横尾部長「将来は補助金なしでha約90万円の利益が見込める」
「ミスター・センダン」と関係者が信頼を寄せる人物が熊本県林業研究・研修センターにいる。育林環境部長をつとめる横尾謙一郎氏だ。横尾部長は、センダンの施業体系づくりや植栽適地の調査などに先駆的に取り組んでいる。まもなく九州大学の松村順司教授の下で博士号も取得する見込みだ。

その横尾部長は、「センダンは黒字になる。将来的には補助金なしでha当たり約90万円の利益が見込める」と話す。ha当たり400本植えで、4m材を20年伐期で生産する場合、総収入(間伐材、主伐材など)は322万5,000円、総支出(植栽経費、芽かきや下刈りなど保育経費、間伐や主伐の経費など)は233万円となり、約90万円の収益が期待できるという。
横尾部長は、「植栽後2年目まではや下刈りなど手がかかるが、それ以降は間伐と主伐を行うだけ。イニシャルコストを削減することが課題であり、そのためには植栽適地の選定や品種改良、新たな施業技術の開発などが必要になる」と課題を口にする。
2m材のニーズに応え新技術「断幹」を導入、10年伐期が視野に
横尾部長の案内で、熊本県菊池市内のセンダン植栽地を訪ねた。8年生で平均胸高直径は28cm、最大で36cm、平均樹高は14mに達している。ここはもともと柿林だった。隣の畑では家畜のふん尿などが播かれ、チッ素が流れ込む。これが肥料の役割を果たしているという。

センダンの成長は、地力など生育環境に左右される。耕作放棄地のようなところではよく育つ一方、尾根筋などでは成林しづらい。これまでの調査で、日当たりがよく、土壌の養分や水分が豊富で、標高500m以下のところが植栽に適していることがわかってきた。
同県上益城郡甲佐町にある舞の原試験展示園では、県内25系統及び林木育種センター九州育種場の協力を得て収集した県外23系統に及ぶセンダン優良候補木が集められ、優良系統選抜や施業技術に関する研究が行われている。
センダンは、植栽したままでは幹曲がりが出やすく、直材を採ることが難しくなる。そこで、春(4~5月)に頂芽が出たらそれ以外の脇芽をすべて取り除く「芽かき」の作業が必要になる。現在は芽かきを行って4mの通直な材を仕立てることが基本になっているが、最近は需要サイドから2m材が採れれば十分という声も出てきている。
同展示園のセンダンには「断幹」の跡がある。断幹とは、芽かきが終わった段階で下枝より上部の幹を切り、伸長成長を止めることで下枝の枯れ上がりを抑制し、肥大成長を促す施業だ。これにより10年伐期で2m材を採ることも視野に入ってきた。
横尾部長は、「センダンは素直な木で、新技術を試すと必ずフィードバックがある。家具用に使いやすい木目を出す技術なども開発していきたい」と新たなテーマにも挑む構えだ。
センダン造林普及協力員を育成、芽かきの少ない品種開発にも着手
センダンの大口ユーザーである福岡・大川家具工業会(福岡県)は、年間600m3の需要ポテンシャルを有し、その原木を賄うためには200ha以上のセンダン林が必要としている。だが、熊本県内におけるセンダンの植栽面積はまだ約45haにとどまる。このギャップを埋めるため、同県では2020年度から「早生樹センダン普及促進事業」によってセンダン造林普及協力員の育成を進めている。
その先導役となっているのが栴檀の未来研究会(同県天草郡苓北町)の福田国弘代表だ。福田代表は、横尾部長による芽かきの開発に協力した故・福田富治氏の子息で、農業に従事し、森林組合でも勤務した。

現在、福田代表が指導しているセンダン造林普及協力員は8名。30歳代から60歳代の林業経験者や苗木生産者だ。彼らは、福田代表とともに地域の農林家を回りながら、センダンの植栽適地の選定や苗木の植え付け、手入れの仕方などのイロハを伝授している。2年目になる今年度(2021年度)からは、福田代表の代わりに農林家へ出向いて指導を行うなど、人づくりのローテーションが回り始めている。
センダン林を増やす上でボトルネックとなっているのが、前述した芽かきだ。福田代表などの熟練者が行っても1日当たり1haが限度。しかも芽かきをする時期は、天草地域ならば4月上旬から中旬までの2週間と限られる。
今後、芽かきのできる協力員を増やすとともに、北上しながら時期をずらして実施するなどの態勢づくりが必要となる。福田代表は、「県と連携して芽かきの少ない品種の選抜やコンテナ苗による一貫作業システムの構築などにも取り組んでいる。無理のない仕組みでセンダンの“輪”をもっと広げていきたい」と前を見据えている。
(2021年11月29日~12月1日取材)
(トップ画像=舞の原試験展示園にある断幹された5年生のセンダン)
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『林政ニュース』編集部
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