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11億円余を投じ最新の生産ライン整備、年間原木消費量3万m3へ
苫小牧広域森林組合は、年間約2万4,000m3のカラマツ・トドマツ原木(丸太)を消費して、主に梱包材やパレット材、土木用材、一部建築用材に加工する工場を運営している。だが、稼働から30年以上が経過して老朽化による設備の修繕費などが嵩み、収支を圧迫していた。さらに、2018年の胆振東部地震で機械・設備が損害を受けたため、新工場の建設を決断。約11億2,600万円の事業費を投じて、新しい生産ラインを整備した。

新工場は、ノーマンツーバインドソーやツインオートテーブルなどの最新機械を導入し、省力化と効率化を図った。径13cmから42cmまでの原木を加工でき、道内森林資源の大径木化にも対応できる。当面の間は、新工場と旧工場を同時に稼働させて、年間の原木消費量を3万m3程度まで増やしていく方針。生産したパレット材や梱包材は、地域の農家や商社ルートを中心に販売を強化することにしている。
年間6~7万m3の原木を取り扱い、チップ、梱包材などに利用
苫小牧広域森林組合は、2007年に白老町・胆振東・穂別苫小牧の3森林組合が合併して発足し、むかわ町、厚真町、安平町、苫小牧市、白老町、登別市の6市町を管轄している。管轄する民有林面積は約10万ha、国有林も含めると約17万haにもなる。
道内最大の消費地である札幌市から近く、管内に製紙工場が2か所存在するなど、木材需要が盛んな立地に位置する。

同組合の年間の原木取扱量は約6〜7万m3で推移しており、そのうちの約60%がチップ関連となっている。合併前から広葉樹のチップ生産を行っており、現在も製紙会社とのつながりは太い。残りの40%は梱包材やパレット材、土木用材などに向けられている。

同組合自身は、直営の作業班を持たない。地域の造林会社や素材生産会社、運送会社など約10社、約100名の作業員に伐出作業を委託し、伐り出された原木を一手に引き受けて加工・販売している。
胆振東部地震で甚大な被害受けるも「被災木」で活路を見出す
2018年9月に発生した最大震度7の胆振東部地震は、甚大な森林被害をもたらした。林地崩壊は約4,300haに及び、林道の被災や木材加工施設の損壊など林業被害額は約511億円に達した。被害のほとんどは、苫小牧広域森林組合が管轄する厚真町、安平町、むかわ町の民有林と道有林で生じた。
小坂組合長は、「林道崩壊などによって生産量が減少し、復旧事業で搬出した木材は産業廃棄物とみなされた。経営的な危機に陥った」と当時を振り返る。
窮地に陥った中で光明を見出したのは、地震による被害木の損傷度が低く、“使える”とわかったこと。名称を「被災木」とし、地域内の業者と連携して、これまでに約11万4,000m3の「被災木」をチップや梱包材などとして有効利用してきた。
国や道による治山事業や林道施設の復旧事業も計画通りに進行しており、事業の完了も見えてきた。小坂組合長は、「これから民有林の復旧に向けた事業を本格化していく段階に入る」と意欲をみせている。
カラマツの価格が2万5,000円/m3に上昇、追い風だが「ブレーキも必要」
新工場が稼働し、復旧事業も進んで、苫小牧広域森林組合の経営基盤は固まってきた。需要が高まるカラマツ原木の価格は1m3当たり2万5,000円を超えるなど、山元にも追い風が吹いている。しかし、小坂組合長は、「このままでは植林が追いつかず、ハゲ山が発生する恐れがある」と危機感を隠さず、「これまで外材に頼ってきた部分をすぐに国産材で代替することはできない」と冷静に見通す。

水関連の団体につながりを持つ小坂組合長は、「昔は伐採するなと訴えていた側だったが、今は適切に利用して植えるようにと言っている」と笑う。現在、管内では新たなバイオマス発電所建設の計画が持ち上がっている。「需要増は嬉しいが、木材流通を仕切るところがない。このままでは違法伐採も発生しかねない」と懸念を示す。
管内の人工林の約6割はカラマツ。道内のカラマツの伐期は40年と本州と比べて短く、「伐って植える」の循環が早い。「これまでは一定のバランスがとれていた。だが、伐って植える原則が守れないのであれば、これ以上使わないというブレーキをかけることも必要になる」と話す小坂組合長は、「自治体に配分されている森林環境譲与税をより直接的に森林整備で活用するべきではないか」と語調を強めた。
(2022年5月30日取材)
(トップ画像=最新の加工機械を導入した新製材工場)
『林政ニュース』編集部
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