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施工現場で使いやすいスギLVLの天井野縁が主力製品に
新製品を生産できるようになっても、マーケットで通用するかは別問題だ。オロチのスギLVLも、当初は管柱(くだばしら)として、次にマンション間柱用として供給したが苦戦が続き、ようやく天井野縁で活路が開けたということだったが。
天井野縁には、主にロシア産の北洋材やエゾマツなどが使われており、一定の強度がある“長い薄物”が求められている。取引価格も比較的高い。ここにスギLVLが使えるのではないかという提案が流通業者からあり、出荷してみたところ、「これならいける」となった。
ロシアのウクライナ侵攻で一層露わになったが、北洋材製品に代替できる国産材製品にはニーズがあるとかねてから言われていた。そこにスギLVLがマッチしたわけか。
スギLVLが天井野縁として使えることがわかり、弊社の経営も息を吹き返した。長物をつくる機械をフル稼働させて供給量を増やしていったところ、マーケットで定着していった。
天井は、住宅の中でもつくるのが面倒な場所で、施工現場の状況に合わせて部材を切ったりしながら調整することが多い。その中でスギLVLの天井野縁は、使い勝手のいい材料として受け入れられ、弊社の主力製品の1つになっていった。
首都圏のパワービルダーと連携し、オールLVL住宅供給
主力製品の「1つ」ということは、ほかにも売れ筋商品があるのか。
ちょうど天井野縁の出荷が軌道に乗ってきたときに、千葉県柏市に本社を置く広島建設(株)(島田秀貴・代表取締役)と取り引きする機会を得た。同社は、「セナリオハウス」のブランド名で年間800棟近くの木造注文住宅を供給しており、国産材の使用にも積極的に取り組んでいる。

首都圏のパワービルダーとダイレクトにビジネスができるとは、たいしたものだ。
同社から1棟丸ごとLVLでつくるモデルハウスのご提案をいただいた。そこで、スギLVLだけでなくヒノキLVLも使って、土台から天井までカバーできるLVL製品を揃えた。
構造材も造作材もすべてLVLなのか。
そうだ。基本的に1階はヒノキLVL、2階はスギLVLとなっている。おかげさまで、オールLVLの国産材住宅は、月間10~20棟はコンスタントに売れるようになっており、弊社から安定的に出荷できるようになった。
このような出会いに恵まれて、国産材活用のLVLメーカーとして経営が成り立つようになった。
人口減に対応した省力・自動化工場で生産規模の倍増目指す
オロチは、昨年12月の株主総会で新工場を建設する計画を明らかにした。どのように構想しているのか。
今の工場が稼働を始めてから14年が経過し、設備を更新する時期に入ってきている。国産LVLのマーケットが広がってきている一方で、外材製品に関しては調達面での不透明感が強まっている。日南町を中心とした地域は、スギをはじめとした原木の供給力が高いので、増産に向けた検討を進めている。
どのくらいの増産を見込んでいるのか。
弊社が当初計画していた年間5万m3の原木消費量はほぼ達成できたので、10万m3以上に倍増させたい。

そうなると生産性の高い工場にする必要がある。
今は、非常に丁寧にLVLをつくっているので、率直に言って生産性は高くない。新工場では、これまで培ってきたノウハウを投入した上で、1人当たりの生産性が上がるような加工ラインを整備したい。人口減少などもあるので、省力化や自動化を追求した工場にしないと次のステップには進めないだろう。
人手不足を前提にした工場になるわけか。
弊社には約80名の社員がいるが、創業時からのメンバーもいるので、そろそろ退職者も出てくる。新しい人材は常に求めているが、すぐに見つかるものではない。
労働安全対策の面からも、多くの人が加工ラインに張り付いて作業をするという方式は見直していく必要がある。欧米の先進工場のように、ほとんど人がいないような作業環境も念頭に置きながら、新しい加工機械や装置を検討し、導入していきたい。
安全で働きやすく、生産性の高い工場から品質の確かなLVL製品を安定的に供給することが目指す方向になる。
次代の山づくりに向けて地域の枠を超えて新しい循環を目指す
新工場建設の前提として、原木の供給力が高いという話があった。これがオロチの最大の強みだろう。
地域の森林資源を活かすことは、創業時からの最重点課題であり、森林組合や素材生産業者の方々とコミュニケーションを深めてきた。今では、例えば雪で現場に入れないといったネガティブな情報もすぐに届くようになっており、原木調達に関わる意思疎通がスムーズに行われている。

そうした情報のキャッチボールができる地域は少ない。
地域全体としては、主伐・再造林を推進することにしており、昨年末には「日南町樹木育苗センター」が完成した。これから原木がもっと出てくるので、山元への利益還元を増やして、一層の活性化を図っていきたい。それが新しい循環を生み出すとも考えている。
新しい循環とはどういうことか。
原木の供給量や工場の生産量を倍増させてスケールを大きくすることを考えると、地域という言葉に縛られすぎずに、同じ志を持った大きな連携が必要になるだろう。
次代に向けた山づくりを地域の森林所有者だけに担わせることは現実的に難しい。新しい技術や知見を取り入れていくためには、それなりの資金も必要なので、都市部の企業の協力を仰ぐことも考えていかなければいけない。
最近は森林の二酸化炭素(CO2)吸収機能に着目して投資をする動きも出てきている。
そのようなニーズにも応えられるように、森林資源などに関する情報をきちんと整備して、林業に関わりのない企業にも山づくりに参画していただけるような仕掛けをつくりたい。それが新しい循環をつくっていくことになると考えている。
(2022年 1月 28日取材)
(トップ画像=オロチの長尺LVL製造機)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。