7.2.5. JR貨物を利用してプレカット材を長距離輸送する幸の国木材工業【健全で持続可能な原木・製品輸送の発展に向けて】

九州地方 熊本県 研究 統計・調査

熊本県山鹿市に拠点を置く幸の国木材工業株式会社は、原木の仕入れからプレカット材の加工まで一貫した生産体制を確立している 。2023年7月に環境配慮型住宅に強みを持つハウスメーカー・株式会社Lib Workの子会社となったことを契機に、同社の営業圏は地元から九州全域、さらに関東圏まで大きく拡大した 。この事業拡大に伴って必要となった長距離輸送を効率化するために、同社は日本貨物鉄道株式会社の「JR貨物」を利用し、プレカット材の新たな輸送モデルの構築に取り組んでいる。

事業者名幸の国木材工業株式会社
代表者名瀬口力・代表取締役
所在地熊本県山鹿市鹿北町芋生4197-1
創業年1988年
業種・アンケート種類製品製造事業者(NO.2)
年間原木消費量20,000 m³
輸送主体委託
輸送手段トラック、JR貨物
ヒアリング対応者村木勇一・常務取締役、星子元宏・取締役

7.2.5.1.     第3セクターとして発足し、完全民営化後に経営が安定

同社は、現在は山鹿市に合併された旧鹿北町、鹿本森林組合、地元関係者などによって、地元産木材の高付加価値化と販路拡大を目的に1988年4月に第3セクターとして発足した。その後、全国的に第3セクターの経営課題が顕在化する中で、山鹿市は2006年に「第1次山鹿市行政改革大綱」を策定し、同社の経営自立化に向けた取り組みを開始した。様々な協議や調整を経て、2016年6月の臨時株主総会で自社株取得(3,685万円)が可決され、完全民営化が実現した[i]

完全民営化後、同社の経営は安定的に推移し、年間約600棟分のプレカット材を加工する生産体制を維持している。売上高は8億円前後で推移した後、2022年には約12億円を計上するまでに成長した。

だが一方で、経営層の高齢化や後継者不在という課題を抱えていたため、2023年に同じく山鹿市に本社を置くハウスメーカー・Lib Workの完全子会社となった。Lib Workは、東証グロース市場に上場しており、WEBマーケティングを駆使しながら国産材率98%のサステナブルな家づくりを行っている。

7.2.5.2.     九州から関東までの輸送に伴う課題を鉄道利用でクリア

同社の現在の事業エリアは、九州一帯と千葉県を中心とする関東圏にまで広がっている。販売先の内訳は、親会社であるLib Work向けが約3分の2を占め、残り約3分の1は地域の工務店向けとなっている。千葉県への出荷は2024年1月から本格化し、全体の5%に相当する年間約30棟分のプレカット材を供給している。

輸送体制については、近距離は自社車両、長距離は委託という基本方針のもと、関東への長距離輸送における最適解を模索してきた。トラック輸送については、距離の長さによる高コスト化に加え、ドライバーの労働負担が大きな課題となっており、船舶輸送も含めた各種輸送手段を比較検討した結果、JR貨物の利用に至った。

輸送フローとしては、工場で加工したプレカット材をJR貨物の20フィートコンテナに積載し、熊本駅から関東まで鉄道輸送を行った後、関東の最寄り駅でトラックに積み替え、建設現場へと配送する複合一貫輸送方式をとっている。

図7-2-5-1 JR貨物の20フィートコンテナ(画像提供:幸の国木材工業株式会社)

この輸送方式の最大のメリットはコスト削減にある。トラック輸送と比較して約10%のコストダウンを実現しており、価格競争力の強化に直結している。また、鉄道輸送によるCO₂排出量の大幅削減は、Lib Workが推進するサステナブルな家づくりの理念とも合致しており、企業グループ全体の環境負荷低減戦略に寄与している。

7.2.5.3.     コンテナへの効率的な積載など様々な工夫を重ねる

JR貨物を利用した輸送において、最大の課題となったのはコンテナへの効率的な積載方法の確立だった。20フィートコンテナの内法寸法は長さ6,007mm×幅2,328mm×高さ2,178mm、内容積は30.4、積載重量は8,800kgという制約があり、この中で30坪以下の住宅用プレカット材を効率的に積載するために工夫を重ねている。

プレカット材は、部材によってサイズが不揃いであり、例えば3m材10本と4m材1本を積載するには長さ4mの空間が必要となるため積載効率が低下する。そこで同社は、同サイズの材を可能な限りまとめるなど、積載計画の最適化に取り組んでいる。また、10tトラックと比べてスペ-スの狭い20フィートコンテナに対応して、隙間をつくらない細部まで考慮した積載技術を追求している。

荷役作業においても、コンテナの特殊性を考慮して、同社の従業員が直接荷役を担当するなど、専門的なノウハウの蓄積に努めている。

納期に関してトラック輸送の場合は、九州-関東間を1~2日間でこなせるが、JR貨物の場合は5日間程度を要するため、工程計画の前倒しや到着地での輸送調整など、総合的なスケジュール管理を行っている。

運用面での課題として、過去に大雨による運行停止を経験したケースがあり、コンテナから他の輸送方法への変更が難しく、納期遅延が発生した。これを教訓として、天候予測を踏まえた輸送計画の立案や緊急時の代替手段の確保などを検討している。 同社は、今後も関東圏への出荷量を増やすことにしており、より効率的な輸送体制の構築を計画している。複数物件をまとめた集約輸送や、輸送工程の一部内製化などを通じて、輸送コストの削減などを図っていくことにしている。


[i] 総務省自治財政局公営企業課(2018/3/1)『第三セクター改革等先進事例集』

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(株)日本林業調査会

1954年創業。「林政ニュース」の編集・運営・発行をはじめ、森と木と人にかかわる専門書籍の発刊を行っている。

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