンランドなど北欧では「StanFord」という標準規格によって各種のデータが共有化され、林業のスマート化が進められている。その実情をよく知る野口氏は、「日本も業界全体で取り組んでいけば、北欧並みの林業デジタル化は絶対にできる」と語調を強めた。
(2024年8月4日取材)
(トップ画像=Waratah社製ハーベスタ、画像提供:日立建機日本)
『林政ニュース』編集部
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