放置林解消へ5,000haの大規模町有林化を進める佐用町【進化する自治体】

放置林解消へ5,000haの大規模町有林化を進める佐用町【進化する自治体】

兵庫県の佐用町(さよちょう)(庵逧(あんざこ)典章町長)が一昨年度(2022年度)から進めている大規模な町有林化事業が注目度を高めている。これまでの2年間で約1億7,000万円を投じ、約840haを町有林化した。10年間で町内の森林面積の5分の1、東京ドーム約1,090個分に当たる約5,000haを町有林にする計画だ。ここまで大がかりな町有林化事業は、全国的にも例がない。思い切った施策を打ち出した背景には、何があるのか。最新状況をお伝えする。

町長の“鶴の一声”でスタート、背景に災害多発と募る危機感

佐用町の面積は、兵庫県の約3.7%にあたる3万744ha。その約8割、2万4,861haが森林で、ほとんどが私有林となっている。

この私有林を対象にした町有林化事業は、庵逧典章町長の「手遅れになる前に町がやる」という“鶴の一声”で始まった。

同町は、これまで何度も台風災害に見舞われてきた。とくに、2009年の台風第9号に伴う豪雨では、死者・行方不明者20名、全・半壊家屋1,700戸以上という甚大な被害が発生。放置状態の私有林が被害を拡大させた一因とされ、町を挙げて森林整備と林業振興を図り、災害に強い森林づくりを進めることが重点課題になった。

だが、長引く材価低迷や所有者不明森林の拡大などで、私有林の手入れに加速度をつけることは現実的に難しい。「外国資本や町外企業などによる買収が進むと私有林の管理はもっと難しくなる」という危機感が庵逧町長の発した「手遅れになる」という言葉に込められている。

通常予算+譲与税で財源確保、土地と立木を評価して買い取り

佐用町の町有林化事業は、所有者が管理に困っている私有林を寄付または買い取りによって町が引き取るという仕組みだ。

事業開始から2か年の実績は表1のとおり。町民の関心は高く、町の通常予算に森林環境譲与税をプラスして町有林化に必要な財源を確保している。今年度(2024年度)も1億3,000万円の予算枠を用意し、すでに295haの取得手続きに入った。同町の井土達也・農林振興課長は、「当初の財務部との打ち合わせでは1億円程度の予算枠だったが、町長査定で増額された」と語る。

私有林の引き取り基準は、地目が山林であること。ただし、①主伐後等に再造林されていない、②所有者の名義が更新されていない、③土壌汚染がある、④共有地の一部──などの場合は対象外となる。

買取価格は、ha当たりの土地単価を10万円に設定。立木については、森林簿や航空レーザ計測などのデータをもとに、スギ・ヒノキの立木密度や材積を勘案して表2のように定めている。

「活用計画」策定後に整備面積が大幅増、木材流通拠点も機能

これから町有林の面積が拡大していくと、効率的に経営・管理する体制づくりが必須となる。そのためには、佐用町がこれまで講じてきた林業振興策を活かし、拡充することが欠かせない。

同町は、2013年度に「森林資源活用計画」を策定し、森林経営計画対象地で間伐を行った所有者にはha当たり5万円を助成する制度をつくった。これが後押しとなって、林業事業体数は同計画策定時の1社から2019年度には3社に増加、年間の搬出間伐面積は20haから150haへ7倍以上に拡大、森林経営計画の認定面積も164.75haから3,543.10haへ大幅に増加した。

また、木材流通拠点として「木材ステーションさよう」を整備し、地域住民が持ち込む間伐材等を1t当たり6,000円(現金3,000円+地域内通貨3,000円分)で買い取り、バイオマス発電用燃料として販売するルートをつくった。併せて、地籍調査の促進や森林GISの導入など森林管理の基盤整備にも取り組んでいる。

「40xの森づくり方程式」でゾーニング、ユーカリ導入を実験

佐用町は、2020年度に「森林資源活用計画」を「森林ビジョン」へバージョンアップし、「さよう、な森。べっちょない!」(佐用の森は大丈夫)をスローガンに掲げて、森林整備のギアをワンランク上げた。

同ビジョンでは、町内の森林を6つにゾーニングして、適地適木の原則に基づき最適な施業を行うことにしている。ゾーニングのベースとして「40xの森づくり方程式」を用い、x=0.5(20年生)の早生樹からx=3(120年生)の長伐期施業までの4段階を設け、針葉樹林は「優良林」、「施業林」、「放置・風倒林」、広葉樹林は「なりわいの森」、「エネルギーの森」、「集いの森」に区分している。

とくに今後を見据えて力を入れているのが、早生樹の活用だ。同町は、4月1日に金融企業の(株)ジャパンインベストメントアドバイザー(東京都千代田区)及び東京農工大学(東京都府中市)との間で早生樹の実証事業に関する協定を締結。オーストラリア原産のユーカリを町内に今年度は約5ha植栽するとともに、廃校となった学校跡地に育苗施設を新設して約4万本の苗を育てる構想を示した。

ただ、従来にない“挑戦”であるだけに、一気に全面展開しているわけではない。協定に先立って、昨年(2023年)試験植栽した約300本のユーカリ苗木は、シカ害で約10分の1しか残らなかった。一部の町民からは外来樹種の導入を不安視する声も上がっている。井土課長は、「ユーカリの導入はまだ実験段階。丁寧な説明を重ねながら、今後の対応方針を決めていく」と話し、「町有林という貴重な財産を活かして何とか林業の新しい可能性を見出したい」と前を向いている。

井土達也・佐用町農林振興課長

(トップ画像=農林振興課が入る佐用町第二庁舎)

『林政ニュース』編集部

1994年の創刊から早30年! 皆様の手となり足となり、最新の耳寄り情報をお届けしていきます。

この記事は有料記事(2262文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。