「トイ・ビレッジ構想」を推進する東京都檜原村【進化する自治体】

東京都 森林教育・木育

東京都唯一の村「檜原村」(島しょ部を除く)(坂本義次村長)に全国で8番目となる「檜原 森のおもちゃ美術館」が11月3日にオープンした。都心から車で約1時間半の距離にある同村は、村外から人材や資金を受け入れやすい反面、流出もしやすいという難しい“立ち位置”にある。その中で新設した「森のおもちゃ美術館」には、同村の「トイ・ビレッジ構想」を実現する橋頭堡の役割が与えられている。

村産材を活用した「森のおもちゃ美術館」が新たなPR拠点に

「檜原 森のおもちゃ美術館」は木造2階建てで、延床面積は983.35m2。構造・内装材に村内で生産されたスギ・ヒノキを約400m3使用し、ほぼ100%村産材で建設した。総事業費は約6億円。施工は村内の(株)武田組が手がけ、NPO法人東京さとやま木香會が7名のスタッフで運営している。

館内には枝付き磨き丸太で人工林のような空間がつくられており、薪割りやシイタケの収穫が体験できる木製玩具などが並んでいる。

館内の「森の遊び場」、施設全体が森をコンセプトに整備されている

オープニングセレモニーに着物姿で登場した大谷貴志・檜原 森のおもちゃ美術館館長は、「精一杯運営に努めていく」と宣誓し、来賓の多田千尋・東京おもちゃ美術館館長は、「伐採から玩具などの完成までが檜原村で完結した施設になっている。全国の姉妹おもちゃ美術館と連携して頑張って欲しい」とエールを送った。

坂本村長は、「木育・木材産業のPR拠点ができたのを機に、『檜原村トイ・ビレッジ構想』をさらに推進していく」と意欲を語った。

東京おもちゃ美術館でウッドスタート宣言を即決、新設を推進

坂本村長が口にした「檜原村トイ・ビレッジ構想」(正式名称:檜原村木育・木材産業推進基本構想)は、2018年に策定した事業計画で、①木工・おもちゃ産業の推進、②「檜原 森のおもちゃ美術館」の設立、③人材育成の推進を3本柱に据えている。

同構想の起点は、2014年4月。坂本村長が(株)東京チェンソーズの青木亮輔社長(檜原村)らとともに、「東京おもちゃ美術館」(新宿区)を視察し、同村もウッドスタート宣言することをその場で決めた。同年12月、同村はウッドスタート宣言を行い、おもちゃ美術館開設に向けた作業を本格化させた。坂本村長は、「こういうことはスピードが大事。補正予算を組んで実行した」と当時を振り返る。

坂本義次・檜原村村長

村営住宅や上下水道、ネット環境などを整備、出生率も2.0上回る

坂本村長がおもちゃ美術館の新設事業を推進できたのは、それまで村づくりに取り組んできた実績があったからだ。2003年5月に村長に就任すると、翌6月にはRC造の小学校の1教室を、夏休み中に木質化するプロジェクトに着手。村産材をムク(無垢)、無塗装で使い、計画どおりに仕上げた。「まず公共施設が木を使って、木の良さをアピールすることが大事」という狙いが当たり、以降、他の教室や中学校の教室の内装木質化が進み、図書館も木造にリニューアルした。

2005年には木造村営住宅の建築事業を始め、これまでに43棟が竣工した。また、新築住宅に村産材を利用するとm3当たり2万円、最大50万円の助成が受けられ、合計年齢が90歳未満の夫婦が木造の新築住宅を建てた場合は100万円の補助を行う制度もつくった。

さらに、上下水道やインターネット接続などの生活インフラ整備に60億円以上を投資し、急峻な山の中にあっても不自由さを感じない環境づくりを進めてきた。最近3年間の合計特殊出生率は2.0以上となり、移住者も増加するなど着実に成果が出てきている。

天然乾燥施設や搬出費に補助、“魅せる”森林づくりなどを展開

坂本村長は、住環境の整備と同時に林業・木材産業の振興にも注力してきた。

目玉の1つが天然乾燥施設だ。風通しの良い標高約700mの尾根筋につくられた同施設は、村内の川上から川下に至る23社で構成する「檜原村木材産業協同組合」が利用している。

また、「檜原 森のおもちゃ美術館」に隣接して建てられたおもちゃ工房は東京チェンソーズに貸し出され、村産材を活用した玩具などを製作している。

このほか、村産材の供給量を増やすため、m3当たり1万2,000円の搬出補助金を出すとともに、“魅せる”森林づくりに向けてサツキやモミジ等の植栽を支援するなどアイディア豊かな事業が展開されている。

集中投資が鉄則、職人や事業者を誘致しておもちゃの村を目指す

積極的な“攻めの政策”を進める坂本村長だが、集中投資の一方で、「締めるところは締める」ことも徹底している。自身の報酬は20%カットし、役場職員の雇用整理なども断行してきた。職員には、「予算は無理して使い切ることはない、次年度に繰り越せ」と口酸っぱく言っている。

同村では、林業関連に年間6億円程度の予算を講じている。森林環境譲与税の交付額は年間2,000万円程度なので、大型投資に充てるには十分とはいえず、当面は基金に積み立てて有効活用のタイミングを見極めているところだ。  

今後の展開について、坂本村長は、「空き家を改修して、職人が働ける住居兼工房をつくる。木の価値を高めた製品を生産・販売できる事業者や職人などを誘致したい」と話し、「ある木材関連の企業からは本社を移転したいという相談もいただいている」と続けた。立案から3年を経た「トイ・ビレッジ構想」が大きく羽ばたくときを迎えている。

(2025年11月10日取材)

(トップ画像=尾根筋にある天然乾燥施設)

『林政ニュース』編集部

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