森林環境税法案・国会審議のポイント、総務委員会でのやりとりをチェック【緑風対談】

法律・制度 税制

国会のゴタゴタはあるが来年度予算とともに年度内成立へ

林政の新財源となる森林環境税法案(森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律案)*1の国会審議が進んでいる。同法案については、2月15日に衆議院本会議で趣旨説明と質疑が行われ、21日に総務委員会で7時間、27日にも同じく7時間の審議が行われた。本稿を執筆している3月1日の午後には同委員会で可決される見通しだったが、統計不正問題などを巡って与野党のせめぎ合いが激しくなり、予定は後ろ倒しされた。もっとも、森林環境税法案そのものがやり玉に挙がっているわけではなく、ここまでは順調に審議されているといっていいだろう。

基本的に税に関する法案は、来年度予算案と歩調を合わせて審議される。歳入(税)と支出(予算)はリンクしているからだ。来年度予算案は、与党が何としても年度内に成立させるスタンスを崩していない。選挙対策の面からも、国民生活に直結する予算に切れ目が生じるのは避けたいからだ。一方、野党はここぞとばかり抵抗姿勢を強めている。
予算案については、衆議院本会議で可決されれば、参議院で審議が滞っても30日たつと自動成立するルールがある。森林環境税法案も、この流れから外れずに3月末までに可決・成立するという見通しは変わっていない。油断は禁物ではあるが。

横浜市には1億4千万円強いくが渡名喜村には1万数千円

さて、与野党の攻防はそれとして、衆議院で森林環境税法案がどのように論じられてきているのか、ポイントをみていこう。前述したように、舞台は総務委員会。林政関係者にとってはアウェーであり、林野庁からは織田央・森林整備部長が出席し、適宜、答弁を行った。

全般的に物議をかもすような質疑はなかったのだが、ざわめきが起こるやりとりはあった。それは、来年度に初配分される森林環境譲与税がどこにどれだけいくのかという問題。具体的に、上位3位と下位3位を教えて欲しいという質問があり、内藤尚志・自治税務局長*2が「機械的な試算」と断って、次のように答えた。
上位3団体は
1 横浜市 約1億4,200万円
2 浜松市 約1億2,100万円
3 大阪市 約1億1,000万円
下位3団体は
1 沖縄県渡名喜村 約1万数千円
2 沖縄県北大東村 約2万数千円
3 沖縄県粟国村 約2万数千円

何と1万倍以上の開きがある。すでに何度も報じているように、譲与税の配分額は、「私有林人工林面積(5割)、林業就業者数(2割)、人口(3割)」という基準によって算定される。人口の多い大都市に沢山いくのではという観測はあったが、ここまで開きが大きいとは……。1万数千円をもらっても、果たしてどんな施策ができるのか。算定基準を見直すべきとの指摘も出たが、今後の検討課題になりそうだ。

なぜ1000円なのか、大企業に負担を求めない理由は?

森林環境税の税率は、なぜ1,000円なのかという質問もあった。このあたりの制度設計に関しては、総務省が2017年に設置した「森林吸収源対策税制に関する検討会」*3*4で、突っ込んだ議論が行われてきた。林野庁は、私有林の適切な整備に必要な費用として600億円程度という試算を提示。一方で、森林からの便益は国民一人一人にもたらされるのだから、個人住民税均等割の枠組みを活用するのが適当という結論に至り、納税義務者数が6,000万人強ということを総合的に勘案して、1,000円という数字に落ち着いたという経緯がある。

その点に関連して、法人、とくに大企業に負担を求めないのはおかしいではないかという意見もあった。森林の恩恵は法人も等しく受けており、自治体の独自課税では徴収対象にしているという指摘だった。
答弁に立った石田真敏・総務大臣は、企業については二酸化炭素(CO2)などの排出削減を求める温暖化対策税があり、一方、新税は森林整備を通じた吸収源対策の推進が目的であって性格が異なると説明。また、自治体の独自課税は、それぞれの裁量で納税者などを決められるので国が口を挟むものではないが、二重課税問題については5年ごとの見直しを通じて適宜整理されていくだろうとの考えを述べた。

大きな新税アレルギーはなし、国有林改正法案も閣議決定

徴税開始はまだ先とはいえ、新税の創設=負担増という国民生活の機微にかかわる問題だけに、様々な疑問や懸念が沸いてくるのは当然だ。それを丁寧に解消していく時間と手間は欠かせない。
もっとも、総務省が設置した検討会の報告書(2017年11月21日公表)を読み返すと、基本的な論点は網羅され、よく整理されてもいる。2017年末には、総務省が借金をして譲与税を先行配分するという異例の政治決着もあった*5。こうした背景があるからか、衆議院での審議を通じて、新税導入に対するアレルギーはそれほど感じられなかった。

ところで、林野庁にとって森林環境税法案と並ぶ重要法案である国有林改正法案(国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案)*6*7は、2月26日に閣議決定され、国会に提出された。樹木採取権の新設など本邦初の措置が盛り込まれており、国会の場でどう論議されるかが注目される。森林環境税法案とともに、引き続きウォッチしていこう。

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体お主は何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

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