下刈り作業の自動化に挑む筑波重工&筑波フォレスト【突撃レポート】

東北地方 岩手県 林業機械

下刈り作業の自動化に挑む筑波重工&筑波フォレスト【突撃レポート】

造林作業、とりわけ炎天下に急斜面で行う下刈り作業は過酷であり、いかに省力化・自動化するかが喫緊の課題になっている。このため国内の林業機械メーカーなどは、下刈り作業を軽減するための技術開発に注力しており、国も補助事業などで後押しをしている。その中で、岩手県の筑波重工(株)(洋野町、小田直樹社長)が開発した車高調整式下草刈り機「ハイドロマチック・モア」が注目度を高めている。同社は、造林や素材生産を行う林業会社・筑波フォレスト(株)(八幡平市、同)と連携して、現場のニーズを汲み取りながら、独自のノウハウを詰め込んだ林業機械を世に送り出している。

車高を変えて障害物を乗り越える「ハイドロマチック・モア」

「ハイドロマチック・モア」は、ラジコン操作式の林業機械で、オペレーター(作業者)は、離れた場所から安全に操作をすることができる。サイズは、幅1m53cm、長さ2m80cm、高さ99cm、重さ1,700kg。

最大35度の急斜面でも上り下りができ、人力では作業が難しい場所にも侵入して、下刈り作業や雑木処理などを行える。

大きな特長は、車体を60cmまで上昇させて、伐根などの障害物を迂回することなく乗り越えて走行できること。車高を自在に変えながら移動することで作業スピードが高まり、急斜面でも1時間当たり0.5ha程度の下刈り作業ができる。

筑波重工の小田直樹社長は、「下刈り作業の機械化は、急斜面で障害物がある現場でも自由自在に走行できるベースマシンがなければ絶対にできない」と断言する。

「ハイドロマチック・モア」は、地面との高い接地性を持つキャタピラを装着しており、左右のタイヤは独立して高さを調整できる。等高線と平行に移動するときは、谷側のキャタピラを伸ばすことで車体を水平に保つことが可能だ。

「ハイドロマチック・モア」が発表されたのは、昨年(2022年)の夏。以降、現場でのデモンストレーションを行うたびに、問い合わせなどが増えてきた。今年(2023年)に入って、6月に東北地方の2つの森林組合に各1台ずつ納品される予定だ。

小田社長は、「自分達で造林から素材生産までやっているから、『ハイドロマチック・モア』には現場で使える機能を積み込むことができた。それが評価につながっているのではないか」と手応えを感じている。

各種機械の修理会社としてスタートし、林業会社も立ち上げる

筑波重工は、2009年に林業機械や建設機械、農業機械の修理会社としてスタートした。創業以来、各種機械やトラックなどの架装・改造なども行っている。

「伐倒練習機MTW-01」

2017年には、合同会社ウッズマンワークショップ(Woodsman Workshop LLC、岐阜県郡上市、水野雅夫代表)と共同で初のオリジナル製品「伐倒練習機MTW-01」を開発した。

小田社長は、「イメージさえできればどんな機械でも形にできる。小さい会社だからこそ機動力を高めて開発に取り組める」と持ち味を口にする。

同社には、金属加工から溶接、電子基盤などに関する技術者が在籍しており、汎用品以外の部品は自社で製作している。

この開発体制を構築できたのは、小田社長がハードウェアとソフトウェアのどちらにも精通しているからだ。大学卒業後にパソコン関連会社へ就職した小田社長は、自動車整備士、溶接技士と職を変え、40歳のときに同社を創業した。

機械開発を続けながら現場作業への接近度を高めていった同社は、2021年にグループ会社として筑波フォレスト(株)を設立した。その理由について、小田社長は、「造林の機械化を進めるために、まずは自分達でモデルを示す必要があった。それには伐採から造林までの一貫作業を行えるようにしないといけない」と言う。

筑波フォレストは、年間約1万5,000m3の素材生産を行っており、今年の秋には造林班を本格的に編成する予定だ。

社員数は、筑波重工が18名、筑波フォレストが9名で、両社合わせた年間売上高は約4億円になっている。

新工場稼働、無人化を目指し植栽・伐倒アタッチメントも開発

現在、「ハイドロマチック・モア」はメンテナンスなどアフターサービスの関係から東北地域でしか取り扱っていないが、今後は全国から販売代理店を募り、販路を拡大することを検討している。

これに備えて生産体制を強化する必要があり、筑波重工は今年に入って新工場を稼働させた。「ハイドロマチック・モア」に関しては、「無人化と新アタッチメントの開発がテーマ」と小田社長は方針を示す。

無人化についてはGPS取扱業者と連携し、一度通ったルートであれば自動走行できるシステムを構築中だ。自動掃除ロボットの「ルンバ」のような仕組みを目指している。

小田直樹・筑波重工社長兼筑波フォレスト社長

新アタッチメントは、2種類を開発している。1つは植栽アタッチメントで、機械の両サイドに装着し、穴あけ、植栽、踏み固めまでこなせる。もう1つはフェラーバンチャのような伐倒できるハサミ式のアタッチメントで、伐根処理などを行う(特許申請中)。

小田社長は、「将来的には、『ハイドロマチック・モア』で伐倒、植林、下刈りなどを行い、集材はタワーヤーダで行う作業システムを構築していきたい」との構想を描いている。

(2023年5月22日取材)

(トップ画像=遠隔操作によって下刈り作業が行える「ハイドロマチック・モア」、価格は約1,200万円)

『林政ニュース』編集部

1994年の創刊から早30年! 皆様の手となり足となり、最新の耳寄り情報をお届けしていきます。

この記事は有料記事(2133文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。