土壌藻類を活用したBSC工法で山に緑がよみがえる!【現場を変える】

全国 岐阜県 治山

地球温暖化に伴う豪雨の頻発や地震の多発など、“災害列島”の様相を呈している日本。自然の猛威によって崩れた山地は速やかに復旧し、森林に戻していかなければならない。しかし、急峻な地形や気象の変動などの制約条件に縛られる箇所に緑をよみがえらせるのは簡単ではない。この難事を乗り越えるべく、現場では様々な取り組みが行われているが、“新たな援軍”と言える技術が加わってきた。それは、土壌藻類を活用したBSC工法。既存の技術や工法と共存し“つなぎ”の役割を担うことで、早期緑化から森林再生への道筋を切り拓いている。

環境大臣賞を受賞、在来種を活かし生物相を崩さずに緑化推進

昨年(2024年)8月2日、東京都内のホテルで「第51回環境賞」(国立環境研究所・日刊工業新聞社共催、環境省後援)の「環境大臣賞」受賞記念祝賀会が開催され、約200人が出席した。

栄えある大臣賞に輝いたのは、日本工営(株)(東京都千代田区)と(株)日健総本社(岐阜県羽島市)及び東京農業大学(東京都世田谷区)の産学連携ユニット。受賞理由は、「土壌藻類を活用した自然回復技術の実装」。土壌藻類を緑化用資材として災害跡地などに用いて自然な植生形成を促進する新技術を開発したことに加え、BSC工法として社会実装していることが高く評価された。

挨拶をする江口文陽・東京農業大学理事長兼学長

受賞者を代表して挨拶した江口文陽・東京農業大学理事長兼学長は、「山の斜面などから土壌が流出することによって河川や海洋、地域への環境破壊をもたらしている。BSC工法は、在来種を活かすことで生物相を崩さず、環境にやさしく緑化を進めて土砂の流出を防止できる。日本だけでなく世界各国に広げていけば、地球全体で豊かな生活を導くことができる」と語った。

森林再生の第1歩を担い表面侵食防止、簡単施工で生態系保全

BSCとは、バイオロジカル・ソイル・クラスト(Biological Soil Crust)の略で、土壌微生物によるシート状のコロニーを指す。このコロニーは、糸状菌類や土壌藻類、地衣類及び苔などが地表面の土粒子や土塊と絡まって形成される。

BSCは、植生遷移の初期段階にみられる自然現象で、表面侵食を防止する効果を持つ。BSCの主要構成種である土壌藻類を資材化し、種子吹付工と同じ機材(吹付用ポンプ車等)で斜面に吹き付け、BSCを早期に形成することで、森林再生の第1歩が早く踏み出せる。これがBSC工法であり、沖縄県で赤土対策を進めるために土木研究所(茨城県つくば市)と日本工営が世界で初めて開発し、日健総本社と東京農業大学が加わって実用化を進めてきた。

鹿児島県森林管理署管内でBSC工法によって緑化した治山事業地
(2021年10月に施工後、2022年9月の状況)

BSC工法のメリットは、大きく4つある。

1つめは、施工が簡単なこと。一般的な種子吹付工で使用される緑化用種子をBSC資材(土壌藻類資材)に変えるだけで、法面整形なしでも施工できる。

2つめは、周辺環境に応じた植生遷移を促せること。BSCによって侵食が防止され、周辺から飛来する種子等が活着しやすくなる。

3つめは、在来種等への環境影響を回避できること。土壌藻類は、日本を含めて世界中に存在しており、どこでも在来種が得られる。また、雌雄がなく無性生殖で増えるため、遺伝子撹乱などの心配がない。

4つめは、リル(細溝)からの侵食拡大を防げること。これまでの被覆対策では流水が集まるリル部(筋)から資材が剥離・流失して侵食が拡大するケースがあったが、BSCが侵食を抑える役割を果たす。

BSC工法は、ECO-DRR(生態系を活用した防災・減災)工法としても注目されており、国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)にも登録され、推奨技術にも選定された。具体的な適用箇所としては、山地の荒廃地や既往緑化工等の不良地、国立公園や自然公園などの環境規制の厳しい土地などが想定されている。

“つなぎ役”として相乗効果を高め、無限の可能性を引き出す

BSC工法は、全国各地で約200件の施工実績があり、社会実装にドライブをかける段階に入っている。その先頭に立っているのがBSC資材の生産と供給を担っている日健総本社だ。同社は、微細藻類を活かした健康食品メーカーとして社業を拡大してきたが、社長の森伸夫氏は、「BSC工法による地球環境保全をもう1つの柱に育てる」と明確な方針を打ち出している。とくに、「山の緑化に貢献したい」と意欲を口にする。

森伸夫・日健総本社社長

すでに、山の現場(民有林・国有林)でもBSC工法が100件近く導入されており、その成果を検証しながら新たな利用手法も試みている。昨年11月には、岐阜県の山県市で山奥の土砂崩壊地を緑化するためドローンを使ってBSC資材を散布した。現地は、重機が入れず、資材運搬も難しい箇所であり、関係者は緑化・治山事業の新たな選択肢になると期待を込めている。

山県市の山中で行われたドローンによるBSC資材の散布

森社長は、「BSC工法は“つなぎ役”になれる」と言う。従来からの緑化工法などと組み合わせることで、応用範囲が広がり相乗効果も高まるという意味だ。例えば、種子が流されやすい切土斜面において、BSC資材を併用して種子吹付工を成功させた事例などが報告されている。シカの餌となる外来牧草の種子を使わないBSC工法ならば獣害対策にも有効だ。「微細藻類を活かしたBSC工法には無限の可能性がある」(森社長)──そのポテンシャルを引き出し、現場に定着させるときにきている。

(2025年3月24日取材)

(トップ画像=日健総本社のビルに展示されている微細藻類のサンプル)

『林政ニュース』編集部

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