(後編)日本のエネルギーインフラを支える東京燃料林産【遠藤日雄の新春対論】

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(後編)日本のエネルギーインフラを支える東京燃料林産【遠藤日雄の新春対論】

前編*1からつづく)木炭と薪を“起点”として時代のニーズに応えながらビジネス領域を広げてきた東京燃料林産(株)(東京都千代田区神田錦町)*2は、100年企業に向けた新たな取り組みとして、森林・林業との関わりを一段と強めようとしている。その背景には何があり、どのような将来ビジョンを描いているのか。同社の廣瀬直之・代表取締役社長と遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長との対論は、憂いと希望を交えながら、さらに熱を帯びていく。

黒炭と白炭では製法もユーザーもマーケットも産地も異なる

遠藤理事長

7年ごとに薪ブームが到来しているとは知らなかった。木炭にも根強いニーズがあるということだが、どうやって需要に応えているのか、問屋ビジネスの実情を教えて欲しい。

廣瀬社長

私共は、黒炭問屋、白炭問屋という言い方をする。弊社は、黒炭問屋として成長してきた。黒炭は、炭窯に入れた木材を400~800℃の温度で燃やし、密閉したまま徐々に空気を減らしていって消火し、自然冷却させてつくる。こうすると真っ黒な炭ができ、黒炭と呼ばれ、バーベキュー用などの燃料として使われている。

 

木炭の代名詞とも言われる備長炭(画像提供:東京燃料林産)
遠藤

では、白炭は?

廣瀬

白炭の場合は、1,000℃を超える高温で一気に焼き上げ、樹皮なども燃え尽きるようにする。そして、窯から一気に引っ張り出して、素灰と言われる灰や砂・土を混ぜたものをかけて、窒息消化させる。こうすると、消し粉の灰が白く見え、白炭という名前の由来になっている。いわゆる備長炭と言われるのは、白炭になる。

遠藤

黒炭と白炭のマーケットは違うのか。

廣瀬

黒炭は、主に家庭用燃料として使われてきた。一方、白炭は飲食店などの業務用がメインになっている。

遠藤

黒炭と白炭では、産地も違うのか。

廣瀬

黒炭の代表的な産地は岩手県だ。かつては、島根県も黒炭産地として知られていたが、生産量が減ってきた。
白炭の代表銘柄である備長炭は、和歌山県が本家本元であり、生産技術が確立されている。ただ、和歌山県だけでは需要に応えきれないので、炭焼き職人が高知県や宮崎県に移住して技術移転をしてきた。現在は、和歌山・高知・宮崎の3県が備長炭の3大産地で、大分県や愛媛県の一部でもつくられている。

最大の使命は安定供給、「脱海外・国産が基本」に舵を切る

遠藤

東京燃料林産は黒炭問屋として成長してきたということだが、今は白炭も取り扱っているのか。

廣瀬

そうだ。弊社が白炭を仕入れて飲食店などに販売するようになったのは、約20年前であり、白炭問屋としては後発組になる。

遠藤

黒炭と白炭を様々なユーザーの注文に即して届けるとなると、相当なマーケティング力が必要になる。

廣瀬

必要とされる商品を広く行き渡らせるという方針でやってきた。燃料革命があっても、ユーザーとのつながりは切らさないように石油やLPガスなどを取り扱うようにした。そうして築いてきたネットワークが弊社の財産になっている。商品の種類を問わず、いかに安定供給し続けるかが最大の使命だ。

遠藤

安定供給を維持する上でのポイントは何か。

廣瀬

2004年に中国が木炭の輸出を禁止する措置をとったことが私共に大きな衝撃と教訓をもたらした。中国の禁輸措置を受けて東南アジア諸国から木炭を輸入する動きが広がっていったが、品質・量・価格が安定せず、納期も遅れた。そこで、弊社としては、2008年頃から「脱海外・国産が基本」という方向に舵を切った。

産地とともに木炭をつくり全量買い取る、カギは原木の確保

遠藤

国産の木炭も安定的に調達するのは簡単ではないだろう。

廣瀬

私共のやり方は、各産地に行って、そこの方々と一緒に木炭をつくるというものだ。当然のことだが品質のいい木炭と悪い木炭が同時にできる。これまでの問屋は、いい木炭だけを高く買い取り、悪い木炭は引き取らないという商売をしてきた。しかし、これでは産地の方々の収入が安定せず、生活が苦しくなって、廃業も相次いでいた。
 
そこで弊社は、良品から粗物(あらもの)まで全部買うというやり方を全国的に展開して、年間の生産量を確保していった。また、木炭のユーザーである飲食店での評価を産地にフィードバックして、炭焼きの技術を改善しながら良品比率を高めていった。

遠藤

炭焼きの技術改善にまで踏み込んでいるのか。

廣瀬

炭焼きの現場では、生産性を向上させるためのノウハウが共有されていない側面がある。原木をどこに置き、どうやって炭窯に入れ、どのように窯出しして、できた木炭はどのように保管するかという工程が経験と勘頼みになっているのが実情だ。この流れを整理して、効率的に行えるようにすると収量が上がり、生産者の年収も高められるようになった。

東京燃料林産の本社ビル1階にあるショールーム「炭屋」では全国各地の木炭や関連商品を展示している
遠藤

生産工程が改善されてくると、安定供給のカギは原木の確保になるのではないか。

廣瀬

そのとおりだ。そこで、弊社が創立70周年を迎えた2013年から森林経営にも注力するようにした。現在、自社有林が岩手県の葛巻町に約30ha、東京都の奥多摩町に約60ha、和歌山県のみなべ町に約13haある。
 
全国各地の森林経営者とも連携を深めるようにしており、日本林業経営者協会にも入会させていただいた。
 
いろいろと学ばせていただく中で痛感するのは、先人達の知恵はすごいということだ。森林を壊さずに、伐って育ててきた。江戸時代には、藩主が留山制度をつくり、山奉行を置いて、持続的な森林経営を実践していた。それが戦中・戦後を経て崩壊してしまった。海外から先進的な林業技術を輸入することも大事だが、もともと日本にあった技術や知見を復活させなければいけない。

エネルギー大量消費の生活スタイルを見直し、熱利用推進へ

遠藤

最後に、日本のエネルギーインフラのあり方と森林・林業との関わりについて、廣瀬社長の展望を聞きたい。

廣瀬

そもそも日本でエネルギーを自給することは、非常に難しい。木質バイオマスや太陽光、風力などの再生可能エネルギーをフル活用して賄おうとしても、やはり供給面では限界がある。
 
したがって、需要面、つまり化石由来のエネルギーを大量に消費する生活スタイルを見直していくべきだろう。例えば、都心部でも十分な防火対策を施した木造住宅を増やしていって、暖房には木炭や薪を利用すれば、脱化石燃料を推進できる。最近のマンションなどは部屋を完全に密封してしまうので、せっかくの温暖な気候を感じられない。閉鎖空間をもっと開放型にしていくようなグランドデザインが必要だ。

遠藤

木質バイオマス発電所が全国各地にできたが、熱利用が進んでいないと問題視されている。

廣瀬

木というのは、本来いろいろな付加価値がつけられるものだ。チップにして発電燃料にしているだけでは余りにももったいない。
 
日本のエネルギー政策では、木炭や薪による燃焼エネルギーはほとんど無視されているが、これを熱源として使うことによってエネルギーインフラは格段に強くなる。サステナブルな燃焼エネルギーをミックスして、電力消費量をもっと減らしていくべきだ。
 
かつては、どこの家庭でも木炭を熱源にした炬燵(こたつ)で暖をとっていた。これは、とても環境にやさしい生活の知恵だった。そうした暮らしを再評価していくべきだろう。

(2023年12月7日取材)

(トップ画像=東京燃料林産の本社で議論を交わす廣瀬社長(右)と遠藤理事長)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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