地域の困り事を解決しながら成長する老舗企業・吉本【突撃レポート】

地域の困り事を解決しながら成長する老舗企業・吉本【突撃レポート】

創業136年目を迎えている老舗企業・(株)吉本(長野県佐久穂町、由井正隆社長)は、県内有数の素材生産業者として知られるだけでなく、地域の困り事や相談を引き受け、新たな成長につなげる役割も果たしている。時代の荒波に揉まれながらも、常に存在感を放ってきた同社の核心には何があるのか。

年間に約2万4,000m3の素材生産、社有林6,000ha、年商は15億円

吉本は、長野県佐久穂町に本社・加工場を構え、群馬県上野村と岩手県岩泉町に事業所を置き、全国7か所に約6,000haの社有林を保有している。社有林は、佐久穂町に987ha、上野村に3,565ha、岩泉町に711haがあり、大半を占める。

主な事業は、素材(原木)生産と、土木用資材・梱包用材・集成材用ラミナなどの製造。このほか、素材及び製品の仕入れ・販売や、造林、社有林の管理、ブルーベリー農園の運営などを幅広く手がけている。年間の売上高は約15億円、社員数は約50名となっている。

年間の素材生産量は、長野県と群馬県で約2万m3、岩手県で約4,000m3の合計約2万4,000m3。このうち約1万5,000m3は国有林などの生産請負になる。

同社は、素材を仕入れて販売する問屋機能も果たしており、年間の取扱高は約2万5,000m3に及ぶ。自社で伐出した素材と併せて周辺の業者らが持ち込んでくる素材を引き受け、佐久穂町の加工場で約半分を土木用資材などにし、残りの約半分は合板用材、集成材用材、チップ用材として販売している。

本社・加工場でつくられた杭丸太

同社が拠点を構える東信エリアは、全国屈指の優良なカラマツ産地として知られ、市場からの引き合いも強い。カラマツ原木は東信木材センター協同組合連合会(小諸市)、土木用資材は双葉林業合資会社(小海町)など実力のあるプレーヤーが揃っているが、販売ルートなどは棲み分けられており、基本的に売り先は被らない。むしろ、足りない原木や製品を融通し合いながらカラマツ林業を支えているのが実情だ。

明治20年創業、初代は国鉄に枕木や木炭を販売し業績を拡大

吉本は、明治20(1887)年に木炭問屋「与志本本店」として創業した。明治43(1910)年の法人化をきっかけに、木炭や鉄道用枕木、杭丸太、電柱などの取引が本格化。その後も事業は拡大し、大正2(1913)年から昭和初期にかけて各地の山林を購入し、その経営に乗り出した。

本社の入口には初代社長の銅像と社訓がある

初代社長の由井定右衛門は才覚のある経営者として知られ、日本国有鉄道などに枕木や木炭、電柱などを販売して業績を伸ばした。ピーク時は北海道から九州まで全国各地に事業所を構え、社員は300名以上を擁し、年間売上高は当時の金額で約30億円以上あったという。

昭和14(1939)年には本社を東京・丸の内に移し、昭和26(1951)年の国鉄80周年記念の式典では第3代日本国有鉄道総裁から感謝状も授与された。その後、平成18(2006)年に本社を長野県に戻して現在に至っている。

本社前に郵便ポストを残しサービス低下防ぐ、地元の信頼厚く

吉本の本社はJR小海線・羽黒下駅の真正面にあり、入口には郵便ポストが立っている。この地域から普通郵便局がなくなりそうになった際に、同社が簡易郵便局になり、郵便ポストなどを残し、サービス機能の低下を防いだ。

吉本の本社の前には郵便ポストがある

このエピソードが物語るように、同社は地域の中心的な企業で、地元からの信頼も厚い。周囲からの頼み事や相談があれば分け隔てなく引き受ける姿勢を変えておらず、6代目になる由井正宏・専務取締役(45歳)も、「幅広い仕事を経験させてもらっている」と笑みを浮かべる。

由井専務は、中央大学を卒業後、旭化成ホームズ(株)の住宅事業部に就職。厳しい営業ノルマを求められる中で実績を重ね、社会人として基礎を固めた後、30歳で吉本に移った。予定通りの転身だったという。

「とくに営業が好き」と話す由井専務は、積極的に全国各地を回っている。これに伴って、仕事量が雪だるま式に増加。「自社のリソースだけでは対応できないので、いろいろな企業や人に頼んで仕事をしている」という。例えば、東京五輪の有明体操競技場(東京都江東区)に使用したカラマツ丸太の納品では、各自治体や素材生産業者と連携し、集成材メーカーの(株)中東(石川県能美市)に納めた。

木工メーカーを買収し異業種とも交流、初代に負けない会社へ

吉本は、令和元(2019)年に木工メーカーの大岳キャビネット工業(有)(長野県佐久穂町、以下「大岳」と略)の株式を取得し100%子会社にした。大岳の社長には由井専務が就任し、精密機械メーカーや物流商社などに向けてオーダーメイドの木製梱包製品を製造・販売している。

由井正宏・吉本専務取締役

大岳の子会社化は、後継者不在に悩んでいた先代社長から同社に相談があって話が進んだという。由井専務は、「日頃から事務所などに足を運び、悩み事などを聞いていたので事情はよくわかっていた」と振り返る。大岳を傘下に納めたことで、「これまで関わったことのない異業種とのつながりが生まれた」と話す由井専務は、「新たな交流を広げながら地域の方々と連携して新しい波を起こしていきたい」と口にする。目指しているのは、「山は遥かに高いが、初代社長の実績に負けないような会社にすること」だ。

(2023年1月19日取材)

『林政ニュース』編集部

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