最新版『森林・白書』が「花粉と森林」特集 林業振興や多様な森林づくりとの両立描く

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最新版『森林・白書』が「花粉と森林」特集 林業振興や多様な森林づくりとの両立描く

政府は、最新版となる2023(令和5)年度の『森林・林業白書』を6月4日の閣議で決定し、公表した。特集テーマは「花粉と森林」とし、スギ花粉症対策を推進しながら林業振興や多様な森林づくりに取り組む方向性を示した。

『白書』は、戦後の拡大造林などでスギ人工林面積が増大するとともに花粉症が拡大していることを振り返った上で、少花粉苗木などへの植え替えや花粉発散防止剤の開発、舌下免疫療法の普及など様々な対策を講じていることを解説。多様な森林づくりを進めることが花粉発生源対策にも寄与するとし、林業・木材産業を成長させながら、森林・林業基本計画*1で示している「指向する森林の状態」を実現することが最大のテーマであるとした。『白書』のサイトは、こちら

解説】「スギだけが悪者ではない」─短絡せず巨視的な対策を

岸田首相が昨年(2023年)5月に花粉症対策の強化*2を政権浮揚の目玉に掲げて以降、林野庁の施策や予算は「花粉シフト」が鮮明になった。その流れの中で、『白書』も「花粉と森林」を特集したかたちだ。ただ、1年間を費やしてまとめる年次報告書だけに、花粉症発生の原因や周辺状況などについても丁寧に書き込んだ。

そもそも有史以前から存在しているスギから放出される花粉が、なぜ今になって健康被害をもたらしているのか。『白書』によると、世界で初めて花粉症が発見されたのは19世紀の英国で、イネ科の牧草が原因だった。同時期に米国でブタクサ等による花粉症が社会問題になり、その後、カバノキ科やブナ科などの花粉症が先進国を中心に世界で広がっていった。

日本でスギ花粉症が初めて確認されたのは1964年。アジア初の東京オリンピックが開催され、新幹線が開通し、経済成長を謳歌していたときだ。以降、スギ花粉症患者は増え続けており、花粉飛散量との相関もみられる(参照)。だから「スギをなくせ」という短絡的な思考に陥りがちだが、『白書』は花粉症の発生要因として、「食生活の変化、腸内細菌の変化や感染症の減少などが指摘されている」とも記し、空気中の汚染物質や喫煙、ストレス、都市部における空気の乾燥などが症状を悪化させる可能性にも触れている。 「花粉症は文明病」とも言われる。現代人のライフスタイルそのものが花粉症を引き起こしている恐れはないか。「スギだけが悪者ではない」(林野庁企画課)のであり、巨視的な対策を講じることが求められている。

(2024年6月4日取材)

『林政ニュース』編集部

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